【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

文字の大きさ
36 / 247
三章

9、この入浴は

しおりを挟む
 旦那さまがわたくしを横抱きにして、座敷を出ます。わたくしにはモスリンの単衣ひとえが掛けられて、裸身は見えないようになっています。

 渡り廊下を早足で進むと、お風呂用の薪を運んでいた銀司さんが、目を丸くしてわたくしたちを見送りました。
 旦那さまよりも若い銀司さんは、二十代前半でしょうか。力仕事や事務的な用事をなさっている方です。庭の剪定もなさるようで、よく日に焼けています。

 さっきよりは少し落ち着きましたが、それでもやはりわたくしの体の奥に熱が残っています。
 その熱は、もっと触れられたい、酷くしてほしいと不埒なことを訴えてきます。
 もしこの気持ちを旦那さまに知られたら。浅ましいと思われやしないでしょうか。

 あまりにも軽々と抱き上げられたまま運ばれ、この入浴が何の意味を持つのか深く考えることができませんでした。

「先に入っていなさい。歩けるな?」
「は、はい」

 広い浴室で、旦那さまはわたくしを下ろしました。
 足はふらつきますが、支えがなくても転ぶことはありません。
 湯をかけて、檜の大きな浴槽に浸かりました。

 まだ明るい時間だったので、高い位置にある大きな窓から入る日差しが湯を照らし、天井にきらめく水面を映しています。

「きれい」

 わたくしは、思わず呟いていました。
 銀司さんの沸かしてくれたお湯はぬるめで、とても心地よいです。手を動かすと、小さくなめらかな波が立ちました。

 その時、自分の腕の内側に赤い痣があるのに気づきました。
 見れば、胸にもあります。

「ああ、痕がついてしまったな」

 浴室に入ってきた旦那さまが、わたくしを見つめています。
 腰に手ぬぐいを巻いているとはいえ、裸の旦那さまです。わたくしは思わず悲鳴を上げそうになりました。

「しーっ。銀司が驚いて入ってくるぞ。俺はともかく、翠子さんは裸を見られたら困るだろ?」

 人差し指を口の前に立てて、旦那さまが仰います。
 た、確かに、軽率でした。

 旦那さまは豪快に体に湯をかけてから、わたくしの隣に並ぶように入浴なさいました。
 大人が二人はいっても、浴槽はまだ広々としています。

「あの、どうして急にお風呂になんて」
「翠子さんが苦しそうだったからだ」
「あまり答えになっていません」

 苦しかったのは事実です。焦らされて、でも決定的なことはなく、いつまでも熱を抱えたままでしたから。

「まぁ、俺も苦しいからな」
「旦那さま?」
「今日は炎天下で汗をかいた。だからそんな状態で、翠子さんは抱かれたくなかった。俺もそれを考慮して、あまり触れていない。つまりそれが翠子さんの苦しさだよ」

 何を仰っているのか、しばらく理解できませんでしたが。瞬きを繰り返している間に、旦那さまの言葉の真意を理解しました。

「ま、まさか。この入浴は」
「そう。上がったら続きをする。翠子さんもそれで問題ないだろう?」

 わたくしの胸に旦那さまが指を這わせます。
 突然のことに慌てて後ずさると、湯がばしゃんとはねました。

「まぁ、ここまで痕がついてしまったら少々増えてもいいかな」

 旦那さまが、わたくしの肌に残るくちづけの痕を、ひとつひとつ指でなぞっていきました。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】女当主は義弟の手で花開く

はるみさ
恋愛
シャノンは若干25歳でありながら、プレスコット伯爵家の女当主。男勝りな彼女は、由緒ある伯爵家の当主として男性と互角に渡り合っていた。しかし、そんな彼女には結婚という大きな悩みが。伯爵家の血筋を残すためにも結婚しなくてはと思うが、全く相手が見つからない。途方に暮れていたその時……「義姉さん、それ僕でいいんじゃない?」昔拾ってあげた血の繋がりのない美しく成長した義弟からまさかの提案……!? 恋に臆病な姉と、一途に義姉を想い続けてきた義弟の大人の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...