颱風の夜、ヤクザに戀して乱れ咲く【R18】

真風月花

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二章

5、痛み【2】

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 男は鞄の中から、紙に包まれた物を取り出しました。
 かさりと音を立てながら、包みがほどかれていきます。

「それは……」
「あんたは商品だからな。俺が犯るわけにもいかんからなぁ」

「至極残念だよ」とぼやきながら、男はそのひんやりとした物を、わたしの頬に当てました。
 長くて、反り返るような形のそれが、張型であると無知なわたしでも分かりました。

 恐ろしくて顔を逸らせば、お腹を打たれます。

「ほら、舌を出せ」
「い、いやです」
「このままだと痛いのは、あんたなんだよ」

 前髪を掴まれて、わたしは無理やり口をこじ開けられました。
 後ろ手に縛られた状態では、もう抵抗も出来ません。

 舌の上に、何か小さな紙のようなものを載せられました。

通和散つうわさんだ。ふのりが付いている。このぬめりを借りれば生娘でも楽に挿入することができる」
 
 唾液に溶けたのでしょうか。舌の上がぬるりとし始めます。
 男はそのねっとりとした液を、張型に塗りつけました。

「ほら、お前も舐めるんだ」
「い……いや」
「その方が楽になるって言ってるんだよ。自分の為にも舐めるんだな」
 
 颱風で明滅する電燈に、てらりと光る張型はとても恐ろしくて。
 なのに、わたしの口に張型が押しつけられたのです。

 意地でも唇を開くまいと、抵抗しました。ええ、当然のことです。
 なのに、男がわたしの胸を握った所為で……あまりのことにわたしは口を開いてしまったのです。

「や……っ」
「ほら、舌を出すんだ」

 格子を挟んだ縁側の向こうには、窓硝子があります。
 外は暗く、雨のしたたる硝子にはわたしの姿が映っているんです。
 電燈に照らされて、仄暗い中。いびつな張型を唇におしつけられた、半裸の女。
 ほどけた髪は乱れ、胸ははだけ、とてもまっとうな娘には見えません。

 でも、これが将来のわたしの姿なんだわ。
 女學校で學友と楽しく笑っていた日々には戻れない。わたしは今後誰と出会っても、顔を背けて他人の振りをしないといけないのですね。

 そう考えて、苦笑が洩れました。
 學友と出会うことなんてあるはずがないのに。わたしは売られたら、一生遊郭から出ることなどできやしないのに。

「そうさ。そうやってすべてを諦めるんだな」
 
 わたしを床に転がすと、男の足がわたしの腿を踏みつけました。
 そして指先が、開かれた秘所に触れてくるんです。

「あ……ぁ、だめ、触れないで」
「その割に、体はいいと言ってるぞ」

 口に張型をねじ込まれ、わたしはえづきました。
 そして「舐めろ」と冷ややかに命令されるのです。

 気持ち悪くて、気分が悪くて。感じてなどいないのに、淫らなお香の所為で、体だけがわたしの意思とは無関係に反応します。
 
「いやぁ、いや……っ、やめてぇ」
「往生際の悪い娘だ。一度は諦めたはずだろ」

 張型が口から外された時、わたしは必死に抵抗しました。
 諦めては駄目。一度売られたら、もう人としても扱ってもらえないのだもの。

 その時です。
 足音が聞こえてきたの。

 廊下でしょうか、木の床を歩く静かな足音。それに合わせるように、ぽた……ぽた、と雫の垂れる音。
 雨漏りとは違い、もっと低い位置からの音です。
 ぎぃ……と軋む音を立てて座敷牢の奥にある扉が開かれます。

「はい、そこまでやで」

 耳に飛び込んできた関西弁に、わたしは心臓が激しく脈打つのを感じました。
 まさか、来てくださったの?
 
 埃くささと甘ったるい香に顔をしかめながら、幾久司さんが入っていらっしゃいました。
 そして、半裸で縛り上げられたわたしを見ると、鬼のような恐ろしい形相になったのです。
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