15 / 194
一章
14、別荘の夜【4】
しおりを挟む
冷たいです。
でも、ふんわりとして暖かくて。
なんでしょう、この妙な感覚は。
ぼんやりとした意識で瞼を開くと、見慣れぬ天井がありました。
うちの部屋ほどの広さはありません。それに窓ガラスが風に鳴るカタカタという音。
不気味に響く声……そうです、フクロウです。
わたくしは、慌てて跳び起きました。
エリスが外に出ていないか心配だったからです。
ですが、わたくしのお腹の辺りでエリスはころんとひっくり返っていました。
「どうしたの? こんなところで遊んでいるの?」
「いや、さっきまで翠子さんの胸元に乗っていたんだが。あなたが急に起きるから、転がったんだよ」
寝間着にしている浴衣をまとった旦那さまが、桶に張った水に手ぬぐいを浸しておいでです。
さっきの冷たさは、絞った手ぬぐいだったのですね。
わたくしは自分の考えに、はっとしました。
旦那さまは寝間着を着ていらっしゃいます。わたくしは、と見ると。全裸です。しかもお腹と脚の間あたりにエリスを乗せて。
「あ、ああ、あの、わたくし」
「風呂は明日の朝にしてもいいかな?」
「いえ、その。旦那さまが?」
わたくしの乏しい知識でも、分かります。だって旦那さまに愛された後は、体がべたべたするというか……その、何と申しますか。
なのに行為の直後にお風呂に入らない日でも、気持ち悪いということがないんです。
少女雑誌の投稿欄には、そこまで赤裸々なことは書かれておりません。ですから、皆さんが(いえ、嫁入り前の娘は、こんなことをしませんよね)どんな風に愛されているのかまでは、分かりませんし。
細かなことは誰も教えてはくれませんけど。
「済みません。わたくし、眠ってしまっていたみたいで」
「いや、謝るのは俺の方だな。あなたの体力をすべて奪うまで、抱いてしまうのだから」
「でも、旦那さまもお疲れのはずです」
わたくしの言葉に、旦那さまは小さく笑いました。
「翠子さんほどではないよ。それに俺が汚しておいて、あなたを放ったらかしにして眠ってしまうなど、ただの欲望の捌け口のようなことをするはずがない。俺は少しやりすぎるようだからな。気を失うほどまで、追い詰めるのもどうかと思うんだが……」
旦那さまは立ち上がると、わたくしの寝間着を持ってきてくださいました。
「自分で着られるかい?」
「は、はい」
恥ずかしいです。だって、旦那さまに愛された後、お風呂に入る時もありますけど。そうでない時も、目を覚ませばわたくしは必ず寝間着を着ていたんですもの。
わたくしは旦那さましか存じ上げませんから。普通とか一般的というのが、分かりません。比べる相手も、もちろんおりませんし。
でも、もしかしたら。普通は行為の後は放っておかれるのでしょうか。
恥ずかしいのを承知で旦那さまに尋ねると、旦那さまはご自分のあごに手を当てて、考え込んでおられました。
「あー、これは大学時代の学友の話だが。断じて俺のことではないし、名誉のために言っておくが琥太郎兄さんのことでもない」
「はい」
わたくしは寝間着の帯を締めながら、ベッドの上で正座しました。柔らかくて安定しないので、体が右に左に揺れます。
「割と放ったらかしらしいぞ」
「そ、そんな……では、終わったら構ってももらえないのですか?」
「それどころか、女性に話しかけられるのも嫌らしい。それまでは積極的に迫るのにな。終わった途端に邪険に扱って、背中を向けて眠ってしまうものらしい。で、言葉は悪いが、やりたくなったらまた情熱的に誘うんだ」
わたくしは血の気が引くのを感じました。だからでしょうか、エリスが膝に乗ってきて、わたくしの顔を覗きこんできます。
「そ、そんなの……いやです」
「うん、そうだな」
旦那さまは両腕を広げたので、わたくしはそのたくましい胸に飛び込みました。
怖いです。
わたくしは、旦那さまに抱かれても、そういう扱いを受けたことは一度としてありません。ええ、たとえ縛られたとしても……です。
わたくしの髪を指で梳きながら、旦那さまが頬にくちづけてくださいました。
