35 / 103
二章
13、夏の三太九郎【2】
しおりを挟む
「こたにい。三太九郎が来た」
「三太九郎って、十二月に来る白いおひげのおじいさん? ええ子にしとったら贈り物をくれるっていう」
「うんっ」
えーと。確かその包みは、ゆうべ母さんがぼくらの枕元に置いたやつとちゃうんかな?
けど、欧之丞があまりにもきらきらと目を輝かせるから。
ぼくは真実を告げることができへんかった。
「俺、三太九郎がきたことないんだ。ほんとにいるんだな」
「え? そうなん」と言いかけて、ぼくは口を閉ざした。
うちは別にクリスチャンやないけど。毎年来とうで。
うーん、と腕を組んで考える。もしかしたら三太九郎って、父さんとか母さんなんやろか。いや、でもなぁ。そしたら三太九郎ってなんなん? って話やん。
「俺、おじさんとおばさんがかわいがってくれるから。三太九郎が、いい子だってかんちがいしたのかも」
「え? 欧之丞はええ子やで」
「ほんとに? うそじゃなくて?」
嘘なんてつくわけがない。父さんのほっぺたすりすりから逃れる時以外は。
「父さんも母さんも、ぼくも欧之丞がええ子やって知っとうから。三太九郎も、なるほどって思たんやろ」
「俺、いい子なんだ……」
まるで朝露に煌めく森の中で、カブトムシやクワガタを見つけた時みたいに、欧之丞は瞳を輝かせた。
そうやんな。これまで「あんたなんか産むんじゃなかった」と、実の母親に散々言われ続けた欧之丞や。
自分のことを、ええ子やなんて思われへんやろ。
あの母親の言葉は呪いや。
欧之丞の明るさも優しさも、楽しい日々も全部奪って。自分が悪い子やって思い込ませて、生まれてきてごめんなさいって刷り込ませて。
ほんまに最低で。
今の欧之丞は、呪いを祝福に変えるように父さんと母さんが守ってんのやろ。
「でも、三太九郎はあわてんぼだな」
欧之丞は、にかっと笑った。
「なんで? それ、薄荷の匂いがするで。薄荷、好きやろ」
「だって、まだ夏だもん。冬とぜんぜんちがう」
む? 妙なところでこざかしいぞ。
けど、三太九郎が欧之丞のとこに来たっていうのは、そのまま信じさせときたい。
だって、欧之丞のこんな笑顔。見とったら、こっちまでうれしなるやん。
うーん、とぼくは腕を組んだ。母さんに教えたったらええんやろか。それとも教えてしもたら、三太九郎の正体をぼくが知っとうってばれるよな。
いや、三太九郎は十二月に来るし……平気かな。
そんなぼくの心配など、まったく無用やった。
「二人とももう起きましたか?」と襖を開けて、客間に入って来る母さん。
欧之丞は、ぱぁっと顔を輝かせて母さんに飛びついたんや。
「絲おばさん。ぼくのとこに三太九郎、きた」
「あら。まぁ、それは素敵ね」
「うん。ぼく、いい子?」
「ええ。とってもいい子ですよ。だから三太九郎も特別に夏に来てくれたんだと思うわ」
欧之丞は、母さんの脚にしがみついて顔を見上げた。
「俺、このお家に来たから、いい子になれたよ」
母さんは、なぜか泣きそうに眉を下げて、そして欧之丞の頭を撫でたった。
「欧之丞さんは、元々いい子ですよ」
「ほんとに?」
「ええ。優しくて勇敢で。でも、そうでなかったとしても、とてもいい子です」
欧之丞は、母さんにぎゅっとしがみついた。
「ハッカ、好き。だって、甘くてもすーっとするから」
「ええ。檸檬も好きですよね」
「うん。レモンも甘くてもたべられる」
「……そうだったの。そういうことだったの」と母さんは呟いて、畳にしゃがみこんで欧之丞の背中を抱きしめた。
「いいんですよ。好き嫌いがあったって。子どもだから、甘いものを食べなくてはならないなんて、そんな決まりはありません」
母さんの言うとうことが、ぼくにはよう分からんかった。
「三太九郎って、十二月に来る白いおひげのおじいさん? ええ子にしとったら贈り物をくれるっていう」
「うんっ」
えーと。確かその包みは、ゆうべ母さんがぼくらの枕元に置いたやつとちゃうんかな?
けど、欧之丞があまりにもきらきらと目を輝かせるから。
ぼくは真実を告げることができへんかった。
「俺、三太九郎がきたことないんだ。ほんとにいるんだな」
「え? そうなん」と言いかけて、ぼくは口を閉ざした。
うちは別にクリスチャンやないけど。毎年来とうで。
うーん、と腕を組んで考える。もしかしたら三太九郎って、父さんとか母さんなんやろか。いや、でもなぁ。そしたら三太九郎ってなんなん? って話やん。
「俺、おじさんとおばさんがかわいがってくれるから。三太九郎が、いい子だってかんちがいしたのかも」
「え? 欧之丞はええ子やで」
「ほんとに? うそじゃなくて?」
嘘なんてつくわけがない。父さんのほっぺたすりすりから逃れる時以外は。
「父さんも母さんも、ぼくも欧之丞がええ子やって知っとうから。三太九郎も、なるほどって思たんやろ」
「俺、いい子なんだ……」
まるで朝露に煌めく森の中で、カブトムシやクワガタを見つけた時みたいに、欧之丞は瞳を輝かせた。
そうやんな。これまで「あんたなんか産むんじゃなかった」と、実の母親に散々言われ続けた欧之丞や。
自分のことを、ええ子やなんて思われへんやろ。
あの母親の言葉は呪いや。
欧之丞の明るさも優しさも、楽しい日々も全部奪って。自分が悪い子やって思い込ませて、生まれてきてごめんなさいって刷り込ませて。
ほんまに最低で。
今の欧之丞は、呪いを祝福に変えるように父さんと母さんが守ってんのやろ。
「でも、三太九郎はあわてんぼだな」
欧之丞は、にかっと笑った。
「なんで? それ、薄荷の匂いがするで。薄荷、好きやろ」
「だって、まだ夏だもん。冬とぜんぜんちがう」
む? 妙なところでこざかしいぞ。
けど、三太九郎が欧之丞のとこに来たっていうのは、そのまま信じさせときたい。
だって、欧之丞のこんな笑顔。見とったら、こっちまでうれしなるやん。
うーん、とぼくは腕を組んだ。母さんに教えたったらええんやろか。それとも教えてしもたら、三太九郎の正体をぼくが知っとうってばれるよな。
いや、三太九郎は十二月に来るし……平気かな。
そんなぼくの心配など、まったく無用やった。
「二人とももう起きましたか?」と襖を開けて、客間に入って来る母さん。
欧之丞は、ぱぁっと顔を輝かせて母さんに飛びついたんや。
「絲おばさん。ぼくのとこに三太九郎、きた」
「あら。まぁ、それは素敵ね」
「うん。ぼく、いい子?」
「ええ。とってもいい子ですよ。だから三太九郎も特別に夏に来てくれたんだと思うわ」
欧之丞は、母さんの脚にしがみついて顔を見上げた。
「俺、このお家に来たから、いい子になれたよ」
母さんは、なぜか泣きそうに眉を下げて、そして欧之丞の頭を撫でたった。
「欧之丞さんは、元々いい子ですよ」
「ほんとに?」
「ええ。優しくて勇敢で。でも、そうでなかったとしても、とてもいい子です」
欧之丞は、母さんにぎゅっとしがみついた。
「ハッカ、好き。だって、甘くてもすーっとするから」
「ええ。檸檬も好きですよね」
「うん。レモンも甘くてもたべられる」
「……そうだったの。そういうことだったの」と母さんは呟いて、畳にしゃがみこんで欧之丞の背中を抱きしめた。
「いいんですよ。好き嫌いがあったって。子どもだから、甘いものを食べなくてはならないなんて、そんな決まりはありません」
母さんの言うとうことが、ぼくにはよう分からんかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる