【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

文字の大きさ
133 / 247
八章

17、花街

 俺と琥太郎兄さんは、歓楽街の中でもさらに場末にある置屋へと向かった。
 饐えたにおいに、息を止めたくなる。

「欧之丞みたいなお坊ちゃんには、厳しい場所やな」
「……否定はしない」

 俺は表情を歪めて答えた。
 格子の中で、女たちがだらしなく寝そべったり、煙草を吹かしたりしている。
 あれは何という下着なのだろう。胸の部分がレースで、肩を露出して肩紐もレースで、とにかく透け透けだ。翠子さんがあんなものを身に着けていたら、ちゃんと服を着なさいと叱ってしまいそうな……。

 いや、達比古は翠子さんにあの下着を着せて、客を取らせる予定だったんだよな。
 考えるだけで、ぞっとする。

「ここに男爵令嬢が身を落としたら。まさに苦界や。毎夜男どもに嬲られ、心まで壊れてしまうやろ」

 最初に見かけた置屋が、元々翠子さんが売られる予定の店だった。そして場末にあるこの置屋が、達比古が「正真正銘の男爵令嬢を売る」と話を持ちかけた店だ。

「さすがに私たちを客とは思わへんようやな。女どもも声をかけてこぉへん」
「客層が違いすぎるだろ」
「まぁええ。入るで、欧之丞」

 琥太郎兄さんが、あごで入り口を指し示す。軋むドアを開いて店に入ると、格子の中の見世の女たちが一斉にざわめいた。

「あたしを選びなよ。もう小汚い男どもはたくさんなんだ」
「あんたに抱かれるのなら、お代はいらないよ」

 翠子さんがあの格子の中に座り、男に選ばれ……俺以外の奴に身を任せるのか。
 そう考えると爪が皮膚に食い込むほどに、拳を握りしめていた。
 俺は相当に蒼白な顔をしていたのだろう。琥太郎兄さんに「おい、大丈夫か」と声をかけられて、はっとした。

 その時、猛スピードで車が走ってきた。
 花街の客たちは悲鳴を上げながら、左右に道を開ける。その黒塗りの車は、俺たちの……いや、正確には琥太郎兄さんの前で停まった。

◇◇◇

 高瀬邸に乱入してきた男達から、銀司さんがわたくしを守ろうとしてくださいます。
 ですが、わたくしの体は乱暴に縛り上げられました。

 旦那さまがなさるような、柔らかな帯紐で手首を縛るのではなく、浴衣の上から荒縄をかけられます。
 まるで罪人のように。肩から首にかけて、そして後ろ手で縄で縛られ、身動きが取れません。

「いいざまだな、翠子」
「……おじさま」

 土足のままで部屋に入ってきたのは、達比古おじさまでした。無様に縛られたわたくしを見下ろしています。

「ああ、いい眺めだ。高瀬と言ったな。ここの主にも見せてやりたいものだ」

 革靴の底で、わたくしは肩を踏みつけられました。

「おやめなさい。みっともない。自分のしていることが分かっているの?」
「偉そうな口をきくようになったものだ。あと少しで、お前の運命が変わってしまうというのにな」

 おじさまはわたくしの肩を蹴飛ばすと、ポケットから半巾ハンカチを出して、わたくしに猿ぐつわを噛ませました。

「……っ、うっ」
「はぁ? 何を言っているのか聞こえんなぁ。ほら、こいつを連れていけ」

 命じられた男は、わたくしを肩に担ぎ上げます。浴衣の上からでもきつく縄が食い込んで、息苦しさを感じます。

 旦那さま、旦那さま。
 怖いです。苦しいです。

 けれどわたくしの口からこぼれるのは、呻き声だけでした。

 脳裏に浮かぶのは、今日見送った旦那さまの背中です。
「行かないで」と言いたかった。でも、これからのことを考えると、引き留めることなんてできっこない。

「翠子さまっ」
「翠子さんを返してください」

 銀司さんとお清さんの声が聞こえます。それをおじさまは、鼻でふっと笑いました。
 本当に、本当に憎らしい。
 ですが、旦那さまが脅しをかけても懲りない男です。
 こうして、その筋の人間に仕事を頼んだ以上、もうあなたは後戻りはできないんです。

 わたくしは縛られたままで車に乗せられました。後ろの座席に転がされているのと、すでに辺りが暗くなっているので、車がどこを走っているのか分かりません。
感想 10

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

「職場では隙のない完璧な先輩が、家ではゆるニットで甘えてくる。それでも彼女は、まだ俺の恋人じゃない」

まさき
恋愛
会社では完璧で、誰も近づけない先輩。 そんな彼女と、俺は同じ部屋で暮らしている。 「…おかえり」 ゆるニット姿の彼女は、家でだけ甘い声を出す。 近い。甘い。それでも―― 「ちゃんと付き合ってから」 彼女は知っている。自分が好きになりすぎることを。 嫌われるのが怖くて、迷惑になるのが怖くて。 だから一歩手前で、いつも笑って止まる。 最初から好きなくせに、言えない彼女と。 気づいているのに、待っている俺の話。