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三章
42、笹の葉
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午後になり、俺と翠子さんは笹の葉を燃やすことにした。
水の入ったバケツは翠子さんには貸さないし、斧も銀司がちゃんと片づけていることを確認する。
見れば、道具を入れている小屋に斧を片付け、しかも南京錠まで掛けてある。
うん。ありがとうな銀司。
だが翠子さんは、話しても分からない幼い子どもではないので、そこまで厳重に管理しなくとも大丈夫だぞ。
銀司もなぁ、俺ほどではないが翠子さんに対してはなかなかの過保護だ。
「燐寸は擦ってもいいですよね」
翠子さんは、燐寸の大箱を手にして意気込んでいる。
うんうん。やる気に満ちて、先生は嬉しいよ。
「軸を持つ位置に気をつけるんだぞ。それから火のついた燐寸の先を下に向けたら、軸が燃え上がって火傷をするからな」
「旦那さまは過保護ですね。翠子が子どもじゃないことをご存じのはずですのに」
くすくすと小さく笑われたが。
うん。誰に言われてもいいが、翠子さんには「過保護」だと言われたくなかったなぁ。
全部、あなたの為なんだぞ。
火傷をしたら痛いだろ?いや、できることなら代わってやりたいのだが。物理的に無理だ。
◇◇◇
短冊や紙衣、それに七夕飾りをつけた笹は、すでに乾燥して葉が丸まるように縮れていました。
青々と茂っている時には馴染んでいた、色鮮やかな紙衣や金銀の紙でこしらえた輪の飾りがとても派手に思えます。
意を決して燐寸を擦り、わたしは笹に火を移します。
最初は小さな火だったのに。あっという間に笹は炎に包まれました。
わたくしのお願いごとは、ちゃんと天に届いたかしら。
隣に目を向けると、旦那さまの端正な横顔が炎に照らされて明るく見えました。
教室で見るのとは違う、柔らかな表情。わたくしにだけ向けてくださる、はにかむような笑顔。
ええ、旦那さまは翠子だけが独り占めできるんです。
「ふふっ」
「どうかした?」
「いえ、何も」
「ははーん。俺に見とれていたな」
ぎくっ。もしかしてわたくし、顔がにやけていたかしら。
慌てて口許に手を当てると、やはり口角が上がっていたの。
いやだわ。みっともない。
隣に立つ旦那さまが、わたくしの肩に手を掛けました。そして体を引き寄せられたんです。
「年に一度しか逢瀬のできない牽牛と織女は寂しいかしら」
「翠子さんだったら? 俺と一年しか会えなくて……」
言葉の途中で、なぜか旦那さまがうつむいて口許を手で押さえました。
どうなさったのかしらと見上げると。何故か涙ぐんでいらっしゃいます。
煙が目に染みたのかしら。
「……済まん。翠子さんと一年に一度しか会えなくなったらと考えると、あまりにも寂しくて、哀しくて、つらくて」
「え? あの」
突然素直になられて、わたくしは戸惑ってしまいました。
「あいつら、すごいよな。よく我慢しているよ」
「あいつら」とは、牽牛織女のことですね。
もう、旦那さまったら翠子のことが好きすぎですよ。
照れてしまうじゃないですか。
普段なら恥ずかしくてうつむいてしまうんですけど。今は、火の明るさで頬が赤くても分からないの。
だから、わたくしは旦那さまの腕にしがみついて背伸びをしたんです。
何の為に?
もちろん、頬にキスする為です。
予期せぬ接吻だったようで、旦那さまは目を丸くした後で、頬を真っ赤に染めたの。これは焚き火の色ではないわ。
水の入ったバケツは翠子さんには貸さないし、斧も銀司がちゃんと片づけていることを確認する。
見れば、道具を入れている小屋に斧を片付け、しかも南京錠まで掛けてある。
うん。ありがとうな銀司。
だが翠子さんは、話しても分からない幼い子どもではないので、そこまで厳重に管理しなくとも大丈夫だぞ。
銀司もなぁ、俺ほどではないが翠子さんに対してはなかなかの過保護だ。
「燐寸は擦ってもいいですよね」
翠子さんは、燐寸の大箱を手にして意気込んでいる。
うんうん。やる気に満ちて、先生は嬉しいよ。
「軸を持つ位置に気をつけるんだぞ。それから火のついた燐寸の先を下に向けたら、軸が燃え上がって火傷をするからな」
「旦那さまは過保護ですね。翠子が子どもじゃないことをご存じのはずですのに」
くすくすと小さく笑われたが。
うん。誰に言われてもいいが、翠子さんには「過保護」だと言われたくなかったなぁ。
全部、あなたの為なんだぞ。
火傷をしたら痛いだろ?いや、できることなら代わってやりたいのだが。物理的に無理だ。
◇◇◇
短冊や紙衣、それに七夕飾りをつけた笹は、すでに乾燥して葉が丸まるように縮れていました。
青々と茂っている時には馴染んでいた、色鮮やかな紙衣や金銀の紙でこしらえた輪の飾りがとても派手に思えます。
意を決して燐寸を擦り、わたしは笹に火を移します。
最初は小さな火だったのに。あっという間に笹は炎に包まれました。
わたくしのお願いごとは、ちゃんと天に届いたかしら。
隣に目を向けると、旦那さまの端正な横顔が炎に照らされて明るく見えました。
教室で見るのとは違う、柔らかな表情。わたくしにだけ向けてくださる、はにかむような笑顔。
ええ、旦那さまは翠子だけが独り占めできるんです。
「ふふっ」
「どうかした?」
「いえ、何も」
「ははーん。俺に見とれていたな」
ぎくっ。もしかしてわたくし、顔がにやけていたかしら。
慌てて口許に手を当てると、やはり口角が上がっていたの。
いやだわ。みっともない。
隣に立つ旦那さまが、わたくしの肩に手を掛けました。そして体を引き寄せられたんです。
「年に一度しか逢瀬のできない牽牛と織女は寂しいかしら」
「翠子さんだったら? 俺と一年しか会えなくて……」
言葉の途中で、なぜか旦那さまがうつむいて口許を手で押さえました。
どうなさったのかしらと見上げると。何故か涙ぐんでいらっしゃいます。
煙が目に染みたのかしら。
「……済まん。翠子さんと一年に一度しか会えなくなったらと考えると、あまりにも寂しくて、哀しくて、つらくて」
「え? あの」
突然素直になられて、わたくしは戸惑ってしまいました。
「あいつら、すごいよな。よく我慢しているよ」
「あいつら」とは、牽牛織女のことですね。
もう、旦那さまったら翠子のことが好きすぎですよ。
照れてしまうじゃないですか。
普段なら恥ずかしくてうつむいてしまうんですけど。今は、火の明るさで頬が赤くても分からないの。
だから、わたくしは旦那さまの腕にしがみついて背伸びをしたんです。
何の為に?
もちろん、頬にキスする為です。
予期せぬ接吻だったようで、旦那さまは目を丸くした後で、頬を真っ赤に染めたの。これは焚き火の色ではないわ。
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