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九章
26、水蜜桃【4】
あまりにも、ゆるゆると撫で続けられて、わたくしは全身がおかしくなってしまったようです。
ほんの少し旦那さまの指がかすめるだけで、抗えない快感に襲われて。そのまま軽く達してしまいます。
なのに、それでは熱が解放されないのです。
気を遣ったばかりで短い呼吸を繰り返しながら、わたくしは旦那さまの耳に口を寄せました。
「ひどく……してください」
「だが……」
「優しすぎる方が、苦しいのです。翠子を嬲ってもいいのです、旦那さまになら縛り上げられてもいいのです。もっと……」
ああ、わたくしは何を口走っているのでしょう。
旦那さまは「いいんだな?」と、仰いました。だから、小さくうなずきます。
それが合図でした。
膝の裏を持ち上げられ、旦那さまがさらに奥を穿ちます。
しとどに濡れているせいで、普段よりも動きが滑らかで。こんなにも圧迫感があるのに、旦那さまを受け入れてしまいます。
「やっ……あぁ、あ……ぅ」
一瞬、頭が真っ白になるほどの強烈な快感に襲われました。
それを旦那さまが見逃すわけがありません。
ええ、渋る旦那さまに、おねだりしたのは翠子ですもの。どうかお見逃しにならないで。
あの日、三條組の人に荒縄で縛られてから、旦那さまはわたくしを縛ることはなさいません。ですが、旦那さまの行為でわたくしは心も体も縛られているのです。
激しく揺さぶられて、何度も何度も達しました。
過ぎた快感はつらくて、でも甘く苦しい表情を浮かべる旦那さまを見るのはとても嬉しくて。
わたくしも、旦那さまの心を縛っているのだと……そう感じました。
◇◇◇
翠子さんは、俺の腕の中で眠っている。
このまま布団に入るのはためらわれるほどに、彼女を汚してしまった。
「旦那さま」
廊下に面した襖の向こうから、声を掛けられる。俺も何も着ていないが、やはり素肌をさらしている翠子さんの体を、自分にもたれかけさせているので、身動きが取れない。
「銀司か」
「はい」
「済まないが、湯を沸かして桶に入れてくれないか? 手ぬぐいも頼む」
「了解しました」
襖を開けぬままで、銀司が返事をする。彼がこの家で暮らすようになったのは最近だ。
俺たち……というより、翠子さんのことを気遣って声をかけてくれたのだろう。
下宿で暮らしていた頃に比べて、仕事が増えているはずなのだが。銀司は嫌そうな顔もしない。というか、自分で声を掛けに来てくれる。
給金は、これまでよりも余分に出そう。うん。
「失礼します」と部屋に入ってきた銀司は、俺の胸で眠っている翠子さんを見ても、驚いた様子もなかった。
俺は柱に背中を預けた状態だ。
「翠子さま。起きませんかね?」
「まぁ、大丈夫だろう。銀司がこの部屋に入ってきていると知ったら、家出しそうだな」
「……それは寂しいです」
ぽつりと呟いた言葉は、本音だったのだろう。銀司は「いえ、別に」と慌てて首を振った。
俺は湯に浸した手ぬぐいを絞って、翠子さんの体を拭いてやる。
銀司は背中を向けて、彼女の裸体を見ないように気を配っている。
彼女の肌に残る、俺のくちづけの痕はまるで花びらを散らしたかのようだ。あらかた汚れを拭き取ってやり、銀司に新しい湯を汲んできてもらう。その間に俺は、脱ぎ捨てていた浴衣をまとった。
新しい湯に、俺はいつも使用している香水のひとしずくを垂らした。
檸檬と薄荷のすっとした香りが、湯で温められて立ちのぼる。
新しい手ぬぐいをそれに浸して、翠子さんの首元や胸元、腕の内側などぬぐっていく。
あなたが目覚めた時に、俺の香りに包まれているように。
「……旦那さま……ぁ」
吐息のような寝言を囁きながら、翠子さんが俺に腕を伸ばしてきた。
まだ彼女に寝間着を着せていない。
俺の香りだけをまといながら、たおやかな白い足がしどけなく動く。
「ぼくはもう部屋から出た方がいいですね」
「済まない。銀司。俺たちももう寝るよ」
「おやすみなさい。旦那さま、翠子さま」