でも、ふんわりとして暖かくて。
なんでしょう、この妙な感覚は。
ぼんやりとした意識で瞼を開くと、見慣れぬ天井がありました。
うちの部屋ほどの広さはありません。それに窓ガラスが風に鳴るカタカタという音。
不気味に響く声……そうです、フクロウです。
わたくしは、慌てて跳び起きました。
エリスが外に出ていないか心配だったからです。
ですが、わたくしのお腹の辺りでエリスはころんとひっくり返っていました。
「どうしたの? こんなところで遊んでいるの?」
「いや、さっきまで翠子さんの胸元に乗っていたんだが。あなたが急に起きるから、転がったんだよ」
寝間着にしている浴衣をまとった旦那さまが、桶に張った水に手ぬぐいを浸しておいでです。
さっきの冷たさは、絞った手ぬぐいだったのですね。
わたくしは自分の考えに、はっとしました。
旦那さまは寝間着を着ていらっしゃいます。わたくしは、と見ると。全裸です。しかもお腹と脚の間あたりにエリスを乗せて。
「あ、ああ、あの、わたくし」
「風呂は明日の朝にしてもいいかな?」
「いえ、その。旦那さまが?」
わたくしの乏しい知識でも、分かります。だって旦那さまに愛された後は、体がべたべたするというか……その、何と申しますか。
なのに行為の直後にお風呂に入らない日でも、気持ち悪いということがないんです。
少女雑誌の投稿欄には、そこまで赤裸々なことは書かれておりません。ですから、皆さんが(いえ、嫁入り前の娘は、こんなことをしませんよね)どんな風に愛されているのかまでは、分かりませんし。
細かなことは誰も教えてはくれませんけど。
「済みません。わたくし、眠ってしまっていたみたいで」
「いや、謝るのは俺の方だな。あなたの体力をすべて奪うまで、抱いてしまうのだから」
「でも、旦那さまもお疲れのはずです」
わたくしの言葉に、旦那さまは小さく笑いました。
「翠子さんほどではないよ。それに俺が汚しておいて、あなたを放ったらかしにして眠ってしまうなど、ただの欲望の捌け口のようなことをするはずがない。俺は少しやりすぎるようだからな。気を失うほどまで、追い詰めるのもどうかと思うんだが……」
旦那さまは立ち上がると、わたくしの寝間着を持ってきてくださいました。
「自分で着られるかい?」
「は、はい」
恥ずかしいです。だって、旦那さまに愛された後、お風呂に入る時もありますけど。そうでない時も、目を覚ませばわたくしは必ず寝間着を着ていたんですもの。
わたくしは旦那さましか存じ上げませんから。普通とか一般的というのが、分かりません。比べる相手も、もちろんおりませんし。
でも、もしかしたら。普通は行為の後は放っておかれるのでしょうか。
恥ずかしいのを承知で旦那さまに尋ねると、旦那さまはご自分のあごに手を当てて、考え込んでおられました。
「あー、これは大学時代の学友の話だが。断じて俺のことではないし、名誉のために言っておくが琥太郎兄さんのことでもない」
「はい」
わたくしは寝間着の帯を締めながら、ベッドの上で正座しました。柔らかくて安定しないので、体が右に左に揺れます。
「割と放ったらかしらしいぞ」
「そ、そんな……では、終わったら構ってももらえないのですか?」
「それどころか、女性に話しかけられるのも嫌らしい。それまでは積極的に迫るのにな。終わった途端に邪険に扱って、背中を向けて眠ってしまうものらしい。で、言葉は悪いが、やりたくなったらまた情熱的に誘うんだ」
わたくしは血の気が引くのを感じました。だからでしょうか、エリスが膝に乗ってきて、わたくしの顔を覗きこんできます。
「そ、そんなの……いやです」
「うん、そうだな」
旦那さまは両腕を広げたので、わたくしはそのたくましい胸に飛び込みました。
怖いです。
わたくしは、旦那さまに抱かれても、そういう扱いを受けたことは一度としてありません。ええ、たとえ縛られたとしても……です。
わたくしの髪を指で梳きながら、旦那さまが頬にくちづけてくださいました。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる