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十章
33、水ようかん
目が覚めたわたくしは、旦那さまとお風呂に入りました。
もう……今日は本当に困りました。
旦那さまに抱かれてから、どれくらいの時間が過ぎたのか分かりませんけれど。未だに体内に、あの感覚が残っていて。
しかもいつもと違い、ただ重苦しいだけではなく……何度も穿たれ、鈴が激しく暴れるように乱れる、その感覚が時折思い出されて。
だめです。気持ちを切り替えなくては。
わたくしは、頭を振りました。
そのせいで、濡れた髪から水滴が飛んで旦那さまの顔を濡らしました。
「いて……っ」
「す、すみません。髪が当たりましたか?」
「いや、雫くらいはなんともないが」
平気だと仰るのに、旦那さまは眉をしかめておいでです。
わたくしは手拭いで体を隠しながら浴槽で立ち上がり、旦那さまの背後に回りました。ですけど、旦那さまはわたくしの手首を掴んで、動かないようになさいます。
「そのまま立っていてくれると、目の保養になるけどね」
「お断りです」
ええ、わたくしだって断るときははっきりと言うのです。
旦那さまの手をふり払い、場所を移動して、驚きました。
なんということでしょう。生々しいひっかき傷だらけです。
「琥太郎さんのところの猫ではありませんよね」
「そもそも触ってもいないな」
「では……これは」
「うちの猫だな」
わたくしは顔が青くなるのを感じました。いつ、旦那さまの背にこんなにも傷をつけたのでしょう。覚えていません。
いえ、あまりにも過ぎた快感が苦しくて、必死でしがみついていたのは記憶にありますけど。
「消毒をしないと」
「そうだな。風呂上がりにもう一度消毒するか。さっきは銀司にしてもらった」
ぎ、銀司さんにわたくしの乱れた痕跡を見られたなんて。目の前がくらくらします。
「銀司には怒られたよ。翠子さんに無茶をするなって」
「あ、あの……それで。他には」
「そうだな。夕飯をちゃんと食べさせることと、おやつの水ようかんを翠子さんにあげることを、約束させられた。なんでも銀司が買いに行ったらしい」
わたくしが黙り込んでいると、旦那さまがふり返って、わたくしの頬に手を添えました。
湯に浸かっていたてのひらは、とても温かいです。
「傷のことなら謝らなくていい。前後不覚になるほどにあなたを追い詰めたのは、俺なのだから」
「ですが……」
「他の人に傷などつけられたくもないが。あなたになら、いくらでも」
わたくしは旦那さまの肩に、寄り添いました。湯気を通したカンテラの明かりは柔らかく、旦那さまの表情を穏やかに照らしています。
本当に困るんですよ。無理強いは嫌ですし、あれほどに激しいのも苦しいんです。なのに、後々まで旦那さまに行為の痛みを残すのが、わたくしだなんて。
◇◇◇
お風呂から上がると、わたくしはお部屋で旦那さまの背中を消毒しました。
見ているだけで痛そうです。
わたくし、爪は伸ばしていないのですけど。いったいどれほどの力で、旦那さまの肌を掻きむしったのでしょう。
時刻はすでに夜の十時を過ぎています。
夕食というよりも夜食になってしまいましたが。お清さんが用意してくださったおにぎりと、肉団子を少しいただきます。それに細く切った胡瓜に、金山寺味噌を添えて。
どれも食べやすく、小さめに作ってあるんです。
わたくしがぽりぽりと胡瓜を齧っていると、旦那さまは背中にそっと手をまわしていらっしゃいます。
「痛いですよね。済みません」
「いや、痛いけれど、あなたが与えてくれた痛みだから、嬉しいと思って」
「……仰っている意味が……」
分かりません、と続けようとして、わたくしは言葉を途切れさせました。
いえ、分かります。
わたくしも旦那さまに抱かれて、穿たれる時に、痛いのですけれど。旦那さまが与えてくださる痛みだから、嬉しくもあるのです。
なんだか変態っぽいですね。
こんなこと、絶対に『少女画報』の投稿欄には手紙や葉書を出せません。
「銀司があなたのことを案じていたから。水ようかんも食べなさい。本当はこんな夜に、菓子はどうかと思うんだが。本当に銀司は、あなたに甘い」
わたくしと旦那さまのことは、お清さんにも銀司さんにも筒抜けで、本当に恥ずかしいのですけれど。
でも、旦那さまは平然となさっています。
銀司さんが買ってきてくださった水ようかんは、ほのかに甘くて。するりと口の中で優しく溶けていきました。
