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九章
11、恋文【6】
翠子さんは達した後、そのまま布団へと倒れこんだ。
だが、それでもまだ甘美な刺激が彼女を襲い続けているらしい。何度もぴくりと体が反応し、そのたびに喘ぎを上げている。
「やめ、て……先生」
「もう何もしていないよ。ただあなたの中にいるだけだ」
「ちが……こんなの、終わら、ない……の」
本当に俺は動いてはいないのに、翠子さんはまた極みへと追い上げられた。
過ぎた快感がつらいのか、敷布をぎゅっと握りしめつつも、そのしなやかな体は時折痙攣を起こす。
刺激を与えないように、彼女の中から離れる。けれどそれすらも、感じてしまうようで翠子さんは甘い声を洩らした。
彼女の体をしっかりと抱きしめて、一緒に横になる。
つながっていた時間は短い方だが、彼女の最奥にある、官能の根源を責めたのは初めてだった。
「先生……翠子、おかしい……の」
「おかしくないよ」
翠子さんの額には汗が浮かんでいる。時折、ぴくりと身を竦ませながら、翠子さんは眠りに落ちた。
明日の朝、もう一度風呂に入れてやった方がよさそうだ。
◇◇◇
わたくしが起きた時、旦那さまに一緒にお風呂に入るように言われました。
浴槽のお湯はぬるくなっているので浸からずに、桶で湯をかけます。
旦那さまが泡だらけにした手で、わたくしの体を洗ってくださいました。
「休みではないからな。丹念に洗ってあげられないが」
「いえ、いいんです。でも……その」
ふわふわの泡を手ですくい、自分でも腕を洗いながらわたくしは旦那さまに問いかけます。
「わたくし、昨夜は……その。何と申しますか、乱れすぎていたのでしょうか」
正直な所、旦那さまに抱かれてからの記憶がおぼろげです。
いつもと違う抱かれ方をして、たいそう恥ずかしかったのは覚えているのですけど。
「ああ、昨夜はすごかったよ。翠子さんは」
「い、言わないでください」
何がすごかったのか、とても気になりますけど。尋ねる勇気はありません。
きっと電気の明かりが眩しすぎたからです。そうに違いありません。
お風呂から上がった旦那さまは、朝食の前に、わたくしに封筒を渡してくださいました。
昨日から何度も見かけた青い小花の封筒です。
「恋文ですか?」
「恋文ですよ。お嬢さま」
「わたくしがいただいても、よろしいんですか」
「逆に訊くが、俺があなた以外の誰かに恋文を書くとでも?」
「いえ、そんなことがあったら嫌です」
まるで卒業証書のように、旦那さまが恭しく差し出す封筒をわたくしは両手で捧げ持ちました。想像していたよりも、封筒に厚みがあります。
「初めてです。恋文なんて」
嬉しさのあまり口にすると、なぜか旦那さまは困ったように眉を下げました。
「まさかわたくしが、恋文をいただく日が来るなんて」
「あー、うん。そうだな。まぁ、よかったな」
旦那さまの言葉は、歯切れが悪いです。しかも、なぜかわたくしから目を逸らしておいでです。
きっと照れておいでなんですね。
「開けてもよろしいですか?」
「え、俺の目の前で読むのか?」
「鮮度が落ちないうちに」
「なまものかよ」
ふふ、旦那さまったら照れ隠しに荒っぽい言葉なんて、お使いになって。
わたくしは文机から鋏を持ってきて、封筒の端を切りました。
もう何度も目にした便箋ですのに。やはり青と水色の押し花は愛らしくて、しかも旦那さまの文字までしたためられているのです。
黒板にお書きになる文字と同じで、少し硬い感じの字体が並んでいます。
しかも、びっしりと。
読み進めるうちに、わたくしは頬が熱くなってきました。
きっと「好きだよ」などと短い言葉だと思っていたんです。ですが、わたくしと再会した入学式のこと、担任になった日のこと、この家に迎えてくださった時のこと、その折々の旦那さまの気持ちが、とても細かく書いてあります。
「ほら、早く朝食をとらないと、遅刻するぞ」
わたくしを初めて抱いた時のことも、そして初めて一つになった日の旦那さまの気持ちも。
それはとても熱烈で、恥ずかしくなったわたくしは旦那さまに背を向けました。
「俺の方が、恥ずかしいんだからな」
「嬉しいです」
ようやく読み終えたわたくしは、便箋を畳んで封筒にしまいました。
ああ、これはマフラーと一緒に置いておくべきですね。
わたくしにとっては一生の宝物です。
いそいそと箪笥に向かい、風呂敷包みを取りだして、マフラーの上に封筒を置きます。
「帰ってから、また読みます。毎日読み返します」
「いや、そこまででは」
「いえ、それくらい大事ですから」
