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二章
2、強制連行【1】 ※文子視点
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とりあえずわたしはワンピースに着がえて、別荘で過ごす程度の荷物を、旅行鞄に押し込んだ。
なかなかに重くなったので、使用人が階下まで運んでくれたけど。
ため息をつきつつ玄関に向かうわたしを、お母さまと使用人たち、そしてばあやが見送ってくれたの。
それも一列に並んで、「ご武運を」みたいな、物言いたげな微笑みを浮かべて。
違うからね。出征するんじゃないからね。
ああ、そういえばお父さまとお母さまがしたためた、七夕の短冊。今にして思えば、すべてを知っていたのね。
「お見合い……三條さんと」
これからの予定というか、決定事項を口にすると、顔が熱くなるのを感じた。
いやいやいや、無理でしょ。しかも三條さんの車で、どこに行くかも知らされていないのに。泊りがけなのよ。
「お断りしちゃ駄目かしら」
鋳鉄の門をぎぃっと開くと、三條さんは車の外で立ったままわたしを待っていたの。
家の中に入るでもなく、車内で待つでもなく。炎天下で暑いのに。
「あ、あの。今更ですけど。中でお茶でもいかがですか?」
「いや、構へん。文子さんのお母さんにも誘われたけど。私はまだ文子さんの家に入ってええ立場やないから」
え? 三條さんってヤクザなんですよね。しかも父母が話してましたけど、地元の名士っぽい家だそうじゃないですか。
うちは貿易商だけど、翠子さんのお家のように爵位があるわけでもないですよ。
「ほな、助手席に乗り。ああ、先に荷物かして」
三條さんは白手と呼ばれる白手袋をはめると、わたしの革のトランクを車内に入れてくれた。
「あのー、お付きの人とかいないんですか? お一人で出かけていい立場のように思えませんけど」
「ん? 一人やないで。文子さんがおるやん」
「いえ、そういう意味じゃなくて。そもそもわたしじゃ、三條さんを守れませんよ」
突然、三條さんが噴き出した。何が笑いのツボにはまったのか、お腹を抱えて笑っている。もしかしてこの人、笑い上戸かしら。
「ええな。拳銃を構えて勇ましく俺を守ってくれる文子さん。そういうの嫌いやないで」
わたしは自分の発した言葉が、いかに見当違いだったかを思い知って恥ずかしくなったの。うつむいたわたしに、三條さんはご自分のパナマ帽をかぶせてくれた。
「はよ車に入り。日向におったら暑いで」
「は、はい。お邪魔します」
わたしは翠子さんのように、車種に詳しくはないけれど。お父さまが乗っているのとは違い、もっと立派な車だった。
革張りの座席はひんやりとして、さっきまで日差しを浴びていたブラウス越しの背中が心地よく感じたの。
「なんかあったら私が文子さんを守るから。安心し。それに今回は、護衛がおらんでも大丈夫や。子どもの頃からうちで鍛えられた奴が、向こうにおるからな」
どう返事していいのか分からないし、そんなゴリラみたいな人が待っているかと思うと、ちょっと怖いわ。
運転席に三條さんが乗り込むと、とたんに距離が近くなって。
今日に限って、徒競走の後のように胸の鼓動が激しくて。
ああ、どこまで行くのか分からないけれど。わたし、大丈夫なの?
なかなかに重くなったので、使用人が階下まで運んでくれたけど。
ため息をつきつつ玄関に向かうわたしを、お母さまと使用人たち、そしてばあやが見送ってくれたの。
それも一列に並んで、「ご武運を」みたいな、物言いたげな微笑みを浮かべて。
違うからね。出征するんじゃないからね。
ああ、そういえばお父さまとお母さまがしたためた、七夕の短冊。今にして思えば、すべてを知っていたのね。
「お見合い……三條さんと」
これからの予定というか、決定事項を口にすると、顔が熱くなるのを感じた。
いやいやいや、無理でしょ。しかも三條さんの車で、どこに行くかも知らされていないのに。泊りがけなのよ。
「お断りしちゃ駄目かしら」
鋳鉄の門をぎぃっと開くと、三條さんは車の外で立ったままわたしを待っていたの。
家の中に入るでもなく、車内で待つでもなく。炎天下で暑いのに。
「あ、あの。今更ですけど。中でお茶でもいかがですか?」
「いや、構へん。文子さんのお母さんにも誘われたけど。私はまだ文子さんの家に入ってええ立場やないから」
え? 三條さんってヤクザなんですよね。しかも父母が話してましたけど、地元の名士っぽい家だそうじゃないですか。
うちは貿易商だけど、翠子さんのお家のように爵位があるわけでもないですよ。
「ほな、助手席に乗り。ああ、先に荷物かして」
三條さんは白手と呼ばれる白手袋をはめると、わたしの革のトランクを車内に入れてくれた。
「あのー、お付きの人とかいないんですか? お一人で出かけていい立場のように思えませんけど」
「ん? 一人やないで。文子さんがおるやん」
「いえ、そういう意味じゃなくて。そもそもわたしじゃ、三條さんを守れませんよ」
突然、三條さんが噴き出した。何が笑いのツボにはまったのか、お腹を抱えて笑っている。もしかしてこの人、笑い上戸かしら。
「ええな。拳銃を構えて勇ましく俺を守ってくれる文子さん。そういうの嫌いやないで」
わたしは自分の発した言葉が、いかに見当違いだったかを思い知って恥ずかしくなったの。うつむいたわたしに、三條さんはご自分のパナマ帽をかぶせてくれた。
「はよ車に入り。日向におったら暑いで」
「は、はい。お邪魔します」
わたしは翠子さんのように、車種に詳しくはないけれど。お父さまが乗っているのとは違い、もっと立派な車だった。
革張りの座席はひんやりとして、さっきまで日差しを浴びていたブラウス越しの背中が心地よく感じたの。
「なんかあったら私が文子さんを守るから。安心し。それに今回は、護衛がおらんでも大丈夫や。子どもの頃からうちで鍛えられた奴が、向こうにおるからな」
どう返事していいのか分からないし、そんなゴリラみたいな人が待っているかと思うと、ちょっと怖いわ。
運転席に三條さんが乗り込むと、とたんに距離が近くなって。
今日に限って、徒競走の後のように胸の鼓動が激しくて。
ああ、どこまで行くのか分からないけれど。わたし、大丈夫なの?
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