【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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六章

2、午後三時

 時計を見ると、まだ三時を過ぎたところです。
 お部屋にはおやつの琥珀糖が置いてあります。白と、それに黒砂糖を用いたまさに琥珀色をした二色が品よく四角い皿に載っています。
 外側が乾燥してしゃりしゃりとした糖分を感じることができ、中は水分の残る硬めのゼリィに似ています。
 触感も楽しく、目にも美しくて好物なのですが。

 いかんせん今日は味がよくわかりません。

 わたくしは日の高い内からお風呂に入るように言われ、汗を流してきました。

「待たせたな、翠子さん」

 廊下側の襖を開けて、湯上りの旦那さまが入っていらっしゃいます。琥珀糖を前にしたわたくしを、じろじろと眺めます。

「ふむ。これなら抵抗されないかな」
「そのためにお風呂に入れと仰ったんですか」
「そう。逃げ道はっておかないとね。それにあなたは、しばらく触れないでいるとかたくなさが戻ってしまうからな。行為の途中で中断されたくはない」

 どう返事していいのか分からずに、わたくしは俯きました。
 
「俺は、本当は毎日でも翠子さんに触れていたいが。あなたの日常生活も大事だからな」

 浴衣姿の旦那さまは、庭に面した簾を下ろすと、わたくしの隣に腰を下ろしました。
 外は明るいのに、部屋の中だけ急に夕暮れになったようです。すでに布団が敷いていあるので、余計にそう思えます。

 仄暗い座敷ですが、簾の隙間から見える細い空は、やはり青くて。まっしろな入道雲まで出ているのですから、明らかにまだ昼なのです。

「どうやら誤解しているようだが。最後までするということは、あなたの身体に負担がかかるんだ。俺は夜通しと言ったけど、ちゃんと休む時間もないと、翠子さんがつらいだろう?」

 優しさなのか、用意周到なのか分かりませんよ、それ。

 旦那さまは、緩く編んだわたくしの片方の三つ編みを手に取りました。そして、ゆっくりとくちづけました。

「どうする? まだ子どもみたいにお菓子を食べている?」

 まるで髪に神経が通っているかのようです。旦那さまのくちづけを、はっきりと感じるのですから。
 三つ編みの部分にしか触れられていないのに、素肌にくちづけられているような陶酔した心地になります。

 わたくしはおずおずと旦那さまに向き直りました。ちゃんと顔を見る勇気がないので、瞼が伏せがちになってしまいます。

「あの、今日は目隠しをなさらないのですか」
「なぜ?」
「だって恥ずかしいです。夜中のように真っ暗ではないんですもの」

 ふっと旦那さまが笑みを洩らします。

「あなたの本当の初めてをもらうんだ。ちゃんと俺にすべての表情を見せていなさい」

 いつもより先に進むのですから、怖いです。でも、抱きしめられることも旦那さまの素肌を感じることも、わたくしは好きなのです。

 ふいにわたくしの眉と眉の間を、旦那さまの指が押しました。

「そんな怖い顔をしない。優しくするから」
「は、はい」

 わたくしは旦那さまの胸にもたれました。頬からあごにかけて、旦那さまの指が下りていきます。
 ぐいっと後ろに引っ張られる感覚があったと思うと、浴衣の帯が解かれました。

 少し風が出てきたのでしょうか。降ろされた簾が揺れています。もしかしたら夕立がくるのかもしれません。

「俺以外のことを考えない」

 旦那さまと唇を重ねると、自然と口を開かされました。舌と舌が絡み合い、頭がぼうっとしてきます。
 浴衣が肩から落とされ、肘にとどまった袖から腕を抜くように促されます。

 夜ではないので、旦那さまの顔がよく見えます。それはつまり、わたくしの表情も丸見えということです。
 わたくしは一糸まとわぬ姿にされました。

 まだ旦那さまは浴衣を着ていらっしゃいます。恥ずかしさに顔をそむけると、両の腿に手をかけられました。

「や……そんな」

 抵抗もむなしく大きく両足を広げさせられます。
 立てた膝にくちづけられ、腿の内側を旦那さまの手が撫でています。
 その手は今はあからさまに開かれた秘所に触れそうになると、また離れてしまいます。

 まだほとんど何もされていない状態なのに、わたくしの下腹部は甘く疼きはじめました。
 きっと旦那さまに気づかれてしまうでしょう。
 わたくしは羞恥に、膝を閉ざします。

「まったく、あなたはこれだから」と、ため息交じりの声が聞こえました。
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