もう……今日は本当に困りました。
旦那さまに抱かれてから、どれくらいの時間が過ぎたのか分かりませんけれど。未だに体内に、あの感覚が残っていて。
しかもいつもと違い、ただ重苦しいだけではなく……何度も穿たれ、鈴が激しく暴れるように乱れる、その感覚が時折思い出されて。
だめです。気持ちを切り替えなくては。
わたくしは、頭を振りました。
そのせいで、濡れた髪から水滴が飛んで旦那さまの顔を濡らしました。
「いて……っ」
「す、すみません。髪が当たりましたか?」
「いや、雫くらいはなんともないが」
平気だと仰るのに、旦那さまは眉をしかめておいでです。
わたくしは手拭いで体を隠しながら浴槽で立ち上がり、旦那さまの背後に回りました。ですけど、旦那さまはわたくしの手首を掴んで、動かないようになさいます。
「そのまま立っていてくれると、目の保養になるけどね」
「お断りです」
ええ、わたくしだって断るときははっきりと言うのです。
旦那さまの手をふり払い、場所を移動して、驚きました。
なんということでしょう。生々しいひっかき傷だらけです。
「琥太郎さんのところの猫ではありませんよね」
「そもそも触ってもいないな」
「では……これは」
「うちの猫だな」
わたくしは顔が青くなるのを感じました。いつ、旦那さまの背にこんなにも傷をつけたのでしょう。覚えていません。
いえ、あまりにも過ぎた快感が苦しくて、必死でしがみついていたのは記憶にありますけど。
「消毒をしないと」
「そうだな。風呂上がりにもう一度消毒するか。さっきは銀司にしてもらった」
ぎ、銀司さんにわたくしの乱れた痕跡を見られたなんて。目の前がくらくらします。
「銀司には怒られたよ。翠子さんに無茶をするなって」
「あ、あの……それで。他には」
「そうだな。夕飯をちゃんと食べさせることと、おやつの水ようかんを翠子さんにあげることを、約束させられた。なんでも銀司が買いに行ったらしい」
わたくしが黙り込んでいると、旦那さまがふり返って、わたくしの頬に手を添えました。
湯に浸かっていたてのひらは、とても温かいです。
「傷のことなら謝らなくていい。前後不覚になるほどにあなたを追い詰めたのは、俺なのだから」
「ですが……」
「他の人に傷などつけられたくもないが。あなたになら、いくらでも」
わたくしは旦那さまの肩に、寄り添いました。湯気を通したカンテラの明かりは柔らかく、旦那さまの表情を穏やかに照らしています。
本当に困るんですよ。無理強いは嫌ですし、あれほどに激しいのも苦しいんです。なのに、後々まで旦那さまに行為の痛みを残すのが、わたくしだなんて。
◇◇◇
お風呂から上がると、わたくしはお部屋で旦那さまの背中を消毒しました。
見ているだけで痛そうです。
わたくし、爪は伸ばしていないのですけど。いったいどれほどの力で、旦那さまの肌を掻きむしったのでしょう。
時刻はすでに夜の十時を過ぎています。
夕食というよりも夜食になってしまいましたが。お清さんが用意してくださったおにぎりと、肉団子を少しいただきます。それに細く切った胡瓜に、金山寺味噌を添えて。
どれも食べやすく、小さめに作ってあるんです。
わたくしがぽりぽりと胡瓜を齧っていると、旦那さまは背中にそっと手をまわしていらっしゃいます。
「痛いですよね。済みません」
「いや、痛いけれど、あなたが与えてくれた痛みだから、嬉しいと思って」
「……仰っている意味が……」
分かりません、と続けようとして、わたくしは言葉を途切れさせました。
いえ、分かります。
わたくしも旦那さまに抱かれて、穿たれる時に、痛いのですけれど。旦那さまが与えてくださる痛みだから、嬉しくもあるのです。
なんだか変態っぽいですね。
こんなこと、絶対に『少女画報』の投稿欄には手紙や葉書を出せません。
「銀司があなたのことを案じていたから。水ようかんも食べなさい。本当はこんな夜に、菓子はどうかと思うんだが。本当に銀司は、あなたに甘い」
わたくしと旦那さまのことは、お清さんにも銀司さんにも筒抜けで、本当に恥ずかしいのですけれど。
でも、旦那さまは平然となさっています。
銀司さんが買ってきてくださった水ようかんは、ほのかに甘くて。するりと口の中で優しく溶けていきました。
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