琥太郎と欧之丞・一年早く生まれたからお兄ちゃんとか照れるやん

真風月花

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二章

12、夏の三太九郎【1】

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 時間は分からへんけど。朝焼けで部屋が明るく染まっているから、たぶん四時半くらいとちゃうかな。

 ぼくの頭の下で、じゃりっと音がしたんや。
 枕の中のそば殻や。
 布団に横たわったままで、ぼくは「ふふん」と鼻でわらった。

 ほら、平気やん。欧之丞の布団を奪ってもないし、あいつを乗り越えてもない。
 やっぱり意志の力やなぁ。ぼくはええ子やし、賢いもんなぁ。

「……う……うぅ」

 耳の近くで呻き声がする。なんやろと思って横を見ると、布団の端っこで欧之丞が小さく丸まっていた。

「どないしたん。なんでぼくの布団に入ってきとん。そんなに寂しかったんか?」

 それやったら、夜の間に父さんらの部屋に連れて行ったったのに。
 暗い廊下は怖いけど。それでも、ちゃんと欧之丞の手を引いて、それで父さんと母さんに任せて。帰りは……うん、ぼくも父さんらと一緒に寝たったのに。

「これからは寂しかったら、ちゃんと兄ちゃんに言うんやで」

 ぼくは上体を起こして、欧之丞の背中を撫でてやった。
 ん? 縁側に近い方の布団は、ぼくが寝とったはずやのに。
 なんでそっち側の布団が空っぽなん?

 もしかして、ここは欧之丞の布団ですか?
 ぼくは欧之丞を追い出したんですか?

――ええ、そうよ。琥太郎さんは悪い子ですね。

 空耳って分かっとうのに、母さんの声が聞こえた気がした。

 ちゃうねん。無意識やねん。欧之丞が邪魔なわけやないねん。

「……さむい」
「うんうん。そら、寒いやろ」

 だって、ぼくが布団をとってしもとんやもん。薄い夏布団やいうても、一枚あるんとないとでは大違いや。

 ぼくは冷えてしまった欧之丞に、布団をかけてやった。
 夏やいうても、夜や朝方は冷える。

 ああ、どうしよう。夏風邪はなかなか治らへんっていうし。
 ずっと寝ついとって、最近ようやく元気になってきたとこやのに。

「ごめんな、ごめんな。まだ上にでろーんと乗っかってる方がましやんな。重いけど、寒ないもんな」
「……だっこ」
「抱っこって、母さんとか父さんの?」

 どうしよ。父さんらを呼んできた方がええんやろか。
 でも、一人にさせたら不安がるかもしれへんし。

「こたにいの、だっこ」
「ぼくでええの?」
「うん」

 小さな手がぼくに伸ばされる。
 困った。だって、ぼくはいわば犯人なんやで。布団を強奪した……強奪って意味、あってるやんな?

 しゃあないから欧之丞にかけてやった夏布団をめくって、その中に入る。
 やっぱり、ちょっとひんやりとしとった。寝間着から覗く足も、足の指も冷えとう気がする。

 ごめんな、これからは布団は奪わへんから。そう心の中で繰り返しつつ、欧之丞を抱っこしてやる。

「あったかいね」

 へにゃっと欧之丞はぼくの顔を見て微笑んだ。
 ああ、罪悪感が何倍にも膨れ上がった。

 ほんまにごめんな。兄ちゃんは、欧之丞のこと守ったるからな。これからも、ずっと。

◇◇◇

 どれくらい抱っこしとったんやろ。ぼくが目を覚ました時には、欧之丞はもう起きだしとった。
 組の人間が庭を掃除する、ほうきの音。
 朝ご飯の御御御付おみおつけのにおいも漂ってくる。

 欧之丞は敷布団の上にちょこんと正座して(ん? なんで正座なん?)小さな包みをてのひらに載せとった。

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