76 / 103
四章
6、飴細工【1】
しおりを挟む
「子どもが二人きりでも危なないように、おじさんが目の届くとこにおったるから。遊んでき」
「え? ええんですか?」
てっきり家に帰るように言われると思たのに。元締めさんは「今日は特別やで」と微笑んだ。
欧之丞は「ありがとうございます」と、普段よりも丁寧な言葉遣いをした。
「高瀬の子は、三條さんのとこで可愛がってもろとんやな。ええことや」
「おじさんは、欧之丞のことを知ってはるんですね」
「まぁ、高瀬さんはこの辺の地主やからな、多少は。爺さんや父親は面識があったしな。今はこの子が次の当主で、後見人は三條さんやったな……まぁ、その方がええわ。うん、それがええ」
元締めさんの言葉が歯切れ悪いのは、欧之丞がどんな扱いを実家で受け取ったかを知ってるからやろ。
父さんが、べらべらと喋るはずがないから。多分、この辺りの有力者とかそういう人らは、欧之丞の母親の虐待のことも、父親が家を捨てて出て行ったことも、よう知ってるに違いない。
大人の間では、きっと欧之丞は「可哀想な、哀れな子ども」やったんやろ。
でも、今の欧之丞は違う。
元気いっぱいで、ぼくのことを振り回して。むしろやんちゃな子や。
全然、可哀想とちゃうもん。
「琥太郎くんもやけど、欧之丞くんもずいぶんと変わったな。元気そうやし、明るなってなによりや」
大きな手が、欧之丞の頭をわしわしと撫でる。
「うわー、首がもげる」
「なんでや、そこまで力いれてへんやろ。っていうか自分、海ほおずき鳴らすん、下手やな」
「下手じゃないもんっ」
口を尖らせて言い返す欧之丞。こいつほんまに怖いもん知らずやな。
「ほら、できるもん」と言いながら、欧之丞は海ほおずきを鳴らした。
やっぱり「ぷひぷひ」という、変な音や。
これは練習が必要やな。
ま、ぼくも鳴らしたことないけどな。
元締めさんは、一生懸命に間抜けた音を出す欧之丞を優しいまなざしで見つめとった。
不思議と欧之丞は、いろんな人に愛される。
どっちかというと、怖そうな人に。
◇◇◇
「こたにい。俺、あれが欲しい」
「ん? 金魚以外ならええで」
欧之丞が指さす先を見ると、そこには飴細工の屋台があった。
透明な柔らかい飴に色を付けて、それを引っ張ったり鋏で切ったりして、いろんな形にしていく。
どうやら、夜店の台に挿してある飴が獅子や龍の形をしてるのが気に入ったらしい。
「作ってもらおか? 何がええ?」
「え。なんでも作ってもらえるの?」
「うん、だいたいは」
ぼくは欧之丞の手を引いて、飴細工の幟が夜風にはためく方へと向かった。
飴細工の職人さんが「なんや坊主ら、飴が欲しいんか」と訊いてくる。けど、すぐにぼくらの背後を見て「いらっしゃいませ」と頭を下げた。
うん。ちょっと後ろに元締めさんが立ってるからなぁ。それも腕を組んでふんぞりかえってる。威圧感あるよな、この人。
「あ、済みません。もしかしてこちらの坊ちゃんたちは……あれ? でも元締めにお子さんは。甥っ子さんでいらっしゃいますか」
「いや。三條んとこの息子らや」
今度は飴細工の職人さんは「ひっ」と引きつった声を上げた。
「え? ええんですか?」
てっきり家に帰るように言われると思たのに。元締めさんは「今日は特別やで」と微笑んだ。
欧之丞は「ありがとうございます」と、普段よりも丁寧な言葉遣いをした。
「高瀬の子は、三條さんのとこで可愛がってもろとんやな。ええことや」
「おじさんは、欧之丞のことを知ってはるんですね」
「まぁ、高瀬さんはこの辺の地主やからな、多少は。爺さんや父親は面識があったしな。今はこの子が次の当主で、後見人は三條さんやったな……まぁ、その方がええわ。うん、それがええ」
元締めさんの言葉が歯切れ悪いのは、欧之丞がどんな扱いを実家で受け取ったかを知ってるからやろ。
父さんが、べらべらと喋るはずがないから。多分、この辺りの有力者とかそういう人らは、欧之丞の母親の虐待のことも、父親が家を捨てて出て行ったことも、よう知ってるに違いない。
大人の間では、きっと欧之丞は「可哀想な、哀れな子ども」やったんやろ。
でも、今の欧之丞は違う。
元気いっぱいで、ぼくのことを振り回して。むしろやんちゃな子や。
全然、可哀想とちゃうもん。
「琥太郎くんもやけど、欧之丞くんもずいぶんと変わったな。元気そうやし、明るなってなによりや」
大きな手が、欧之丞の頭をわしわしと撫でる。
「うわー、首がもげる」
「なんでや、そこまで力いれてへんやろ。っていうか自分、海ほおずき鳴らすん、下手やな」
「下手じゃないもんっ」
口を尖らせて言い返す欧之丞。こいつほんまに怖いもん知らずやな。
「ほら、できるもん」と言いながら、欧之丞は海ほおずきを鳴らした。
やっぱり「ぷひぷひ」という、変な音や。
これは練習が必要やな。
ま、ぼくも鳴らしたことないけどな。
元締めさんは、一生懸命に間抜けた音を出す欧之丞を優しいまなざしで見つめとった。
不思議と欧之丞は、いろんな人に愛される。
どっちかというと、怖そうな人に。
◇◇◇
「こたにい。俺、あれが欲しい」
「ん? 金魚以外ならええで」
欧之丞が指さす先を見ると、そこには飴細工の屋台があった。
透明な柔らかい飴に色を付けて、それを引っ張ったり鋏で切ったりして、いろんな形にしていく。
どうやら、夜店の台に挿してある飴が獅子や龍の形をしてるのが気に入ったらしい。
「作ってもらおか? 何がええ?」
「え。なんでも作ってもらえるの?」
「うん、だいたいは」
ぼくは欧之丞の手を引いて、飴細工の幟が夜風にはためく方へと向かった。
飴細工の職人さんが「なんや坊主ら、飴が欲しいんか」と訊いてくる。けど、すぐにぼくらの背後を見て「いらっしゃいませ」と頭を下げた。
うん。ちょっと後ろに元締めさんが立ってるからなぁ。それも腕を組んでふんぞりかえってる。威圧感あるよな、この人。
「あ、済みません。もしかしてこちらの坊ちゃんたちは……あれ? でも元締めにお子さんは。甥っ子さんでいらっしゃいますか」
「いや。三條んとこの息子らや」
今度は飴細工の職人さんは「ひっ」と引きつった声を上げた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる