琥太郎と欧之丞・一年早く生まれたからお兄ちゃんとか照れるやん

真風月花

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四章

7、飴細工【2】

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 飴細工の職人さんは、ぼくらに向かって深々と頭を下げる。
 なんなら、膝におでこがくっつきそうな勢いや。

「三條の組長さんには、お世話になっております。まさかお坊ちゃんが二人もいらっしゃるとは存じ上げず。ご挨拶も遅れてしまい、申し訳ございません」

 ぼくと欧之丞は顔を見合わせた。
「困ったなぁ」というのが、互いの感想や。眉を下げた欧之丞の表情からも、それが判る。

「まぁ、そんなんええから。飴を作ったり」

 元締めさんが口添えしてくれたから、ようやく職人さんは阿多Mを上げた。
 ぼくはぺこりと頭を下げて「ご丁寧にありがとうございます。家に戻ったら、伝えておきますので」と言った。

 そんなぼくを、欧之丞が口をぽかんと開けて眺めている。

「どないしたん?」
「こたにい。大人なのか?」
「へ? なんで」
「だって、大人のむずかしい話をしたぞ」

 欧之丞はぼくのシャツの袖を引っ張った。

「なぁなぁ。俺も五歳になったら大人になれる?」
「なれるんちゃうかなぁ……知らんけど」
「ほんとに?」

 煌めく瞳で見上げられて、心底困った。
 普通な、五歳は大人とちゃうねん。ぼくは大人の真似をしとうだけやねん。

「俺、こたにいみたいに、しっかりする。お風呂に入ったら髪も自分で洗う。今日から大人になるから」
「う、うん。頑張ってな」
 
 そんなぼくらの後ろで、元締めさんが後ろを向いて肩を震わせてる。
 うう、お願いやから欧之丞。ぼくを大人扱いせんといて。ほんまの大人がおるから恥ずかしいやんか。

 ぼくらはようやく飴を作ってもらうことになった。職人さんはお金は受け取らへんって言い張ったけど。「次から来にくなるから、受け取ってください」って言うたら、納得してくれた。
 もちろん元締めさんの「坊ちゃんの言うことも尤もやで」という口添えがあったからやけど。

 なんかなー、子どもだけでお出かけって大変やな。

「えーと、欧之丞は飴は何にする?」
「俺、ギンヤンマ」
「え? 龍やのうて?」

「うん、ギンヤンマ」と欧之丞は力強くうなずいた。
 あんまり大人が選ぶのやないけど……。

「トンボですね」
「トンボじゃないもん。ギンヤンマ」

 欧之丞は身を乗り出して主張する。自分、ほんまにギンヤンマ好きやんなぁ。
 ぼくは、トンボを含めて虫の良さは分からんわ。

 目の前で柔らかい飴が伸ばされて、翅なんかほんまにトンボ(ギンヤンマっていわんと欧之丞に怒られるな)の透きとおったのにそっくりやった。

「うわぁ、うわぁ。かっこいー」
「うん。かっこええな」

 ぼくまでもが飴の細工に夢中になった。
 棒がついとうけど。そのギンヤンマは、まるで飛んできて棒にとまったように見えたからや。

「琥太郎くんは何にするんや?」
「えっと、その……」
「ん?」

 元締めさんに顔を覗きこまれて、ちょっと恥ずかしくなった。
 でも、せっかくやから。こんな機会は滅多にないし。

「ぼく、お花……じゃなくて花がええ。えーと、朝顔で」

 意外と欧之丞は驚かんかった。人によっては、男らしくないとか言うこともあるのに。
 ぼくのことを馬鹿にしたりせぇへんから。欧之丞は。

「朝顔、きれいだよな」
「う、うん」
「俺はなー、青い朝顔が好き。こたにいは?」
「え、えっと。紫色で、白い絞りが入ってるのん」
「じゃあ、それ作ってもらお」

 ほんまはウサちゃんと迷ったんやけど。さすがに、子どもっぽすぎるから。それはやめた。

 けど、朝顔で正解やった。

 透き通った紫色と、白い絞りの部分。葉っぱも、それからくるくるとした蔓もある。
 ぼくは、うっとりと出来上がっていく朝顔を見つめてた。
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