琥太郎と欧之丞・一年早く生まれたからお兄ちゃんとか照れるやん

真風月花

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二章

13、夏の三太九郎【2】

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「こたにい。三太九郎が来た」
「三太九郎って、十二月に来る白いおひげのおじいさん? ええ子にしとったら贈り物をくれるっていう」
「うんっ」

 えーと。確かその包みは、ゆうべ母さんがぼくらの枕元に置いたやつとちゃうんかな?
 けど、欧之丞があまりにもきらきらと目を輝かせるから。
 ぼくは真実を告げることができへんかった。

「俺、三太九郎がきたことないんだ。ほんとにいるんだな」

「え? そうなん」と言いかけて、ぼくは口を閉ざした。
 うちは別にクリスチャンやないけど。毎年来とうで。

 うーん、と腕を組んで考える。もしかしたら三太九郎って、父さんとか母さんなんやろか。いや、でもなぁ。そしたら三太九郎ってなんなん? って話やん。

「俺、おじさんとおばさんがかわいがってくれるから。三太九郎が、いい子だってかんちがいしたのかも」
「え? 欧之丞はええ子やで」
「ほんとに? うそじゃなくて?」

 嘘なんてつくわけがない。父さんのほっぺたすりすりから逃れる時以外は。
 
「父さんも母さんも、ぼくも欧之丞がええ子やって知っとうから。三太九郎も、なるほどって思たんやろ」
「俺、いい子なんだ……」

 まるで朝露に煌めく森の中で、カブトムシやクワガタを見つけた時みたいに、欧之丞は瞳を輝かせた。

 そうやんな。これまで「あんたなんか産むんじゃなかった」と、実の母親に散々言われ続けた欧之丞や。
 自分のことを、ええ子やなんて思われへんやろ。

 あの母親の言葉は呪いや。
 欧之丞の明るさも優しさも、楽しい日々も全部奪って。自分が悪い子やって思い込ませて、生まれてきてごめんなさいって刷り込ませて。
 ほんまに最低で。

 今の欧之丞は、呪いを祝福に変えるように父さんと母さんが守ってんのやろ。
 
「でも、三太九郎はあわてんぼだな」

 欧之丞は、にかっと笑った。

「なんで? それ、薄荷の匂いがするで。薄荷、好きやろ」
「だって、まだ夏だもん。冬とぜんぜんちがう」

 む? 妙なところでこざかしいぞ。
 けど、三太九郎が欧之丞のとこに来たっていうのは、そのまま信じさせときたい。

 だって、欧之丞のこんな笑顔。見とったら、こっちまでうれしなるやん。

 うーん、とぼくは腕を組んだ。母さんに教えたったらええんやろか。それとも教えてしもたら、三太九郎の正体をぼくが知っとうってばれるよな。
 いや、三太九郎は十二月に来るし……平気かな。

 そんなぼくの心配など、まったく無用やった。

「二人とももう起きましたか?」と襖を開けて、客間に入って来る母さん。
 欧之丞は、ぱぁっと顔を輝かせて母さんに飛びついたんや。

「絲おばさん。ぼくのとこに三太九郎、きた」
「あら。まぁ、それは素敵ね」
「うん。ぼく、いい子?」
「ええ。とってもいい子ですよ。だから三太九郎も特別に夏に来てくれたんだと思うわ」

 欧之丞は、母さんの脚にしがみついて顔を見上げた。

「俺、このお家に来たから、いい子になれたよ」

 母さんは、なぜか泣きそうに眉を下げて、そして欧之丞の頭を撫でたった。

「欧之丞さんは、元々いい子ですよ」
「ほんとに?」
「ええ。優しくて勇敢で。でも、そうでなかったとしても、とてもいい子です」

 欧之丞は、母さんにぎゅっとしがみついた。
 
「ハッカ、好き。だって、甘くてもすーっとするから」
「ええ。檸檬も好きですよね」
「うん。レモンも甘くてもたべられる」

「……そうだったの。そういうことだったの」と母さんは呟いて、畳にしゃがみこんで欧之丞の背中を抱きしめた。

「いいんですよ。好き嫌いがあったって。子どもだから、甘いものを食べなくてはならないなんて、そんな決まりはありません」

 母さんの言うとうことが、ぼくにはよう分からんかった。
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