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四章
8、見つかってしもた
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ぼくと欧之丞は、それぞれ作ってもろた飴細工を見せあった。
ギンヤンマが飛んできて、ぼくの朝顔にとまる。
「トンボが巨大に見えるよ」
「ほんまやなぁ」
さすがに朝顔は実物大ってわけにはいかへんもんなぁ。
そんな風に二人で遊んでいると、ちょっと後ろに立っている元締めさんが「あっ」と声を上げた。
ぼくは察しがええから。慌てて欧之丞の手を引っ張って、元締めさんの背後に隠れた。
ざっざっと玉砂利を踏む音が、近づいてくる。
見なくても、それがうちの組員であると気づいた。
「探しましたよ、若。こんなところにいらしたんですか」
「う、うん」
波多野や、ぼくのよう知ってる森内やない。波多野は父さんの信頼が厚いから「しゃあないですね。目の届く範囲にいてくださいよ」とため息をつきながら、きっと遊ばせてくれる。
森内は「俺を誘ってくれたらええのに。ええとこに連れてってあげますよ」と乗ってくる。
「高瀬の坊ちゃん。あなたですか、うちの若を連れだしたのは」
「え?」
突然名指しされて、欧之丞は呆然とした。
相手は、ほとんど顔も知らない組員や。ぼくかて、名前すら知らへん。
「勝手なことをされては困ります。いくら頭に可愛がられているとはいえ、あなたはただの居候なのですから」
「いそうろう? 俺、じゃまってこと?」
「そうですよ。あなたがいらしてから、若は変わってしまわれた。子どもじみた遊びに興じて、そんなつまらない飴細工に夢中になって」
つまらない? なんでそんなことを言うん?
ぼくは拳を握りしめた。朝顔の飴についてる棒が折れそうになる。
「俺、こたにいと一緒にいたらだめなの? こたにい、悪くなるの?」
「そうです。若に子どもの友達なんか必要ないんです。あなたは若の足を引っ張ってばかりだ」
言いたい放題言われた欧之丞は、肩を落としてうなだれた。
ちがう。ぼくは大人の真似をしてたぼくは、いい子のふりをしてたぼくは……あんなん本物のぼくやない。
「欧之丞は、ぼくの足なんか引っ張ってないっ。欧之丞がおってくれるから、ぼくは強くなれるんや」
「若……」
「黙って出てきたんは謝る。けど、欧之丞を悪く言うんは許さへんっ。今日、家を抜け出そうって誘ったんは、ぼくなんや!」
滅多に出さない大声を出した所為で、宵祭りに集まってる人らが、立ち止まってぼくらを遠巻きにしてる。
子どもは母親の着物の袖を引っ張って「あの子、どうしたの?」って訊いてるし。
ああ、もう悪目立ちしてるやんか。
目立ちたないから、人の中に溶けこみたいから。内緒で出てきたのに。元締めさんかって気を遣ってくれて、せっかくちょっと離れた位置におってくれたのに。
なんでぼくの気持ちを分かってくれへんの?
