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一章
6、散歩【2】
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それは不思議な光景でした。
瑠璃や翡翠を溶かしたような美しい南洋でしたら、生えている木々は椰子ですよね。
でも、目の前の湖の周囲に生えているのは、白樺にカラマツという涼しい土地の木々なんですもの。
それに、白砂に寄せる透明な水の中にも、木が何本か生えています。
たゆたうような静かな波が、白い砂を洗い。午後の日差しに、水面は水晶を散りばめたように輝いています。
「夢のような光景ですね」
「翠子さんに見せてあげたいと思って、この別荘を買ったんだ」
「銀司さんも喜びますよ、きっと」
ぎゅっと旦那さまの手を握りしめると、旦那さまは微笑みました。
「ああ、購入を決める際、銀司も連れてきたんだが、感動していたよ。故郷の島にそっくりだと」
「ええ、ええ。本当に南の島のようです」
つないだままのわたくしの手を持ち上げると、旦那さまは手の甲にくちづけをなさいました。
不意打ちです。わたくしは言葉を失い、接吻されたままになってしまいました。今日は手にばかりキスをされてしまいます。
「でも一番は、翠子さんのためだよ」
「は、は……はは、はい」
「なんでそう緊張するかな?」
だって、旦那さまが素敵なんですもの。ここしばらく、ずっとエリスと一緒で、旦那さまと二人きりということが少なかったですし。それに、ここには逃げ込める少女雑誌もありません。
わたくしはしゃがんで、波打ち際に手を浸しました。
さらさらとした清らかな水です。
聞こえてくるのは穏やかに寄せる波の音と、湖を囲む木々の葉擦れの音。下界では蝉しぐれがうるさいほどでしたのに、ここでは鳥のさえずりがまるで音楽を奏でているようです。
「ここの砂はシリカが主な成分でね。一粒一粒が透明に近いんだ」
「シリカですか?」
「まぁ、水晶の友だちくらいに思ってくれれば」
わたくしは波と共に寄せる砂を、すくいました。
目を凝らせば、確かに砂にはほとんど色がついていません。
「湖に入ってもよろしいかしら?」
「どうぞ。湖水浴やボート遊びも可能だよ。ただし相当冷たいけどな」
確かに岸辺に、ボートが三艇ほど裏返してあります。
脱いだサンダルを揃えて置くと、わたくしは波打ち際へと進みました。なぜか旦那さまは、わたくしのサンダルを手に持っていらっしゃいます。
「さらわれるほどの波はありませんよ」
「いや、湖の前で、靴を揃えて置かれるとなぁ」
言いにくそうに口ごもっていらっしゃいますけど。サンダルをぽいっと脱ぎ散らかすほど、わたくし、お行儀は悪くありませんよ。
足の指先からひたひたと水に浸されていきます。まぁ、なんて冷たいこと。清冽な水とはこのことですね。
すぐにつまさきが痺れたように冷えていきます。
でも、足の裏で水晶のお友達である砂が動く感覚が楽しくて。
「つ、冷たいです」
「なら、上がってきなさい」
「いえ、でももう少し。平気ですから」
ああ、冷たい。なのに、くすぐったいほどの緩やかな砂の感触が。
「翠子さん。我慢大会でもしているのか?」
「そうではありませんけど」
「はい、そこまで」
旦那さまは、背後からわたくしを抱き上げました。お姫さま抱っこではありませんよ。
ええ、大人が子どもを抱えるような、背中を立てた抱っこです。
「あの。わたくしもう大人だと思うのですけど。旦那さまだって、わたくしが子ども扱いされるのを嫌がるでしょう?」
「いつまでも遊んでいる人は、子どもだ」
そんな風に仰っているのに、旦那さまはわたくしの頬にキスをなさいます。そして唇にも。
久しぶりの旦那さまとのくちづけは、止むことがありませんでした。
軽く風のように触れたかと思うと、今度は深くくちづけられます。
「ん……っ、んん」
他に人はおりませんが、ここは外なのです。それに子ども相手には、こんなくちづけはしませんよ?
