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四章
14、蛍なのに
お風呂から上がり、旦那さまはお酒を召し上がっておられます。
わたくしは、さすがに就寝前なのでジュースは控えることにしました。お茶も濃いと目が冴えてしまうので、冷ました白湯をいただいています。
「湯冷ましか。味気ないものを飲んでいるな」
「サイダーが恋しいです」
暗い庭に仄かな明かりを感じて、わたくしは視線を前栽へと向けました。木々の葉の上で、明滅する光があります。
「旦那さま。蛍です」
「へぇ、この庭で見られるとは珍しいな。もしかして翠子さんについて来たのかもしれないぞ」
「白湯を飲むでしょうか」
わたくしは縁側に、湯呑みを置きました。なのに旦那さまは「なぜ?」と真顔で問われます。
「小川の代わりです」
じっと縁側で待っていると、蛍が明滅しながら飛んできて、湯呑みのふちにとまりました。
「ほら、旦那さま。やっぱりお水が欲しいんですよ」
「本当に翠子さんについて来たようだな」
そう仰ると、旦那さまはわたくしの体を引き寄せました。正座していた足が崩れ、浴衣の裾が乱れます。
「だ、旦那さま……っ」
いきなり唇をふさがれて、旦那さまにのしかかられます。男物の浴衣のざらりとした感触が、頬に触れました。
お酒の味のするくちづけです。
ぼんやりとそう考えていると、旦那さまの指がわたくしの唇に触れました。仰向けになった状態で、口を開けさせられます。
「どう、して?」
「飛びながら光る蛍は雄なんだ。あなたを見せたくない」
「蛍に嫉妬なんて、変です」
「だろうな。俺はあなたに関してだけは、嫉妬深くなるみたいだ」
旦那さまの指が、わたくしの舌を撫でます。接吻とも違う、体の内部をじかに触れられている感覚に、背筋がざわりとしました。
「や……あぁ」
指で舌に触れられているのに、さらに旦那さまはくちづけまでなさいます。
まるで口の中を犯されているような、被虐的な心地になります。
「気持ちいい?」
「ふ……あっ、あ……んぅ」
「ちゃんと答えて」
無理を仰らないでください。そう訴えたいのに、ろくに口を閉じることもできない状態で、唇の端からは、はしたなくも唾液がこぼれます。
「翠子さん。返事は?」
「き、も……ち、いい、です」
わたくしは必死で、旦那さまの浴衣の袖にしがみつきました。
「ああ、やはり恍惚を感じるあなたはとても美しい。こんなあなたを、誰にも見せるわけにはいかないな」
胸や敏感な箇所に触れられているわけではありません。浴衣だって、着崩れてもいません。
なのに、わたくしはまるで愛撫されているかのように、全身が甘美な痺れに囚われました。
ようやく口から、旦那さまの指が引き抜かれました。
なのに、すぐに貪るようにくちづけられます。
息もつけないほどの激しい接吻に、わたくしは必死で応じました。
「あなたは、本当に……困った子だ」
「翠子は、悪い子ですか?」
「まったくな。あなたといると、眠れなくなりそうだ」
少し会話しただけで、また旦那さまにくちづけられます。
このお家に来る前よりも、わたくしの唇はふっくらしているのではないでしょうか。
旦那さまに、昼夜を分かたず接吻されているのですから。
「困ったな。まだ夜も更けていないからな」
「夜遅くないと、なぜ困るんですか?」
「せっかく風呂に入ったのに、またあなたを抱きたくなる」
低い声で、耳元で囁かれました。男性に妖艶なんて言葉は相応しくないかもしれませんが。
わたくしを求める旦那さまは、自分ではご存じないでしょうが。得も言われぬ色気が滲んでいらっしゃいます。
わたくしは旦那さまの背中に腕をまわしました。
それが返事の代わりです。
「今夜はもう家に誰もいない。どんなに声を上げても、恥ずかしがることもない」
