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二章
14、二人の朝食 ※絲視点
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琥太郎さんと欧之丞さんに朝食を運んで、二人が食べるところをわたしは見守っていました。
「今日の御御御付けは、お茄子とお揚げさん?」
「そうですね」
「茗荷は頭が悪なるから、ぼくいらん」
子どもとは思えない、生意気な口の利き方です。
琥太郎さんは最近「御御御付け」なんて、畏まって言うのが気に入っているみたいです。
そういうところが、子どもなんですけどね。
「みょうがって、バカになるの?」
「せやで」
驚愕の事実を教えられた、という風に欧之丞さんが目を大きく見開きます。
「バカになるたべもの……」
「せや、気ぃつけや」
琥太郎さんに念押しされて、欧之丞さんは「うんうん」と頷きます。
うーん、茗荷をたくさん食べると馬鹿になるというのは、迷信だと思うんですけど。
でも、さすがにわたしも試す勇気はありません。
「大丈夫ですよ。でも、薬味は苦手なら入れなくてもいいんですよ」
欧之丞さんは豆皿に入った茗荷を睨みつけた後、「やっぱり、いらない」と小さく呟きました。
まぁ、子どもには難しい味ですよね。
わたしはお櫃に入ったご飯を、お茶碗によそって二人の前に置きました。
最近は、欧之丞さんも食べられる量が増えてきたので安心です。
「たまごー」と嬉しそうに言いながら、欧之丞さんはだし巻玉子をお箸で切り分けています。
最近、お箸をうまく使えるようになったみたい。
琥太郎さんはというと、お味噌汁を飲みながら、ちらちらと茗荷を眺めています。
ええ、ええ。気になりますよね。
「琥太郎さん、だめですよ。森内さんあたりを騙して、茗荷を大量に食べさせては」
「え? ぼく、そんなことせぇへん」
琥太郎さんは慌てた様子です。
「だって、森内はもともと頭良くないから。茗荷を食べさせても、差が分からへんやん。そんなん比較にならへんもん」
わたしの想像の遥か斜め上のことを考えていたみたいです。
躾って難しいですね。
わたしは小さくため息をつきました。
「よぉ、お二人さん。ちゃんと食べとうか?」
開けたままの襖から、片手を上げて蒼一郎さんが入っていらっしゃいました。
朝食の前に、組員の鍛錬に付き合っていたみたいです。手には木刀を持ち、ひたいには汗を浮かべていらっしゃいました。
「蒼一郎おじさん。三太九郎、きたっ」
「お、そうか。よかったな」
蒼一郎さんは、それはもう嬉しそうな笑顔を浮かべました。
多分、わたしも今朝一番に同じような表情をしたと思います。
琥太郎さんは、たぶん三太九郎が本当にいるのかどうか迷っている様子です。
去年の聖誕祭では、「三太九郎、きたで」とたいそう喜んでいたのに。
あの時は四歳でしたから。純粋に信じていたのね。
子どもが親の思う通りに育たないことなんて、当たり前だと思うのに。わたしなんて、虚弱すぎて何一つ両親の期待には応えられていません。
なのに、それを責められることもなく、とくにおじいさまがわたしを守って大事に育ててくださいました。
欧之丞さんは甘いものが苦手ですから。きっと子どもらしくないと、彼のお母さんは面白くなかったのでしょうね。
夫婦仲の悪さも、おそらくはご主人に似た顔であろう欧之丞さんの容姿も。何もかもが見るのが嫌で。
夫婦で話し合うこともできなかったのね。それで鬱屈を、小さくて弱い抵抗のできない欧之丞さんにぶつけて。
殺しても構わないと思うほどに憎んで。
そんなことをしても、何も変わらないのに。もっと立場が悪くなるばかりなのに。
いずれ自我を得た欧之丞さんに憎まれるだけなのに。
子どもは、いつまでも子どもではないのに。
「みてー、お茄子」
「お、上手に箸で挟めるやん」
