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十一章
16、お代わり
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さすがに職員室で生徒が騒ぐのはまずいと判断したのか、裁縫の先生が「着物を直してあげるわ」と言って、柴田を連れだした。
「高瀬先生の取り巻きの中にね、あの子以外にも嫁ぎ先が決まった子がいるのよ」
「へー、それはめでたいですね」
何の感慨もなく棒読みでそう言った俺を見て、皆月先生は苦笑した。
「そっちは、なかなかのモダンボーイで、当たりらしいわ。ただ浮名を流すタイプの人だから、結婚しても家には寄り付かないんじゃないかしら」
「それは、当たりと言っていいんですか?」
「当然、寂しい思いはするでしょうね。でも、知り合いに見せびらかせる点では、あの子たちにとっては当たりなんでしょ?」
俺だったら、翠子さんの待つ家にはまっすぐに帰る。寄り道をすることがあるならば、それは彼女の好きな甘味を買いに行くくらいだ。
いや、今だってもう家に帰りたい。出勤してきたばかりだけど。
仕事、家でしてはいけないかなぁ。
◇◇◇
わたくしは、お昼をエリスと一緒にいただいています。お清さんと銀司さんも一緒ですよ。
今日の昼食はサンドウィッチです。お店で売っている洋風のも好きですけど、お清さんお手製の和風サンドウィッチもおいしいんです。
つくねときんぴらが挟んであるものと、あとはだし巻き玉子をオムレツ感覚でパンに挟んであります。
エリスには鶏のささみをほぐしたものを、与えています。足下に置いたお皿にてんこ盛りにしたささみを、エリスはすぐに食べ終えてしまいました。
「お水もちゃんと飲んでくださいよ」
お水のお皿を差し出すと、舌で器用にすくって飲んでいます。お上手ですね。いつまでも見ていられます。
食事中にどうかと思いますけど、エリスはご不浄もちゃんと失敗なくできるんですよ。
箱に新聞紙を切ったものを詰めて、その中で用を足すことをすぐに覚えてくれました。
「なんて賢いんでしょう」とわたくしが感動していると、旦那さまは「猫なら当たり前だ」なんて、素っ気なく仰います。
もう、エリスを褒めてさしあげたらいいのに。
ささみを食べ終えたエリスは、わたくしの膝に乗ってきました。そして、テーブルに前脚をかけると、わたくしを見上げて「にゃあ」と鳴きます。甘えるように。
「お清さん。つくねをあげてもいいかしら」
「葱が入っていますからね。よくないと思いますよ。味も濃いですし」
「じゃあ、パンにしましょうね」
だし巻き玉子もお醤油が入っているから、駄目ですよね。そういえば猫まんまってありますよね、鰹節のかかったご飯の。
「鰹節はまだしも、ご飯で腹を膨らますのはどうなんでしょうか」
銀司さんの言うことも尤もです。じゃあ、パンもあまりあげすぎてもいけませんね。
「でも、エリスちゃんには十分な量をあげていますけどね。琥太郎さんの指示通りですよ」
「そうなんですか? 物足りなさそうですけど」
わたくしが問いかけると、お清さんは「そうそう」と声をひそめました。まるでエリスに聞かれたくないように。
「三條組の料理人の方が、言ってましたよ。料理中にエリスちゃんが台所におねだりに来たり、こっそりと食材をくすねたりするんですって」
「まぁ、そんなことを?」
わたくしは、膝にちょこんと座るエリスを見つめました。本人は悪びれた様子もなく、小首をかしげています。
あ、ああ。なんと愛らしい。わたくしが料理人なら、いそいそと魚をあげてしまいそうです。
「それで、料理人さんも魚の切り落とした部分は、あげるのでしょう?」
「いーえ。琥太郎さんから制限されているらしく、一切やらないそうです。なかなか厳しく育てられてるんですねぇ」
確かにエリスは細身で体形もスッとしていますが。そこまで窮屈にしなくても。
「でも、エリスちゃんも負けていないそうですよ。自分で鳥を捕って、台所に持ってくるらしいですから」
「鳥って、飛んでいる鳥をですか?」
「木の枝に止まってる奴じゃないですか?」
銀司さんは指摘しますが、それはどうでもいいことです。しかも話を聞くと、三條組の料理人の元に「捌け」とばかりに咥えてくるらしいのです。しかも鳥だけではなく、トカゲにヤモリまで。
そのまま食べないのは、お行儀がいいのでしょうか? ちょっとよく分かりませんけど。
「ですから、これは翠子さんも銀司も、琥太郎さんには内緒ですよ」
お清さんは口の前で人差し指を立てながら、エリスに鶏のささみのお代わりをあげていました。
ええ、ええ。分かります。