「ほら、こんなに体が冷えきって」
「ひ、冷えてない……ん……っ」
わたくしの言葉は、すぐに旦那さまの口の中へと消えていきます。抗うために旦那さまの髪に指を挿し入れたのですけど。全然やめてくださらないの。
「なかなか情熱的だね」なんて、耳元で囁かれて。違うんです。外でキスなんて恥ずかしいの。
でも、実は濡れた足が風に吹かれてさらに冷えてしまったことは、旦那さまには内緒です。
だって、とても気持ちのいい水なんですもの。湖に入ることを禁じられるのは、もったいないです。
「うっわ!」
突然旦那さまが、よろけました。何かがぶつかってきたみたいです。それでもわたくしを落とすまいと、よりしっかりと抱きしめられたその時。わたくしのスカートが急にずっしりと重くなりました。
「エリス? え、どうして? お昼寝していたんじゃないんですか?」
「というか、なぜここが分かったんだ?」
スカートに爪を立てて、わしわしとエリスが登ってきます。破れはしませんが、布に穴が開きそうです。
エリスは不満そうに一声鳴くと、尻尾を派手に左右に振りました。
これは怒っています。
でも、あなた寝ていたのですから、起こしてお出かけしますとも言えないですよ。
瑠璃や翡翠を溶かしたような美しい南洋でしたら、生えている木々は椰子ですよね。
でも、目の前の湖の周囲に生えているのは、白樺にカラマツという涼しい土地の木々なんですもの。
それに、白砂に寄せる透明な水の中にも、木が何本か生えています。
たゆたうような静かな波が、白い砂を洗い。午後の日差しに、水面は水晶を散りばめたように輝いています。
「夢のような光景ですね」
「翠子さんに見せてあげたいと思って、この別荘を買ったんだ」
「銀司さんも喜びますよ、きっと」
ぎゅっと旦那さまの手を握りしめると、旦那さまは微笑みました。
「ああ、購入を決める際、銀司も連れてきたんだが、感動していたよ。故郷の島にそっくりだと」
「ええ、ええ。本当に南の島のようです」
つないだままのわたくしの手を持ち上げると、旦那さまは手の甲にくちづけをなさいました。
不意打ちです。わたくしは言葉を失い、接吻されたままになってしまいました。今日は手にばかりキスをされてしまいます。
「でも一番は、翠子さんのためだよ」
「は、は……はは、はい」
「なんでそう緊張するかな?」
だって、旦那さまが素敵なんですもの。ここしばらく、ずっとエリスと一緒で、旦那さまと二人きりということが少なかったですし。それに、ここには逃げ込める少女雑誌もありません。
わたくしはしゃがんで、波打ち際に手を浸しました。
さらさらとした清らかな水です。
聞こえてくるのは穏やかに寄せる波の音と、湖を囲む木々の葉擦れの音。下界では蝉しぐれがうるさいほどでしたのに、ここでは鳥のさえずりがまるで音楽を奏でているようです。
「ここの砂はシリカが主な成分でね。一粒一粒が透明に近いんだ」
「シリカですか?」
「まぁ、水晶の友だちくらいに思ってくれれば」
わたくしは波と共に寄せる砂を、すくいました。
目を凝らせば、確かに砂にはほとんど色がついていません。
「湖に入ってもよろしいかしら?」
「どうぞ。湖水浴やボート遊びも可能だよ。ただし相当冷たいけどな」
確かに岸辺に、ボートが三艇ほど裏返してあります。
脱いだサンダルを揃えて置くと、わたくしは波打ち際へと進みました。なぜか旦那さまは、わたくしのサンダルを手に持っていらっしゃいます。
「さらわれるほどの波はありませんよ」
「いや、湖の前で、靴を揃えて置かれるとなぁ」
言いにくそうに口ごもっていらっしゃいますけど。サンダルをぽいっと脱ぎ散らかすほど、わたくし、お行儀は悪くありませんよ。
足の指先からひたひたと水に浸されていきます。まぁ、なんて冷たいこと。清冽な水とはこのことですね。
すぐにつまさきが痺れたように冷えていきます。
でも、足の裏で水晶のお友達である砂が動く感覚が楽しくて。
「つ、冷たいです」
「なら、上がってきなさい」
「いえ、でももう少し。平気ですから」
ああ、冷たい。なのに、くすぐったいほどの緩やかな砂の感触が。
「翠子さん。我慢大会でもしているのか?」
「そうではありませんけど」
「はい、そこまで」
旦那さまは、背後からわたくしを抱き上げました。お姫さま抱っこではありませんよ。
ええ、大人が子どもを抱えるような、背中を立てた抱っこです。
「あの。わたくしもう大人だと思うのですけど。旦那さまだって、わたくしが子ども扱いされるのを嫌がるでしょう?」
「いつまでも遊んでいる人は、子どもだ」
そんな風に仰っているのに、旦那さまはわたくしの頬にキスをなさいます。そして唇にも。
久しぶりの旦那さまとのくちづけは、止むことがありませんでした。
軽く風のように触れたかと思うと、今度は深くくちづけられます。
「ん……っ、んん」
他に人はおりませんが、ここは外なのです。それに子ども相手には、こんなくちづけはしませんよ?
「ほら、こんなに体が冷えきって」
「ひ、冷えてない……ん……っ」
わたくしの言葉は、すぐに旦那さまの口の中へと消えていきます。抗うために旦那さまの髪に指を挿し入れたのですけど。全然やめてくださらないの。
「なかなか情熱的だね」なんて、耳元で囁かれて。違うんです。外でキスなんて恥ずかしいの。
でも、実は濡れた足が風に吹かれてさらに冷えてしまったことは、旦那さまには内緒です。
だって、とても気持ちのいい水なんですもの。湖に入ることを禁じられるのは、もったいないです。
「うっわ!」
突然旦那さまが、よろけました。何かがぶつかってきたみたいです。それでもわたくしを落とすまいと、よりしっかりと抱きしめられたその時。わたくしのスカートが急にずっしりと重くなりました。
「エリス? え、どうして? お昼寝していたんじゃないんですか?」
「というか、なぜここが分かったんだ?」
スカートに爪を立てて、わしわしとエリスが登ってきます。破れはしませんが、布に穴が開きそうです。
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