【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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十章

18、南国の果実【1】

 今日は何かと反省した。
 そう、まるで思春期のガキのように、性急に翠子さんを抱いたことを。
 大人としての余裕がまるでなかった。
 
 改装中で鍵のかかっていない部屋の中、くちづけだけで我慢をしたが。
 家に帰ってからも、濡れて体にはりついた翠子さんの服をなかなか脱がすことができず。雨で指先が冷えきっていたせいで、彼女のボタンを外すのも難しい状態で。早くあなたを抱きたくて、もどかしくて。
 いっそ互いの服を破り捨ててしまいたかった。

 もちろん、物を大事にする翠子さんの前で、そんなことをしたら気に病むのでやらないが。

 俺は、裸体をさらす翠子さんを膝にのせていた。しどけなく足と腕を投げ出し、俺の胸にもたれたまま眠っている。

 さっきまで愛撫を続けていたせいで、彼女は何度も達していた。一度、絶頂を迎えた翠子さんの体は敏感で、わずかな快感でも反応してしまう。
 
 半ば開いた濡れた薄紅の唇は、俺を誘い。蕩けるまなざしは、もっと触れてほしいと訴えかけていた。
 もっともその愛らしい唇から出る言葉は、素直ではないけれど。

 あなたを抱くのも好きだが、あなたが乱れるのを冷静に見るのが好きだなどと話したら。きっと怒って口もきいてくれないな。
 だから、これは内緒だ。

「しかしお姫さまごっこか。面白いことをするもんだな」

 南国の姫がどうとか言っていたな。
 確か、翠子さんが読んでいた雑誌に、そんな内容の連載があったような。
 俺は少女小説は読まないが、書店でそれっぽい題名の小説を見かけたことがある。
 明日の帰りにでも買ってやるか。

 さすがに今夜は、翠子さんをからかいすぎた。
 まぁ、楽しかったんだけどな。姫と下僕ごっこは。
 第二弾は、いつやろう。

「旦那さま」
「ああ、銀司か。ちょっと待ってくれ」

 襖の向こうから声を掛けられて、俺は脱がせたままになっていたワンピースを、翠子さんの体に掛けた。
 すらりとした足と、しなやかな腕は見えているが。まぁ、これくらいなら。

「うわ、申し訳ありません。取り込み中でしたか」
「いや、大丈夫だ。翠子さんも眠っている」

 銀司は「失礼します」と言いながら、翠子さんの方を見ないようにしつつ部屋に入ってきた。
 そして押し入れから薄手のタオルケットを取りだすと、翠子さんに掛けてあげている。
 彼女を膝にのせているせいで俺が動けないからだ。

 主に対する心構えができているよな、と感心してしまう。
 だからこそ、銀司を家令として育てようと思ったのだが。

「あの、ぼくが出かけていて、お渡しするのが遅れてしまったのですが。外商の人が今日、持ってきてくれたんです」

 廊下に置いていた紙の箱を二つ、銀司は持って入った。
 百貨店に頼んでいた荷物だ。珍しい物を売っていたから、配達を頼んでいた。

「開けてくれないか? 翠子さんを下ろせないから、手が離せない」
「あ、はい」

 銀司は丁寧な手つきで、一つ目の箱を開いた。その途端、彼の顔に満面の笑みが広がる。

菴羅あんらだ」

 新聞紙を細く切った詰め物の中に、黄色い果実が並んでいた。

「旦那さま、菴羅です」
「懐かしいだろう? 銀司や皆で食べようと思って買ったんだ。俺もお清も切り方を知らないから、銀司が切ってくれないか?」
「ぼくもいただいて、いいんですか?」
「当たり前だろ」

 銀司はとても丁寧な手つきで、菴羅を持ち上げると、その甘くて少し青臭いにおいを存分にかいでいる。

「島の匂いがします。夏の香りなんです」
「もう一つも開けてごらん」

 促された銀司が開いた箱には、菴羅よりも丸くて大きな果物が入っていた。

木瓜もっかです」

 銀司は顔を輝かせた。それはもうとびきりの笑顔だ。

「確か外国では、菴羅はマンゴー、木瓜はパパイヤといったかな」

 パイナップルともいわれる松りんごは、南国の果物としてたまに百貨店で見かけることもあるが。菴羅と木瓜はなかなか海を渡っては来ない。
 これは銀司の故郷の島で取れたものらしいから、彼も懐かしいだろうと購入したが。
 南国の姫ごっこをたしなむ翠子さんにも、ちょうどいい品だ。
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