嬉しそうに、お味噌汁のお茄子を蒼一郎さんに見せている欧之丞さん。あなたの笑顔を見られることがわたしも蒼一郎さんも、琥太郎さんも嬉しいのよ。
「今日の御御御付けは、お茄子とお揚げさん?」
「そうですね」
「茗荷は頭が悪なるから、ぼくいらん」
子どもとは思えない、生意気な口の利き方です。
琥太郎さんは最近「御御御付け」なんて、畏まって言うのが気に入っているみたいです。
そういうところが、子どもなんですけどね。
「みょうがって、バカになるの?」
「せやで」
驚愕の事実を教えられた、という風に欧之丞さんが目を大きく見開きます。
「バカになるたべもの……」
「せや、気ぃつけや」
琥太郎さんに念押しされて、欧之丞さんは「うんうん」と頷きます。
うーん、茗荷をたくさん食べると馬鹿になるというのは、迷信だと思うんですけど。
でも、さすがにわたしも試す勇気はありません。
「大丈夫ですよ。でも、薬味は苦手なら入れなくてもいいんですよ」
欧之丞さんは豆皿に入った茗荷を睨みつけた後、「やっぱり、いらない」と小さく呟きました。
まぁ、子どもには難しい味ですよね。
わたしはお櫃に入ったご飯を、お茶碗によそって二人の前に置きました。
最近は、欧之丞さんも食べられる量が増えてきたので安心です。
「たまごー」と嬉しそうに言いながら、欧之丞さんはだし巻玉子をお箸で切り分けています。
最近、お箸をうまく使えるようになったみたい。
琥太郎さんはというと、お味噌汁を飲みながら、ちらちらと茗荷を眺めています。
ええ、ええ。気になりますよね。
「琥太郎さん、だめですよ。森内さんあたりを騙して、茗荷を大量に食べさせては」
「え? ぼく、そんなことせぇへん」
琥太郎さんは慌てた様子です。
「だって、森内はもともと頭良くないから。茗荷を食べさせても、差が分からへんやん。そんなん比較にならへんもん」
わたしの想像の遥か斜め上のことを考えていたみたいです。
躾って難しいですね。
わたしは小さくため息をつきました。
「よぉ、お二人さん。ちゃんと食べとうか?」
開けたままの襖から、片手を上げて蒼一郎さんが入っていらっしゃいました。
朝食の前に、組員の鍛錬に付き合っていたみたいです。手には木刀を持ち、ひたいには汗を浮かべていらっしゃいました。
「蒼一郎おじさん。三太九郎、きたっ」
「お、そうか。よかったな」
蒼一郎さんは、それはもう嬉しそうな笑顔を浮かべました。
多分、わたしも今朝一番に同じような表情をしたと思います。
琥太郎さんは、たぶん三太九郎が本当にいるのかどうか迷っている様子です。
去年の聖誕祭では、「三太九郎、きたで」とたいそう喜んでいたのに。
あの時は四歳でしたから。純粋に信じていたのね。
子どもが親の思う通りに育たないことなんて、当たり前だと思うのに。わたしなんて、虚弱すぎて何一つ両親の期待には応えられていません。
なのに、それを責められることもなく、とくにおじいさまがわたしを守って大事に育ててくださいました。
欧之丞さんは甘いものが苦手ですから。きっと子どもらしくないと、彼のお母さんは面白くなかったのでしょうね。
夫婦仲の悪さも、おそらくはご主人に似た顔であろう欧之丞さんの容姿も。何もかもが見るのが嫌で。
夫婦で話し合うこともできなかったのね。それで鬱屈を、小さくて弱い抵抗のできない欧之丞さんにぶつけて。
殺しても構わないと思うほどに憎んで。
そんなことをしても、何も変わらないのに。もっと立場が悪くなるばかりなのに。
いずれ自我を得た欧之丞さんに憎まれるだけなのに。
子どもは、いつまでも子どもではないのに。
「みてー、お茄子」
「お、上手に箸で挟めるやん」
嬉しそうに、お味噌汁のお茄子を蒼一郎さんに見せている欧之丞さん。あなたの笑顔を見られることがわたしも蒼一郎さんも、琥太郎さんも嬉しいのよ。
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