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二章
4、呼び出し
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わたくしは頭を下げて、先生に謝りました。周囲では、くすくすと忍び笑いが洩れています。
ああ、気を引きしめなければ。先生の声で「翠子さん」なんて呼ばれれば、とっさに「旦那さま」と返事してしまう癖が、すでについているのかもしれません。
「高瀬先生。翠子さんを許してあげてください。おうちの事情で、彼女一人がおじさまの家に越したらしいんです」
「おじさま? 親類ということか」
手を挙げて発言した深山文子さんに、先生が問いかけます。
とっさに彼女についた嘘ですが、大丈夫でしょうか。文子さんはわたくしを庇ってくれているのですが、先生の不興を買わないでしょうか。
「はい。ですから気疲れもあると思うんです」
「分かった。深山くんの意見も尤もだ。笠井さん、あとで……そうだな二十分休憩の時に職員室に来なさい」
「ありがとうございます」と、文子さんにお礼を言うと「よかったね」と文子さんが目配せをしました。
ですが、呼び出されたのが不安です。
二限目の地理の後、わたくしは職員室へと向かいました。
通常の休憩時間は十分ですが、二限目と三限目の間はゆったりと休み時間がとってあります。
これは遠方から通学なさる方が、朝食が早いのでお腹がすくだろうとの配慮から「お十時」という、いわばおやつを食べてもいい時間なのです。
高瀬先生は途中の廊下でわたくしを待っていらっしゃいました。
そこは指導室の前です。
「入りなさい」
「あの、職員室でなくていいんですか」
「笠井さん。少し考えなさい、人の多い場所で込み入った話などできないだろう?」
見上げると、先生の横顔は不機嫌そうです。やはり怒られてしまうのでしょうか。
指導室の中はカーテンが閉じられたままで薄暗いです。そのせいで、少し肌寒くもあります。
背後で鍵がかかる音がしました。無論、わたくしは気にもしませんでした。
先生は一人掛けのソファに腰を下ろし、わたくしにも座るように仰いました。
少し離れた二人掛けのソファに浅く座って、袴を整えます。
「そんなところに座れとは言っていない」
「え、でも。ほかに椅子はありませんが」
とまどうわたくしに、先生は出席簿で自分の膝をぽんっと叩きました。
まさか、そこに座れということなのでしょうか。
でも、ここは学校ですし。
とまどっていると、先生は今度は手招きなさいました。
たぶんですけど「膝に座れ」で、合っているのでしょう。
「失礼いたします」
先生の太腿に横向きになるように座りましたが、これでは顔が見えません。わたくしの目に入るのは、薄明りを透かしたカーテンだけです。
これは違うと、せめて横座りのままで先生の方に顔を向けます。
「正面からだ」
「でもそれは、あまりにもはしたないです」
「なぜ?」
だって、正面を向くには、足を開かないと座れません。先生は細身ではありますが、さすがに男性の太腿、それも両脚ぶんの幅となると厳しいです。
「ああ、すでに五分すぎてしまった。休み時間が終わってしまうぞ。次の授業はなんだ?」
「裁縫です」
「なるほど。裁縫の先生は確か厳しい人だったな。翠子さんは成績も悪い。遅刻などすると、さぞや心証が悪いだろうな」
それは困ります。
ああ、気を引きしめなければ。先生の声で「翠子さん」なんて呼ばれれば、とっさに「旦那さま」と返事してしまう癖が、すでについているのかもしれません。
「高瀬先生。翠子さんを許してあげてください。おうちの事情で、彼女一人がおじさまの家に越したらしいんです」
「おじさま? 親類ということか」
手を挙げて発言した深山文子さんに、先生が問いかけます。
とっさに彼女についた嘘ですが、大丈夫でしょうか。文子さんはわたくしを庇ってくれているのですが、先生の不興を買わないでしょうか。
「はい。ですから気疲れもあると思うんです」
「分かった。深山くんの意見も尤もだ。笠井さん、あとで……そうだな二十分休憩の時に職員室に来なさい」
「ありがとうございます」と、文子さんにお礼を言うと「よかったね」と文子さんが目配せをしました。
ですが、呼び出されたのが不安です。
二限目の地理の後、わたくしは職員室へと向かいました。
通常の休憩時間は十分ですが、二限目と三限目の間はゆったりと休み時間がとってあります。
これは遠方から通学なさる方が、朝食が早いのでお腹がすくだろうとの配慮から「お十時」という、いわばおやつを食べてもいい時間なのです。
高瀬先生は途中の廊下でわたくしを待っていらっしゃいました。
そこは指導室の前です。
「入りなさい」
「あの、職員室でなくていいんですか」
「笠井さん。少し考えなさい、人の多い場所で込み入った話などできないだろう?」
見上げると、先生の横顔は不機嫌そうです。やはり怒られてしまうのでしょうか。
指導室の中はカーテンが閉じられたままで薄暗いです。そのせいで、少し肌寒くもあります。
背後で鍵がかかる音がしました。無論、わたくしは気にもしませんでした。
先生は一人掛けのソファに腰を下ろし、わたくしにも座るように仰いました。
少し離れた二人掛けのソファに浅く座って、袴を整えます。
「そんなところに座れとは言っていない」
「え、でも。ほかに椅子はありませんが」
とまどうわたくしに、先生は出席簿で自分の膝をぽんっと叩きました。
まさか、そこに座れということなのでしょうか。
でも、ここは学校ですし。
とまどっていると、先生は今度は手招きなさいました。
たぶんですけど「膝に座れ」で、合っているのでしょう。
「失礼いたします」
先生の太腿に横向きになるように座りましたが、これでは顔が見えません。わたくしの目に入るのは、薄明りを透かしたカーテンだけです。
これは違うと、せめて横座りのままで先生の方に顔を向けます。
「正面からだ」
「でもそれは、あまりにもはしたないです」
「なぜ?」
だって、正面を向くには、足を開かないと座れません。先生は細身ではありますが、さすがに男性の太腿、それも両脚ぶんの幅となると厳しいです。
「ああ、すでに五分すぎてしまった。休み時間が終わってしまうぞ。次の授業はなんだ?」
「裁縫です」
「なるほど。裁縫の先生は確か厳しい人だったな。翠子さんは成績も悪い。遅刻などすると、さぞや心証が悪いだろうな」
それは困ります。
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