わたくしは小さくうなずきました。
わたくしは、さすがに就寝前なのでジュースは控えることにしました。お茶も濃いと目が冴えてしまうので、冷ました白湯をいただいています。
「湯冷ましか。味気ないものを飲んでいるな」
「サイダーが恋しいです」
暗い庭に仄かな明かりを感じて、わたくしは視線を前栽へと向けました。木々の葉の上で、明滅する光があります。
「旦那さま。蛍です」
「へぇ、この庭で見られるとは珍しいな。もしかして翠子さんについて来たのかもしれないぞ」
「白湯を飲むでしょうか」
わたくしは縁側に、湯呑みを置きました。なのに旦那さまは「なぜ?」と真顔で問われます。
「小川の代わりです」
じっと縁側で待っていると、蛍が明滅しながら飛んできて、湯呑みのふちにとまりました。
「ほら、旦那さま。やっぱりお水が欲しいんですよ」
「本当に翠子さんについて来たようだな」
そう仰ると、旦那さまはわたくしの体を引き寄せました。正座していた足が崩れ、浴衣の裾が乱れます。
「だ、旦那さま……っ」
いきなり唇をふさがれて、旦那さまにのしかかられます。男物の浴衣のざらりとした感触が、頬に触れました。
お酒の味のするくちづけです。
ぼんやりとそう考えていると、旦那さまの指がわたくしの唇に触れました。仰向けになった状態で、口を開けさせられます。
「どう、して?」
「飛びながら光る蛍は雄なんだ。あなたを見せたくない」
「蛍に嫉妬なんて、変です」
「だろうな。俺はあなたに関してだけは、嫉妬深くなるみたいだ」
旦那さまの指が、わたくしの舌を撫でます。接吻とも違う、体の内部をじかに触れられている感覚に、背筋がざわりとしました。
「や……あぁ」
指で舌に触れられているのに、さらに旦那さまはくちづけまでなさいます。
まるで口の中を犯されているような、被虐的な心地になります。
「気持ちいい?」
「ふ……あっ、あ……んぅ」
「ちゃんと答えて」
無理を仰らないでください。そう訴えたいのに、ろくに口を閉じることもできない状態で、唇の端からは、はしたなくも唾液がこぼれます。
「翠子さん。返事は?」
「き、も……ち、いい、です」
わたくしは必死で、旦那さまの浴衣の袖にしがみつきました。
「ああ、やはり恍惚を感じるあなたはとても美しい。こんなあなたを、誰にも見せるわけにはいかないな」
胸や敏感な箇所に触れられているわけではありません。浴衣だって、着崩れてもいません。
なのに、わたくしはまるで愛撫されているかのように、全身が甘美な痺れに囚われました。
ようやく口から、旦那さまの指が引き抜かれました。
なのに、すぐに貪るようにくちづけられます。
息もつけないほどの激しい接吻に、わたくしは必死で応じました。
「あなたは、本当に……困った子だ」
「翠子は、悪い子ですか?」
「まったくな。あなたといると、眠れなくなりそうだ」
少し会話しただけで、また旦那さまにくちづけられます。
このお家に来る前よりも、わたくしの唇はふっくらしているのではないでしょうか。
旦那さまに、昼夜を分かたず接吻されているのですから。
「困ったな。まだ夜も更けていないからな」
「夜遅くないと、なぜ困るんですか?」
「せっかく風呂に入ったのに、またあなたを抱きたくなる」
低い声で、耳元で囁かれました。男性に妖艶なんて言葉は相応しくないかもしれませんが。
わたくしを求める旦那さまは、自分ではご存じないでしょうが。得も言われぬ色気が滲んでいらっしゃいます。
わたくしは旦那さまの背中に腕をまわしました。
それが返事の代わりです。
「今夜はもう家に誰もいない。どんなに声を上げても、恥ずかしがることもない」
わたくしは小さくうなずきました。
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