女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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七章

32、しばらくこうしていよか

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「うーん、絲さんは可愛いなぁ」

 え? え? 眠っている蒼一郎さんの腕に閉じ込められて、わたしは身動きが取れなくなりました。

 ばたばたを手を動かしても、足をお布団の上でもぞもぞさせても、逃れることができません。
 まさに拘束状態です。

「蒼一郎さん。離してください」
「うん、うん」

 眠ってらっしゃるの? 寝たふりなの?
 分からないままに、蒼一郎さんに頬ずりされました。

 いやーん、ちくちくします。
 
「蒼一郎さんってば」
「うん、そうかそうか、接吻の方がええよな」

 えー、そんなこと言ってませんよ。
 なのに、今度は接吻の嵐です。
 ひたいにも頬にも、鼻にももちろん唇にも。少しかさついた蒼一郎さんの唇に、わたしの顔が襲われています。

「甘い匂いやなぁ。やっぱり赤子がおると、匂いがちゃうなぁ」

 蒼一郎さんの喋り方が、突然明瞭になったんです。

「起きてらっしゃるじゃないですか」
「今起きたとこやで」

 そう言いつつも、やっぱりくちづけは終わりません。

「絲さんからもしてほしいなぁ」
「そんな……琥太郎さんに見られてしまいます」
「ん? よう寝てるで」

 横になったまま肩越しに、蒼一郎さんは琥太郎さんを確認なさいます。
 いえ、分かっているんですけれど。
 やっぱりわたしから接吻なんて恥ずかしいじゃないですか。

「はよしてくれんと、波多野が来てしまうなぁ。『おはようございます』っていうて襖を開けて入ってくるで」
「嘘です。波多野さんは、いきなり襖を開けたりしませんもの」
「むっ、手強いな」

 ふと蒼一郎さんの腕の力が抜けました。ほっとしたのも束の間、今度は手を掴まれたんです。

 何を? と問う間もなく、てのひらにくちづけられます。

「くすぐったいです、蒼一郎さん」
「ふふーん、絲さんが俺に接吻してくれへんからやで」
「朝ですよ」
「夜ならええん? 子育て中やから襲ったりしてへんねんけど」

 うっ、墓穴を掘ってしまいました。
 蒼一郎さんに接吻されるのは慣れていたはずなのに。
 琥太郎さんを宿してからは、そういうのが本当に恥ずかしくて恥ずかしくて。

 まるで娘に戻ってしまったかのよう。

「ええで、盛大に照れてくれても。初々しくて可愛いし。でも、最後は接吻してもらうけどな。もちろん絲さんから」

 にやりと悪人顔で蒼一郎さんが微笑みます。
 こういう時です。彼がヤクザの組長だって認識するのは。

 蝉の鳴き声が聞こえてきて、気温も上がったのかじっとりと肌が汗ばんできました。
 しかも蒼一郎さんったら意地悪だから。ご自分でわたしを閉じ込めているのに「ああ、困ったなぁ。蒸し暑いなぁ」なんて仰るのよ。

「……ん、うう」
「あ、琥太郎さんが起きそうですよ」

 縁側に近い方から聞こえてくる小さな声。横たわっている蒼一郎さんの肩からかろうじて顔を出して、琥太郎さんを確認します。

「早く抱っこしてあげないと、ぐずってしまいます」
「うんうん。早く琥太郎のとこに行く為には、絲さんは何をしたらええんか分かっとうよな」

 もうっ。仕方ありません。
 わたしは意を決して蒼一郎さんに顔を近づけました。
 くちづけなんて本当に久しぶり。

 緊張して、胸がどきどきするけれど。でも、琥太郎さんが泣いたりしないかと、それも心配で。

「ちゃんと集中せんと、一回で終わらへんで」
「は、はい」

 蒼一郎さんの唇に指を触れて、位置を確認します。そうしないと目を開けているのが恥ずかしいから。

「うわ、絲さんに触れられたらときめくわ」

 どうして乙女みたいなんですか。

 瞼をきつく閉じて、そっと唇を重ねます。
 すぐに離すつもりだったのに。
 肩をぐいっと抱きしめられて。しかも、蒼一郎さんの舌がわたしの唇の隙間から入り込んできたんです。

 な、なな、なっ!

 混乱して頭がくらくらしていると、ようやく蒼一郎さんが腕の力を弛めてくれました。
 久しぶりの感触が生々しくて、びっくりしすぎて。わたしは瞬きを繰り返すことしかできなかったんです。

「まぁなぁ、赤ん坊は泣くのは仕事やから。ちょっと泣いたからって、いちいち琥太郎の機嫌をとらんでもええんやで」
「そうなんですか?」
「そもそも絲さんが倒れて寝込んだら、琥太郎も困るやろ」

 そう言って、蒼一郎さんは柔らかく微笑んだんです。
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