困ったような笑みを浮かべて、銀司は一礼した。
ほんの少し旦那さまの指がかすめるだけで、抗えない快感に襲われて。そのまま軽く達してしまいます。
なのに、それでは熱が解放されないのです。
気を遣ったばかりで短い呼吸を繰り返しながら、わたくしは旦那さまの耳に口を寄せました。
「ひどく……してください」
「だが……」
「優しすぎる方が、苦しいのです。翠子を嬲ってもいいのです、旦那さまになら縛り上げられてもいいのです。もっと……」
ああ、わたくしは何を口走っているのでしょう。
旦那さまは「いいんだな?」と、仰いました。だから、小さくうなずきます。
それが合図でした。
膝の裏を持ち上げられ、旦那さまがさらに奥を穿ちます。
しとどに濡れているせいで、普段よりも動きが滑らかで。こんなにも圧迫感があるのに、旦那さまを受け入れてしまいます。
「やっ……あぁ、あ……ぅ」
一瞬、頭が真っ白になるほどの強烈な快感に襲われました。
それを旦那さまが見逃すわけがありません。
ええ、渋る旦那さまに、おねだりしたのは翠子ですもの。どうかお見逃しにならないで。
あの日、三條組の人に荒縄で縛られてから、旦那さまはわたくしを縛ることはなさいません。ですが、旦那さまの行為でわたくしは心も体も縛られているのです。
激しく揺さぶられて、何度も何度も達しました。
過ぎた快感はつらくて、でも甘く苦しい表情を浮かべる旦那さまを見るのはとても嬉しくて。
わたくしも、旦那さまの心を縛っているのだと……そう感じました。
◇◇◇
翠子さんは、俺の腕の中で眠っている。
このまま布団に入るのはためらわれるほどに、彼女を汚してしまった。
「旦那さま」
廊下に面した襖の向こうから、声を掛けられる。俺も何も着ていないが、やはり素肌をさらしている翠子さんの体を、自分にもたれかけさせているので、身動きが取れない。
「銀司か」
「はい」
「済まないが、湯を沸かして桶に入れてくれないか? 手ぬぐいも頼む」
「了解しました」
襖を開けぬままで、銀司が返事をする。彼がこの家で暮らすようになったのは最近だ。
俺たち……というより、翠子さんのことを気遣って声をかけてくれたのだろう。
下宿で暮らしていた頃に比べて、仕事が増えているはずなのだが。銀司は嫌そうな顔もしない。というか、自分で声を掛けに来てくれる。
給金は、これまでよりも余分に出そう。うん。
「失礼します」と部屋に入ってきた銀司は、俺の胸で眠っている翠子さんを見ても、驚いた様子もなかった。
俺は柱に背中を預けた状態だ。
「翠子さま。起きませんかね?」
「まぁ、大丈夫だろう。銀司がこの部屋に入ってきていると知ったら、家出しそうだな」
「……それは寂しいです」
ぽつりと呟いた言葉は、本音だったのだろう。銀司は「いえ、別に」と慌てて首を振った。
俺は湯に浸した手ぬぐいを絞って、翠子さんの体を拭いてやる。
銀司は背中を向けて、彼女の裸体を見ないように気を配っている。
彼女の肌に残る、俺のくちづけの痕はまるで花びらを散らしたかのようだ。あらかた汚れを拭き取ってやり、銀司に新しい湯を汲んできてもらう。その間に俺は、脱ぎ捨てていた浴衣をまとった。
新しい湯に、俺はいつも使用している香水のひとしずくを垂らした。
檸檬と薄荷のすっとした香りが、湯で温められて立ちのぼる。
新しい手ぬぐいをそれに浸して、翠子さんの首元や胸元、腕の内側などぬぐっていく。
あなたが目覚めた時に、俺の香りに包まれているように。
「……旦那さま……ぁ」
吐息のような寝言を囁きながら、翠子さんが俺に腕を伸ばしてきた。
まだ彼女に寝間着を着せていない。
俺の香りだけをまといながら、たおやかな白い足がしどけなく動く。
「ぼくはもう部屋から出た方がいいですね」
「済まない。銀司。俺たちももう寝るよ」
「おやすみなさい。旦那さま、翠子さま」
困ったような笑みを浮かべて、銀司は一礼した。
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