【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

文字の大きさ
174 / 247
九章

26、水蜜桃【4】

 あまりにも、ゆるゆると撫で続けられて、わたくしは全身がおかしくなってしまったようです。
 ほんの少し旦那さまの指がかすめるだけで、抗えない快感に襲われて。そのまま軽く達してしまいます。

 なのに、それでは熱が解放されないのです。
 気をったばかりで短い呼吸を繰り返しながら、わたくしは旦那さまの耳に口を寄せました。

「ひどく……してください」
「だが……」
「優しすぎる方が、苦しいのです。翠子を嬲ってもいいのです、旦那さまになら縛り上げられてもいいのです。もっと……」

 ああ、わたくしは何を口走っているのでしょう。
 旦那さまは「いいんだな?」と、仰いました。だから、小さくうなずきます。
 それが合図でした。

 膝の裏を持ち上げられ、旦那さまがさらに奥を穿ちます。
 しとどに濡れているせいで、普段よりも動きが滑らかで。こんなにも圧迫感があるのに、旦那さまを受け入れてしまいます。

「やっ……あぁ、あ……ぅ」

 一瞬、頭が真っ白になるほどの強烈な快感に襲われました。
 それを旦那さまが見逃すわけがありません。
 ええ、渋る旦那さまに、おねだりしたのは翠子ですもの。どうかお見逃しにならないで。

 あの日、三條組の人に荒縄で縛られてから、旦那さまはわたくしを縛ることはなさいません。ですが、旦那さまの行為でわたくしは心も体も縛られているのです。

 激しく揺さぶられて、何度も何度も達しました。
 過ぎた快感はつらくて、でも甘く苦しい表情を浮かべる旦那さまを見るのはとても嬉しくて。
 わたくしも、旦那さまの心を縛っているのだと……そう感じました。

◇◇◇

 翠子さんは、俺の腕の中で眠っている。
 このまま布団に入るのはためらわれるほどに、彼女を汚してしまった。
 
「旦那さま」

 廊下に面した襖の向こうから、声を掛けられる。俺も何も着ていないが、やはり素肌をさらしている翠子さんの体を、自分にもたれかけさせているので、身動きが取れない。

「銀司か」
「はい」
「済まないが、湯を沸かして桶に入れてくれないか? 手ぬぐいも頼む」
「了解しました」

 襖を開けぬままで、銀司が返事をする。彼がこの家で暮らすようになったのは最近だ。
 俺たち……というより、翠子さんのことを気遣って声をかけてくれたのだろう。
 下宿で暮らしていた頃に比べて、仕事が増えているはずなのだが。銀司は嫌そうな顔もしない。というか、自分で声を掛けに来てくれる。
 給金は、これまでよりも余分に出そう。うん。

「失礼します」と部屋に入ってきた銀司は、俺の胸で眠っている翠子さんを見ても、驚いた様子もなかった。
 俺は柱に背中を預けた状態だ。

「翠子さま。起きませんかね?」
「まぁ、大丈夫だろう。銀司がこの部屋に入ってきていると知ったら、家出しそうだな」
「……それは寂しいです」

 ぽつりと呟いた言葉は、本音だったのだろう。銀司は「いえ、別に」と慌てて首を振った。
 俺は湯に浸した手ぬぐいを絞って、翠子さんの体を拭いてやる。
 銀司は背中を向けて、彼女の裸体を見ないように気を配っている。

 彼女の肌に残る、俺のくちづけの痕はまるで花びらを散らしたかのようだ。あらかた汚れを拭き取ってやり、銀司に新しい湯を汲んできてもらう。その間に俺は、脱ぎ捨てていた浴衣をまとった。

 新しい湯に、俺はいつも使用している香水のひとしずくを垂らした。

 檸檬と薄荷のすっとした香りが、湯で温められて立ちのぼる。
 新しい手ぬぐいをそれに浸して、翠子さんの首元や胸元、腕の内側などぬぐっていく。
 あなたが目覚めた時に、俺の香りに包まれているように。

「……旦那さま……ぁ」

 吐息のような寝言を囁きながら、翠子さんが俺に腕を伸ばしてきた。
 まだ彼女に寝間着を着せていない。
 俺の香りだけをまといながら、たおやかな白い足がしどけなく動く。

「ぼくはもう部屋から出た方がいいですね」
「済まない。銀司。俺たちももう寝るよ」
「おやすみなさい。旦那さま、翠子さま」

 困ったような笑みを浮かべて、銀司は一礼した。
感想 10

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

「職場では隙のない完璧な先輩が、家ではゆるニットで甘えてくる。それでも彼女は、まだ俺の恋人じゃない」

まさき
恋愛
会社では完璧で、誰も近づけない先輩。 そんな彼女と、俺は同じ部屋で暮らしている。 「…おかえり」 ゆるニット姿の彼女は、家でだけ甘い声を出す。 近い。甘い。それでも―― 「ちゃんと付き合ってから」 彼女は知っている。自分が好きになりすぎることを。 嫌われるのが怖くて、迷惑になるのが怖くて。 だから一歩手前で、いつも笑って止まる。 最初から好きなくせに、言えない彼女と。 気づいているのに、待っている俺の話。