【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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三章

9、この入浴は

 旦那さまがわたくしを横抱きにして、座敷を出ます。わたくしにはモスリンの単衣ひとえが掛けられて、裸身は見えないようになっています。

 渡り廊下を早足で進むと、お風呂用の薪を運んでいた銀司さんが、目を丸くしてわたくしたちを見送りました。
 旦那さまよりも若い銀司さんは、二十代前半でしょうか。力仕事や事務的な用事をなさっている方です。庭の剪定もなさるようで、よく日に焼けています。

 さっきよりは少し落ち着きましたが、それでもやはりわたくしの体の奥に熱が残っています。
 その熱は、もっと触れられたい、酷くしてほしいと不埒なことを訴えてきます。
 もしこの気持ちを旦那さまに知られたら。浅ましいと思われやしないでしょうか。

 あまりにも軽々と抱き上げられたまま運ばれ、この入浴が何の意味を持つのか深く考えることができませんでした。

「先に入っていなさい。歩けるな?」
「は、はい」

 広い浴室で、旦那さまはわたくしを下ろしました。
 足はふらつきますが、支えがなくても転ぶことはありません。
 湯をかけて、檜の大きな浴槽に浸かりました。

 まだ明るい時間だったので、高い位置にある大きな窓から入る日差しが湯を照らし、天井にきらめく水面を映しています。

「きれい」

 わたくしは、思わず呟いていました。
 銀司さんの沸かしてくれたお湯はぬるめで、とても心地よいです。手を動かすと、小さくなめらかな波が立ちました。

 その時、自分の腕の内側に赤い痣があるのに気づきました。
 見れば、胸にもあります。

「ああ、痕がついてしまったな」

 浴室に入ってきた旦那さまが、わたくしを見つめています。
 腰に手ぬぐいを巻いているとはいえ、裸の旦那さまです。わたくしは思わず悲鳴を上げそうになりました。

「しーっ。銀司が驚いて入ってくるぞ。俺はともかく、翠子さんは裸を見られたら困るだろ?」

 人差し指を口の前に立てて、旦那さまが仰います。
 た、確かに、軽率でした。

 旦那さまは豪快に体に湯をかけてから、わたくしの隣に並ぶように入浴なさいました。
 大人が二人はいっても、浴槽はまだ広々としています。

「あの、どうして急にお風呂になんて」
「翠子さんが苦しそうだったからだ」
「あまり答えになっていません」

 苦しかったのは事実です。焦らされて、でも決定的なことはなく、いつまでも熱を抱えたままでしたから。

「まぁ、俺も苦しいからな」
「旦那さま?」
「今日は炎天下で汗をかいた。だからそんな状態で、翠子さんは抱かれたくなかった。俺もそれを考慮して、あまり触れていない。つまりそれが翠子さんの苦しさだよ」

 何を仰っているのか、しばらく理解できませんでしたが。瞬きを繰り返している間に、旦那さまの言葉の真意を理解しました。

「ま、まさか。この入浴は」
「そう。上がったら続きをする。翠子さんもそれで問題ないだろう?」

 わたくしの胸に旦那さまが指を這わせます。
 突然のことに慌てて後ずさると、湯がばしゃんとはねました。

「まぁ、ここまで痕がついてしまったら少々増えてもいいかな」

 旦那さまが、わたくしの肌に残るくちづけの痕を、ひとつひとつ指でなぞっていきました。
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