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九章
17、組員たち
日傘を二人で差しつつ、小路を歩いていると俺は妙なものを目にした。
明日からの夏季休暇を控え、夏空は澄み渡っている。
だが、爽快な朝の陽ざしの中に立つ、いかめしい男達。見るからに堅気ではなさそうなので、琥太郎兄さんの組の若い衆なんだろう。
人数にして六人はいる。何やら紙を手に熱心に話し合っているようだが、早朝会議なら三條邸でやってもらえないだろうか。
この辺りの住民は三條組の存在には慣れているが、強面ばかりが集まって、威圧感が半端ない。
そういえば今日は、翠子さんを待ち伏せする大学生が少ないと思ったが。そういうことか。
「昨日、通っとったんはこの道や」
「せやったら、今日も同じでええやんか。なんであのお人は、日々違う道を通ってんのや。こっちの苦労も考えてぇや」
本当に会議のようだ。
道端で何やってんですか、あんた達。まさか襲撃や暗殺の段取りじゃないよな。
「高瀬のお坊ちゃん。お早うございます」
誰かが俺に声をかけた。同時に、その場にいた組員が揃って頭を下げる。
そういう挨拶はやめてくれ。そしてお坊ちゃん呼ばわりもやめてくれ。
俺に真っ先に気づいて挨拶したのは、原だった。先日、翠子さんを荒縄で縛り上げた奴だ。
翠子さんは原を見て、びくっと身を竦ませた。そしてすぐに日傘をたたんで俺の陰に隠れる。
「あの、高瀬のお坊ちゃん」
「普通に名字だけで呼んでくれ」
背中に翠子さんがしがみついているので、さっさと通り抜けたいのに。原はいちいち話しかけてくる。
「えーと、じゃあ高瀬さん。おたくの女学校は、通学路を規定してはらへんのですか」
「……別にどこを通ろうが、生徒の自由だ。道筋が一本ずれたくらいで、目くじらを立てることもあるまい。さすがに繁華街や物騒な道は避けるように指示しているが」
「そういうの、ほんまに困るんですよ。俺らこの風体やし、女学校には近づかれへんし」
原は、両手を掲げるようにして訴えかけてきた。その手に持っているのは、この辺りの地図だった。
どこかの家から女学校まで矢印の入った道が、数本。しかも川向こうの通りから、何本か橋が架かっているのでそこにも矢印。
「逃走した奴でも追っているのか? 物騒だな」
「別に物騒な話ちゃいます。高瀬さん、学校で会議とかあるんやろ。通学路のこと、議題に挙げといてください」
「無茶言うなよ」
ヤクザとのんびり会話をして、遅刻などしてはならない。俺は翠子さんを伴って先を急いだ。
「何だったんだ、あれは」
「少しだけ、分かるような気がします」
「だが、翠子さんは原のことが嫌いというか苦手だろう? なぜ、彼の気持ちが分かるんだ?」
翠子さんは日傘を開いて、ちらっと俺の方を見上げた。
いや、もうそろそろ大通りだから。一緒に相合傘をすることはできないが。
「原さんって人のことじゃないですよ。彼は自分のことで動いているわけじゃないと思います」
「じゃあ、誰の」
「琥太郎さんですよ。若頭でしたっけ」
くるくると回される日傘の陰から、翠子さんの口許が微笑んでいるのが見え隠れする。
「翠子さんは、なんで嬉しそうなんだ?」
「あら。わたくし嬉しそうにしています?」
「授業に身が入らないと困るから、教えてくれませんか。お嬢さま」
俺が頼むと、翠子さんは「それも困りますね」と自分のあごに指をあてている。
彼女自身が、授業にいつも身が入っていないことは黙っておこう。機嫌を損ねさせたら、教えてもらえないからな。
「立場の違いもあるでしょうけれど。旦那さまはご自分で動いてくださったから、わたくし、嬉しいんです」
うん。さっぱり分からないな。
明日からの夏季休暇を控え、夏空は澄み渡っている。
だが、爽快な朝の陽ざしの中に立つ、いかめしい男達。見るからに堅気ではなさそうなので、琥太郎兄さんの組の若い衆なんだろう。
人数にして六人はいる。何やら紙を手に熱心に話し合っているようだが、早朝会議なら三條邸でやってもらえないだろうか。
この辺りの住民は三條組の存在には慣れているが、強面ばかりが集まって、威圧感が半端ない。
そういえば今日は、翠子さんを待ち伏せする大学生が少ないと思ったが。そういうことか。
「昨日、通っとったんはこの道や」
「せやったら、今日も同じでええやんか。なんであのお人は、日々違う道を通ってんのや。こっちの苦労も考えてぇや」
本当に会議のようだ。
道端で何やってんですか、あんた達。まさか襲撃や暗殺の段取りじゃないよな。
「高瀬のお坊ちゃん。お早うございます」
誰かが俺に声をかけた。同時に、その場にいた組員が揃って頭を下げる。
そういう挨拶はやめてくれ。そしてお坊ちゃん呼ばわりもやめてくれ。
俺に真っ先に気づいて挨拶したのは、原だった。先日、翠子さんを荒縄で縛り上げた奴だ。
翠子さんは原を見て、びくっと身を竦ませた。そしてすぐに日傘をたたんで俺の陰に隠れる。
「あの、高瀬のお坊ちゃん」
「普通に名字だけで呼んでくれ」
背中に翠子さんがしがみついているので、さっさと通り抜けたいのに。原はいちいち話しかけてくる。
「えーと、じゃあ高瀬さん。おたくの女学校は、通学路を規定してはらへんのですか」
「……別にどこを通ろうが、生徒の自由だ。道筋が一本ずれたくらいで、目くじらを立てることもあるまい。さすがに繁華街や物騒な道は避けるように指示しているが」
「そういうの、ほんまに困るんですよ。俺らこの風体やし、女学校には近づかれへんし」
原は、両手を掲げるようにして訴えかけてきた。その手に持っているのは、この辺りの地図だった。
どこかの家から女学校まで矢印の入った道が、数本。しかも川向こうの通りから、何本か橋が架かっているのでそこにも矢印。
「逃走した奴でも追っているのか? 物騒だな」
「別に物騒な話ちゃいます。高瀬さん、学校で会議とかあるんやろ。通学路のこと、議題に挙げといてください」
「無茶言うなよ」
ヤクザとのんびり会話をして、遅刻などしてはならない。俺は翠子さんを伴って先を急いだ。
「何だったんだ、あれは」
「少しだけ、分かるような気がします」
「だが、翠子さんは原のことが嫌いというか苦手だろう? なぜ、彼の気持ちが分かるんだ?」
翠子さんは日傘を開いて、ちらっと俺の方を見上げた。
いや、もうそろそろ大通りだから。一緒に相合傘をすることはできないが。
「原さんって人のことじゃないですよ。彼は自分のことで動いているわけじゃないと思います」
「じゃあ、誰の」
「琥太郎さんですよ。若頭でしたっけ」
くるくると回される日傘の陰から、翠子さんの口許が微笑んでいるのが見え隠れする。
「翠子さんは、なんで嬉しそうなんだ?」
「あら。わたくし嬉しそうにしています?」
「授業に身が入らないと困るから、教えてくれませんか。お嬢さま」
俺が頼むと、翠子さんは「それも困りますね」と自分のあごに指をあてている。
彼女自身が、授業にいつも身が入っていないことは黙っておこう。機嫌を損ねさせたら、教えてもらえないからな。
「立場の違いもあるでしょうけれど。旦那さまはご自分で動いてくださったから、わたくし、嬉しいんです」
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