人生で初めて頂いた恋文は、便箋五枚にしたためられた愛の言葉でした。
だが、それでもまだ甘美な刺激が彼女を襲い続けているらしい。何度もぴくりと体が反応し、そのたびに喘ぎを上げている。
「やめ、て……先生」
「もう何もしていないよ。ただあなたの中にいるだけだ」
「ちが……こんなの、終わら、ない……の」
本当に俺は動いてはいないのに、翠子さんはまた極みへと追い上げられた。
過ぎた快感がつらいのか、敷布をぎゅっと握りしめつつも、そのしなやかな体は時折痙攣を起こす。
刺激を与えないように、彼女の中から離れる。けれどそれすらも、感じてしまうようで翠子さんは甘い声を洩らした。
彼女の体をしっかりと抱きしめて、一緒に横になる。
つながっていた時間は短い方だが、彼女の最奥にある、官能の根源を責めたのは初めてだった。
「先生……翠子、おかしい……の」
「おかしくないよ」
翠子さんの額には汗が浮かんでいる。時折、ぴくりと身を竦ませながら、翠子さんは眠りに落ちた。
明日の朝、もう一度風呂に入れてやった方がよさそうだ。
◇◇◇
わたくしが起きた時、旦那さまに一緒にお風呂に入るように言われました。
浴槽のお湯はぬるくなっているので浸からずに、桶で湯をかけます。
旦那さまが泡だらけにした手で、わたくしの体を洗ってくださいました。
「休みではないからな。丹念に洗ってあげられないが」
「いえ、いいんです。でも……その」
ふわふわの泡を手ですくい、自分でも腕を洗いながらわたくしは旦那さまに問いかけます。
「わたくし、昨夜は……その。何と申しますか、乱れすぎていたのでしょうか」
正直な所、旦那さまに抱かれてからの記憶がおぼろげです。
いつもと違う抱かれ方をして、たいそう恥ずかしかったのは覚えているのですけど。
「ああ、昨夜はすごかったよ。翠子さんは」
「い、言わないでください」
何がすごかったのか、とても気になりますけど。尋ねる勇気はありません。
きっと電気の明かりが眩しすぎたからです。そうに違いありません。
お風呂から上がった旦那さまは、朝食の前に、わたくしに封筒を渡してくださいました。
昨日から何度も見かけた青い小花の封筒です。
「恋文ですか?」
「恋文ですよ。お嬢さま」
「わたくしがいただいても、よろしいんですか」
「逆に訊くが、俺があなた以外の誰かに恋文を書くとでも?」
「いえ、そんなことがあったら嫌です」
まるで卒業証書のように、旦那さまが恭しく差し出す封筒をわたくしは両手で捧げ持ちました。想像していたよりも、封筒に厚みがあります。
「初めてです。恋文なんて」
嬉しさのあまり口にすると、なぜか旦那さまは困ったように眉を下げました。
「まさかわたくしが、恋文をいただく日が来るなんて」
「あー、うん。そうだな。まぁ、よかったな」
旦那さまの言葉は、歯切れが悪いです。しかも、なぜかわたくしから目を逸らしておいでです。
きっと照れておいでなんですね。
「開けてもよろしいですか?」
「え、俺の目の前で読むのか?」
「鮮度が落ちないうちに」
「なまものかよ」
ふふ、旦那さまったら照れ隠しに荒っぽい言葉なんて、お使いになって。
わたくしは文机から鋏を持ってきて、封筒の端を切りました。
もう何度も目にした便箋ですのに。やはり青と水色の押し花は愛らしくて、しかも旦那さまの文字までしたためられているのです。
黒板にお書きになる文字と同じで、少し硬い感じの字体が並んでいます。
しかも、びっしりと。
読み進めるうちに、わたくしは頬が熱くなってきました。
きっと「好きだよ」などと短い言葉だと思っていたんです。ですが、わたくしと再会した入学式のこと、担任になった日のこと、この家に迎えてくださった時のこと、その折々の旦那さまの気持ちが、とても細かく書いてあります。
「ほら、早く朝食をとらないと、遅刻するぞ」
わたくしを初めて抱いた時のことも、そして初めて一つになった日の旦那さまの気持ちも。
それはとても熱烈で、恥ずかしくなったわたくしは旦那さまに背を向けました。
「俺の方が、恥ずかしいんだからな」
「嬉しいです」
ようやく読み終えたわたくしは、便箋を畳んで封筒にしまいました。
ああ、これはマフラーと一緒に置いておくべきですね。
わたくしにとっては一生の宝物です。
いそいそと箪笥に向かい、風呂敷包みを取りだして、マフラーの上に封筒を置きます。
「帰ってから、また読みます。毎日読み返します」
「いや、そこまででは」
「いえ、それくらい大事ですから」
人生で初めて頂いた恋文は、便箋五枚にしたためられた愛の言葉でした。
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