エリスがお腹を空かせて、うちの台所に、雀だの燕だのを持ち込まれては困りますものね。しかもまな板の上に、鳥やトカゲを置かれては阿鼻叫喚です、大問題です。
「高瀬先生の取り巻きの中にね、あの子以外にも嫁ぎ先が決まった子がいるのよ」
「へー、それはめでたいですね」
何の感慨もなく棒読みでそう言った俺を見て、皆月先生は苦笑した。
「そっちは、なかなかのモダンボーイで、当たりらしいわ。ただ浮名を流すタイプの人だから、結婚しても家には寄り付かないんじゃないかしら」
「それは、当たりと言っていいんですか?」
「当然、寂しい思いはするでしょうね。でも、知り合いに見せびらかせる点では、あの子たちにとっては当たりなんでしょ?」
俺だったら、翠子さんの待つ家にはまっすぐに帰る。寄り道をすることがあるならば、それは彼女の好きな甘味を買いに行くくらいだ。
いや、今だってもう家に帰りたい。出勤してきたばかりだけど。
仕事、家でしてはいけないかなぁ。
◇◇◇
わたくしは、お昼をエリスと一緒にいただいています。お清さんと銀司さんも一緒ですよ。
今日の昼食はサンドウィッチです。お店で売っている洋風のも好きですけど、お清さんお手製の和風サンドウィッチもおいしいんです。
つくねときんぴらが挟んであるものと、あとはだし巻き玉子をオムレツ感覚でパンに挟んであります。
エリスには鶏のささみをほぐしたものを、与えています。足下に置いたお皿にてんこ盛りにしたささみを、エリスはすぐに食べ終えてしまいました。
「お水もちゃんと飲んでくださいよ」
お水のお皿を差し出すと、舌で器用にすくって飲んでいます。お上手ですね。いつまでも見ていられます。
食事中にどうかと思いますけど、エリスはご不浄もちゃんと失敗なくできるんですよ。
箱に新聞紙を切ったものを詰めて、その中で用を足すことをすぐに覚えてくれました。
「なんて賢いんでしょう」とわたくしが感動していると、旦那さまは「猫なら当たり前だ」なんて、素っ気なく仰います。
もう、エリスを褒めてさしあげたらいいのに。
ささみを食べ終えたエリスは、わたくしの膝に乗ってきました。そして、テーブルに前脚をかけると、わたくしを見上げて「にゃあ」と鳴きます。甘えるように。
「お清さん。つくねをあげてもいいかしら」
「葱が入っていますからね。よくないと思いますよ。味も濃いですし」
「じゃあ、パンにしましょうね」
だし巻き玉子もお醤油が入っているから、駄目ですよね。そういえば猫まんまってありますよね、鰹節のかかったご飯の。
「鰹節はまだしも、ご飯で腹を膨らますのはどうなんでしょうか」
銀司さんの言うことも尤もです。じゃあ、パンもあまりあげすぎてもいけませんね。
「でも、エリスちゃんには十分な量をあげていますけどね。琥太郎さんの指示通りですよ」
「そうなんですか? 物足りなさそうですけど」
わたくしが問いかけると、お清さんは「そうそう」と声をひそめました。まるでエリスに聞かれたくないように。
「三條組の料理人の方が、言ってましたよ。料理中にエリスちゃんが台所におねだりに来たり、こっそりと食材をくすねたりするんですって」
「まぁ、そんなことを?」
わたくしは、膝にちょこんと座るエリスを見つめました。本人は悪びれた様子もなく、小首をかしげています。
あ、ああ。なんと愛らしい。わたくしが料理人なら、いそいそと魚をあげてしまいそうです。
「それで、料理人さんも魚の切り落とした部分は、あげるのでしょう?」
「いーえ。琥太郎さんから制限されているらしく、一切やらないそうです。なかなか厳しく育てられてるんですねぇ」
確かにエリスは細身で体形もスッとしていますが。そこまで窮屈にしなくても。
「でも、エリスちゃんも負けていないそうですよ。自分で鳥を捕って、台所に持ってくるらしいですから」
「鳥って、飛んでいる鳥をですか?」
「木の枝に止まってる奴じゃないですか?」
銀司さんは指摘しますが、それはどうでもいいことです。しかも話を聞くと、三條組の料理人の元に「捌け」とばかりに咥えてくるらしいのです。しかも鳥だけではなく、トカゲにヤモリまで。
そのまま食べないのは、お行儀がいいのでしょうか? ちょっとよく分かりませんけど。
「ですから、これは翠子さんも銀司も、琥太郎さんには内緒ですよ」
お清さんは口の前で人差し指を立てながら、エリスに鶏のささみのお代わりをあげていました。
ええ、ええ。分かります。
エリスがお腹を空かせて、うちの台所に、雀だの燕だのを持ち込まれては困りますものね。しかもまな板の上に、鳥やトカゲを置かれては阿鼻叫喚です、大問題です。
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