【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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十一章

21、勘違いですから【2】

「何でもないんですよ。ええ、勘違いでした」

 わたくしの曖昧な態度を、詳らかにしようとする旦那さまから逃れなくてはなりません。
 ええ、わたくしが誤魔化して、旦那さまの追及をさらにかわそうとすると、どうなるか経験上分かっています。
 お仕置きが待っているんです。

「さっきの初恋は俺で間違いないよな」
「もちろんです。今も大好きですよ」

 ちゃんと言葉を重ねているのに、旦那さまは納得してくださいません。「なんか隠している気がするんだよな」と、あごに手を当てつつ箪笥に向かいます。

 旦那さまが引き出しを開けると、小さな布の包みを取りだしました。

「あっ」と、わたくしは思わず声を上げてしまいました。

 駄目です、そんなものを取りだしては。布に包まれたそれを、わたくしは覚えております。

「あ、あの。お仕置きは必要ないですよ」
「正直に話してくれたら、何もしない」

 言えって仰るんですか? しかも最近、お仕置き方法が変わってきていますよね。
 わたくしが三條組の人に荒縄で縛られて怖い思いをしたから、縛られることはなくなりましたけど。
 どこから仕入れた知識が存じ上げませんが、鈴は……もういいですよ。

 旦那さまが手にした布の包みから、軽やかな音色がしました。
 エリスはそれが鈴であると、気づいたのでしょう。急に遊んでほしそうに色めき立っています。

 旦那さまの足に前脚をかけて「投げてください。それを転がしてください」とでも言いたげに、愛らしく「にゃあ」とおねだりしています。

「エリスは、これで遊びたいのか?」

 包みから出した銀色の鈴を、旦那さまはちりりと揺らします。

 いやーっ。やめてください。
 それは、とてもいけない鈴ですよ。エリスのおもちゃではありません。

「い、言いますから」

 わたくしは恥を忍んで、柴田さんは縛られることに慣れていないから、旦那さまには決して向いていないこと。そんなことを考えていたから、旦那さまが仰ることを緊縛につなげて考えてしまっていたことを白状しました。

 それがどれだけ恥ずかしいことか、分かりますか?
 ただの勘違いならいいんです。でも、この場合は違うでしょう? 夜の匂いがぷんぷんする、淫靡な勘違いですよ。
 わたくしの頭の中が、爛れていると思われても反論はできません。

 案の定、旦那さまはにやにやとなさっています。
 意地悪な魔王が降臨です。

「ふーん。そうか、翠子さんは俺のことを、相当な変態だと思っていたわけだ。三條組の組員や、琥太郎兄さんを相手に縛る練習をするほどの」

 もう、本当に嫌っ。
 わたくしはエリスを抱き上げると、部屋を出ていきました。
 旗色が悪いです。悪すぎます。
 まだ牛乳羹をいただいていませんけど、どうせお部屋にいても食べることなんて無理です。

「翠子さん?」

 廊下を走っていると、背後から旦那さまの声が聞こえました。玄関に向かい、つっかけを履いて庭へと出ます。
 ええ、確かに逃げたはずなんです。
 なのに、どうして庭に旦那さまが先回りしているんですか?

「ふ……ふぇ、ぇぇ……」

 わたくしはエリスをぎゅうっと抱きしめて、庭の玉砂利に座り込みました。エリスは心配して、わたくしの顔を舐めてくれます。
 ありがとう、エリス。でも、魔王からは逃げきれませんでした。
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