頭上に浮かんでる無数の提灯の灯りが、滲んで見えた。
まるで水の中におるみたいに。
なんでぼやけるんやろ。雨でも降りだしたんやろか。そう思たら、欧之丞が自分のズボンのポケットから手巾を取りだした。
そして、手巾をぼくの目に当てたんや。
ようやく、ぼくは自分が泣いてるって気づいた。柔らかな手巾が、ぼくの温かい涙を吸い取っていく。
「俺が祭りに来たいって言ったんだ。こたにいは関係ない」
「欧之丞……」
先に宵祭りに行きたいって言いだしたんは、ぼくやった。でも、欧之丞は母さんに食い下がって、どうしても行きたいってせがんだんや。
我の強い欧之丞やけど、そんなに我儘やない。せやから、ぼくは欧之丞の希望を叶えたかってん。
「まぁ、そんな責めんでもええやんか。そろそろ三條さんも帰ってきはるやろ。それまでこの子らの側におったるから、それで堪忍してくれへんか」
「ですが……」
「三條さんから直々に、子どもらの見張りを頼まれたわけやないんやろ。俺が見てるっていうてるのに、なんでお前らがでしゃばるんや?」
元締めさんの口調は、低く冷たくなっていった。それまでざわついていた周囲の人達も、しんとなったくらいや。
ギンヤンマが飛んできて、ぼくの朝顔にとまる。
「トンボが巨大に見えるよ」
「ほんまやなぁ」
さすがに朝顔は実物大ってわけにはいかへんもんなぁ。
そんな風に二人で遊んでいると、ちょっと後ろに立っている元締めさんが「あっ」と声を上げた。
ぼくは察しがええから。慌てて欧之丞の手を引っ張って、元締めさんの背後に隠れた。
ざっざっと玉砂利を踏む音が、近づいてくる。
見なくても、それがうちの組員であると気づいた。
「探しましたよ、若。こんなところにいらしたんですか」
「う、うん」
波多野や、ぼくのよう知ってる森内やない。波多野は父さんの信頼が厚いから「しゃあないですね。目の届く範囲にいてくださいよ」とため息をつきながら、きっと遊ばせてくれる。
森内は「俺を誘ってくれたらええのに。ええとこに連れてってあげますよ」と乗ってくる。
「高瀬の坊ちゃん。あなたですか、うちの若を連れだしたのは」
「え?」
突然名指しされて、欧之丞は呆然とした。
相手は、ほとんど顔も知らない組員や。ぼくかて、名前すら知らへん。
「勝手なことをされては困ります。いくら頭に可愛がられているとはいえ、あなたはただの居候なのですから」
「いそうろう? 俺、じゃまってこと?」
「そうですよ。あなたがいらしてから、若は変わってしまわれた。子どもじみた遊びに興じて、そんなつまらない飴細工に夢中になって」
つまらない? なんでそんなことを言うん?
ぼくは拳を握りしめた。朝顔の飴についてる棒が折れそうになる。
「俺、こたにいと一緒にいたらだめなの? こたにい、悪くなるの?」
「そうです。若に子どもの友達なんか必要ないんです。あなたは若の足を引っ張ってばかりだ」
言いたい放題言われた欧之丞は、肩を落としてうなだれた。
ちがう。ぼくは大人の真似をしてたぼくは、いい子のふりをしてたぼくは……あんなん本物のぼくやない。
「欧之丞は、ぼくの足なんか引っ張ってないっ。欧之丞がおってくれるから、ぼくは強くなれるんや」
「若……」
「黙って出てきたんは謝る。けど、欧之丞を悪く言うんは許さへんっ。今日、家を抜け出そうって誘ったんは、ぼくなんや!」
滅多に出さない大声を出した所為で、宵祭りに集まってる人らが、立ち止まってぼくらを遠巻きにしてる。
子どもは母親の着物の袖を引っ張って「あの子、どうしたの?」って訊いてるし。
ああ、もう悪目立ちしてるやんか。
目立ちたないから、人の中に溶けこみたいから。内緒で出てきたのに。元締めさんかって気を遣ってくれて、せっかくちょっと離れた位置におってくれたのに。
なんでぼくの気持ちを分かってくれへんの?
頭上に浮かんでる無数の提灯の灯りが、滲んで見えた。
まるで水の中におるみたいに。
なんでぼやけるんやろ。雨でも降りだしたんやろか。そう思たら、欧之丞が自分のズボンのポケットから手巾を取りだした。
そして、手巾をぼくの目に当てたんや。
ようやく、ぼくは自分が泣いてるって気づいた。柔らかな手巾が、ぼくの温かい涙を吸い取っていく。
「俺が祭りに来たいって言ったんだ。こたにいは関係ない」
「欧之丞……」
先に宵祭りに行きたいって言いだしたんは、ぼくやった。でも、欧之丞は母さんに食い下がって、どうしても行きたいってせがんだんや。
我の強い欧之丞やけど、そんなに我儘やない。せやから、ぼくは欧之丞の希望を叶えたかってん。
「まぁ、そんな責めんでもええやんか。そろそろ三條さんも帰ってきはるやろ。それまでこの子らの側におったるから、それで堪忍してくれへんか」
「ですが……」
「三條さんから直々に、子どもらの見張りを頼まれたわけやないんやろ。俺が見てるっていうてるのに、なんでお前らがでしゃばるんや?」
元締めさんの口調は、低く冷たくなっていった。それまでざわついていた周囲の人達も、しんとなったくらいや。
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