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三章
19、七夕の銀河【2】
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テラスで俺を待っていた翠子さんの肩に、外套を羽織らせる。
俺はケープがついたインバネスコートだ。
「学生さんみたいですね」
「まぁな。確かに大学時代は、詰襟の学生服にトンビを着ていたな」
そういう翠子さんは、肩を覆うほどの大きな衿がついたマントだ。胸元の紐の先に、エリスがじゃれつきそうな毛玉……ふわふわした玉飾りがついている。
「じゃあ、行こうか」
俺はカンテラを手にしてテラスを降りた。
◇◇◇
何処へ向かうのでしょうか。わたくしは旦那さまの後をついて歩きました。
ゆらゆらと足下を照らすカンテラの橙色の明かり。ですが明かりから外れた森はとても暗く、目を凝らしてもよく見えません。
不意に、わたくし達とは違う足音が聞こえました。かさり、という下草を踏む音。
わたくしは思わず旦那さまの手を握りしめました。
「多分、狸だと思うぞ。あれは夜行性だからな」
「は、はい。分かってるんですけど」
「翠子さんは、怖がりで甘えん坊だな」
「否定はしません」
繋いだこの手を決して離すものですか、とわたくしはぎゅううっと旦那さまの手を強く握ります。
カンテラに照らされた旦那さまは、何故か楽しそうに笑っていらっしゃいます。
ええ、いつもそうなんです。わたくしが怖がったりすると、旦那さまは嬉しそうになさるんですよ。ほんとうに憎い人。
車も走る道の端を歩き、旦那さまは途中で細い道へと曲がりました。木々の濃い匂いと、水の匂い。
少し離れた場所に測量のための三角覘標が見えます。
もしかして湖に行くのでしょうか?
足下の感触がキシリとして、前を見るとそこは別天地が広がっていました。
水晶に似たシリカの砂。まるで白く透き通るように輝いています。しかも湖面は凪いで波もなく、空の星々を映していました。
ええ、見上げる空と湖、その両方に天の川が見えるんです。
そして天空を映した湖の中には、ひっそりと立つ木々が影になって見えます。
息を呑むほどの光景でした。
星々は小さな真珠や水晶、赤く大きな星は紅玉でしょうか。白く青い月光石のような星も見えます。
それらが、シルエットになった木々の枝や三角覘標を彩っているんです。
「まるで浄土のようですね」
「なるほど。俺には宇宙の浜辺に立っているように思えるが」
「天の川は、確かミルキィウェイというんですよね。牛乳が流れているのかしら」
「そこからか」
なぜか旦那さまは、難しい顔をなさいました。
「いいか、笠井さん」と、突然、高瀬先生になって説明を始めます。
「あの煙って見える霞のような部分。あれは全部星なんだ」
「またまたぁ」
「なんで『またまたぁ』なんだよ」
だって星って一つ一つが輝いているんですもの。あんな風に煙るとは思えません。じゃないと星が蒸発して気体になったかのようじゃないですか。
「あの天の川が、銀河の中心。遠すぎて白く煙って見えるんだ」
「へーぇ。すごいんですね」
「本当に分かってるのか?」
旦那さまは肩をすくめました。
俺はケープがついたインバネスコートだ。
「学生さんみたいですね」
「まぁな。確かに大学時代は、詰襟の学生服にトンビを着ていたな」
そういう翠子さんは、肩を覆うほどの大きな衿がついたマントだ。胸元の紐の先に、エリスがじゃれつきそうな毛玉……ふわふわした玉飾りがついている。
「じゃあ、行こうか」
俺はカンテラを手にしてテラスを降りた。
◇◇◇
何処へ向かうのでしょうか。わたくしは旦那さまの後をついて歩きました。
ゆらゆらと足下を照らすカンテラの橙色の明かり。ですが明かりから外れた森はとても暗く、目を凝らしてもよく見えません。
不意に、わたくし達とは違う足音が聞こえました。かさり、という下草を踏む音。
わたくしは思わず旦那さまの手を握りしめました。
「多分、狸だと思うぞ。あれは夜行性だからな」
「は、はい。分かってるんですけど」
「翠子さんは、怖がりで甘えん坊だな」
「否定はしません」
繋いだこの手を決して離すものですか、とわたくしはぎゅううっと旦那さまの手を強く握ります。
カンテラに照らされた旦那さまは、何故か楽しそうに笑っていらっしゃいます。
ええ、いつもそうなんです。わたくしが怖がったりすると、旦那さまは嬉しそうになさるんですよ。ほんとうに憎い人。
車も走る道の端を歩き、旦那さまは途中で細い道へと曲がりました。木々の濃い匂いと、水の匂い。
少し離れた場所に測量のための三角覘標が見えます。
もしかして湖に行くのでしょうか?
足下の感触がキシリとして、前を見るとそこは別天地が広がっていました。
水晶に似たシリカの砂。まるで白く透き通るように輝いています。しかも湖面は凪いで波もなく、空の星々を映していました。
ええ、見上げる空と湖、その両方に天の川が見えるんです。
そして天空を映した湖の中には、ひっそりと立つ木々が影になって見えます。
息を呑むほどの光景でした。
星々は小さな真珠や水晶、赤く大きな星は紅玉でしょうか。白く青い月光石のような星も見えます。
それらが、シルエットになった木々の枝や三角覘標を彩っているんです。
「まるで浄土のようですね」
「なるほど。俺には宇宙の浜辺に立っているように思えるが」
「天の川は、確かミルキィウェイというんですよね。牛乳が流れているのかしら」
「そこからか」
なぜか旦那さまは、難しい顔をなさいました。
「いいか、笠井さん」と、突然、高瀬先生になって説明を始めます。
「あの煙って見える霞のような部分。あれは全部星なんだ」
「またまたぁ」
「なんで『またまたぁ』なんだよ」
だって星って一つ一つが輝いているんですもの。あんな風に煙るとは思えません。じゃないと星が蒸発して気体になったかのようじゃないですか。
「あの天の川が、銀河の中心。遠すぎて白く煙って見えるんだ」
「へーぇ。すごいんですね」
「本当に分かってるのか?」
旦那さまは肩をすくめました。
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