87 / 194
三章
12、乱されて【2】※文子視点
しおりを挟む
琥太郎さんのくちづけは、何度も何度も繰り返された。
最初はついばむように、それから深く、激しく。それだけでも目眩がしそうに感じた。
侵入してくる舌が熱い。薄荷の香りが口に広がって涼しく思えるはずなのに。わたしの舌は翻弄されて、もっと熱を持って。
「ん……ぅ、んん……っ」
半ば開いた唇を閉じることもできないから、口の端から唾液が零れていく。
すでに服のボタンは外されて、わたしの素肌は露わになっていた。かろうじて肘の辺りで袖は留まっているけれど。
「湯上りの白い肌がうっすらと上気して、すごい綺麗やで」
琥太郎さんの長い指が、わたしの首筋から鎖骨を、そして胸へと伸ばされた。
彼に素肌を触れられている。そう思うだけで、背筋が甘く痺れそう。
「ああ、良かった。体のどこにも痕はついてへんな」
「キスの痕ですか?」
「そう。文子さんは翠子さんみたいに、手元に置いておく子とちゃうから。休暇が終わったら、家に帰さんとあかんしなぁ」
ほんまは帰したないけど、と琥太郎さんは小さく呟いた。
そうね。これはあくまでもお見合いという体裁を取っているのだから。わたしは翠子さんみたいに、いつまでも好きな人の傍にいられるわけじゃない。
琥太郎さんもそれを分かっているから、激しく求めてくるんだわ。
わたしは胸に載せられた、彼の指に手を添えた。琥太郎さんはそっとわたしの胸に触れていたけれど。その指を強く握りしめたの。
間接的に自分の胸を鷲掴みにされて、わたしは「ひ……っ」と引きつった声を上げた。
「文子さん? どうしたん」
「ひどくしても、いいの」
「いや、そういう訳にはいかんやろ。文子さんは昨日が初めてやったんやで。大事にして、傷つけんようにせな。まぁ……姫泣き油は使おうかと思とったけど」
姫泣き油? それが、あの小さな入れ物の中身なの?
「使わん方がええかな。文子さんはどう思う?」
「あの、それがどういう物なのか分からないんです。閨房は、分かるんですけど」
わたしの質問に琥太郎さんは「あぁ」と、口許を手で覆った。
「そうやな。文子さんが、私を欲しがるようになる塗り薬や。体に悪いもんは入ってへんで」
「琥太郎さんを欲しがる?」
「もっと抱いてほしいと願うようになるってことや」
彼の返事に、わたしは顔がかっと熱くなった。
えっと、それを使うかどうかをわたしが選ぶの? 今、ここで選択しろと?
そんな恥ずかしいこと、口にできやしないわ。
頭に浮かんだ考えにはっとした。
恥ずかしいって思っている時点で、姫泣き油を使うことを前提に考えているわ。
わたしは胸に載せられたままの琥太郎さんの指を、きゅっと握った。
「つ、つ……使っていい、です」
「無理せんでもええで」
柔らかな笑顔を琥太郎さんが浮かべる。翻弄されることも多いけど、それでもわたしの気持ちを尊重してくれる人。
だから、大丈夫。
だってくちづけの痕を残してほしいって思ったじゃない。もっと琥太郎さんが欲しくなるのは、多分それを使わなくても同じかもしれないもの。
「使ってほしいんです」
「文子さん」
決意を込めた言葉に、琥太郎さんはわたしの胸の先端にくちづけた。そして、小さな入れ物に手を伸ばしたの。
最初はついばむように、それから深く、激しく。それだけでも目眩がしそうに感じた。
侵入してくる舌が熱い。薄荷の香りが口に広がって涼しく思えるはずなのに。わたしの舌は翻弄されて、もっと熱を持って。
「ん……ぅ、んん……っ」
半ば開いた唇を閉じることもできないから、口の端から唾液が零れていく。
すでに服のボタンは外されて、わたしの素肌は露わになっていた。かろうじて肘の辺りで袖は留まっているけれど。
「湯上りの白い肌がうっすらと上気して、すごい綺麗やで」
琥太郎さんの長い指が、わたしの首筋から鎖骨を、そして胸へと伸ばされた。
彼に素肌を触れられている。そう思うだけで、背筋が甘く痺れそう。
「ああ、良かった。体のどこにも痕はついてへんな」
「キスの痕ですか?」
「そう。文子さんは翠子さんみたいに、手元に置いておく子とちゃうから。休暇が終わったら、家に帰さんとあかんしなぁ」
ほんまは帰したないけど、と琥太郎さんは小さく呟いた。
そうね。これはあくまでもお見合いという体裁を取っているのだから。わたしは翠子さんみたいに、いつまでも好きな人の傍にいられるわけじゃない。
琥太郎さんもそれを分かっているから、激しく求めてくるんだわ。
わたしは胸に載せられた、彼の指に手を添えた。琥太郎さんはそっとわたしの胸に触れていたけれど。その指を強く握りしめたの。
間接的に自分の胸を鷲掴みにされて、わたしは「ひ……っ」と引きつった声を上げた。
「文子さん? どうしたん」
「ひどくしても、いいの」
「いや、そういう訳にはいかんやろ。文子さんは昨日が初めてやったんやで。大事にして、傷つけんようにせな。まぁ……姫泣き油は使おうかと思とったけど」
姫泣き油? それが、あの小さな入れ物の中身なの?
「使わん方がええかな。文子さんはどう思う?」
「あの、それがどういう物なのか分からないんです。閨房は、分かるんですけど」
わたしの質問に琥太郎さんは「あぁ」と、口許を手で覆った。
「そうやな。文子さんが、私を欲しがるようになる塗り薬や。体に悪いもんは入ってへんで」
「琥太郎さんを欲しがる?」
「もっと抱いてほしいと願うようになるってことや」
彼の返事に、わたしは顔がかっと熱くなった。
えっと、それを使うかどうかをわたしが選ぶの? 今、ここで選択しろと?
そんな恥ずかしいこと、口にできやしないわ。
頭に浮かんだ考えにはっとした。
恥ずかしいって思っている時点で、姫泣き油を使うことを前提に考えているわ。
わたしは胸に載せられたままの琥太郎さんの指を、きゅっと握った。
「つ、つ……使っていい、です」
「無理せんでもええで」
柔らかな笑顔を琥太郎さんが浮かべる。翻弄されることも多いけど、それでもわたしの気持ちを尊重してくれる人。
だから、大丈夫。
だってくちづけの痕を残してほしいって思ったじゃない。もっと琥太郎さんが欲しくなるのは、多分それを使わなくても同じかもしれないもの。
「使ってほしいんです」
「文子さん」
決意を込めた言葉に、琥太郎さんはわたしの胸の先端にくちづけた。そして、小さな入れ物に手を伸ばしたの。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる