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三章
41、あなたが一番大事
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ああ、気が気じゃない。
なぜなら翠子さんが、銀司の名を呼んでため息をつくものだから。
俺は、先を知りたいような知りたくないような、そんな不安定な気持ちに飲み込まれてしまう。
呑気なエリスは「もう一枚、ハムを」と俺の頬に肉球を当てる。
うん、ぷにっとして気持ちいいよな。君の肉球は。
「なんなら玉子でも、チーズはないんですか?」という感じで、頭を俺の頬にすり寄せてもくる。
うん、君の毛はふわふわでたいそう気持ちがいい。
だが、食欲は後回しだ。
「翠子さん、銀司がどうかしたのか」
「いえ、もう銀司さんが笹を燃やしてしまったのかと思って」
「……なんだ」
俺は、ほっと息をついた。その隙にエリスに皿に載ったサンドウィッチを一切れ奪われてしまう。
どうやら玉子サンドらしい。あんな一瞬で、よく好物を見分けたな。
「大事ですよ。だって願いが天に届くんですもの」
「ああ、済まない。俺が『なんだ』と言ったのは、笹を燃やすのがつまらないことではなくて。あー、えっと、その」
自分が翠子さんが銀司の名を呼んだことに動揺したとばれるのが、何故か突然恥ずかしくなった。
「何でしょうか?」
「いや、別に気にせずに食べなさい」
「えー? 気になります」
しまった。翠子さんの興味がサンドウィッチから逸れてしまった。
行為の時に声を上げすぎた所為だろう。翠子さんは喉を潤す為の紅茶を飲むだけだ。
「ほら、翠子さん。『あーん』ってして」
「お話の続きを教えてくだされば『あーん』します」
む? この場で交渉か。君もなかなかしたたかになったね。
エリスが「それ、いらないならください」と皿を持つ俺の手に尻尾を巻きつかせる。
お前、さっき盗み食いしたばかりだよな。
「翠子はもうお腹いっぱいなの」
「嘘だ。こんなに小さいサンドウィッチを二切れしか食ってないだろ」
「旦那さまが教えてくだされば、お腹が空きます」
むむっ。俺は眉間にしわを寄せた。
脳内の天秤に俺の自尊心と、翠子さんの体調を乗せて重さをはかる。
一瞬で、結果は出た。
翠子さんの体調だ。
「その、俺が気にかかっていたのは。あなたが銀司の名を思い出したように呟いたからだ」
翠子さんは首を傾げた。そうだろうな。冷静になってみれば、笹を自分で燃やして願いを天に届けたいのだと分かるのだが。
そこまで俺は達観できないんだ。あなたに関してだけは。
「翠子は、旦那さまだけですよ? 他の誰とも接吻はおろか、手を繋ぐことすらありませんもの」
それはありがとう。だが真正面から告げられると、照れてしまう。
恥ずかしさのあまり、俺は翠子さんに背中を向けた。
「ねぇ、旦那さま。こっちを向いてください」
「いや……その」
俺は窓を眺めつつ、サンドウィッチの皿を翠子さんに差し出した。
だが、またジャムサンドを取るかもしれないと、慌てて翠子さんの方に向き直る。
「よかった。お顔を見せてくださって」
うん、正確には君を見張る為なんだけどな。
そしてハムサンドを、翠子さんに勧める。
俺の為にも、ちゃんと食べてください。お嬢さま。
なのに、翠子さんは皿にではなく俺の手に、指を添える。
そして、にこりと微笑むんだ。
あんなに無茶をしたのに、無理をさせたのに。昔みたいに俺を怖がってもおかしくないのに。
「翠子のことばかりでなく、旦那さまも召し上がって」
「いや、俺は」
「だって、旦那さまはいつだって翠子のことが一番なんですもの」
そう言って、あなたはぽっと頬を染めるんだ。
ああ、否定はしないよ。
あなたが元気で笑っていてくれる為なら、俺は何でもする。
なぜなら翠子さんが、銀司の名を呼んでため息をつくものだから。
俺は、先を知りたいような知りたくないような、そんな不安定な気持ちに飲み込まれてしまう。
呑気なエリスは「もう一枚、ハムを」と俺の頬に肉球を当てる。
うん、ぷにっとして気持ちいいよな。君の肉球は。
「なんなら玉子でも、チーズはないんですか?」という感じで、頭を俺の頬にすり寄せてもくる。
うん、君の毛はふわふわでたいそう気持ちがいい。
だが、食欲は後回しだ。
「翠子さん、銀司がどうかしたのか」
「いえ、もう銀司さんが笹を燃やしてしまったのかと思って」
「……なんだ」
俺は、ほっと息をついた。その隙にエリスに皿に載ったサンドウィッチを一切れ奪われてしまう。
どうやら玉子サンドらしい。あんな一瞬で、よく好物を見分けたな。
「大事ですよ。だって願いが天に届くんですもの」
「ああ、済まない。俺が『なんだ』と言ったのは、笹を燃やすのがつまらないことではなくて。あー、えっと、その」
自分が翠子さんが銀司の名を呼んだことに動揺したとばれるのが、何故か突然恥ずかしくなった。
「何でしょうか?」
「いや、別に気にせずに食べなさい」
「えー? 気になります」
しまった。翠子さんの興味がサンドウィッチから逸れてしまった。
行為の時に声を上げすぎた所為だろう。翠子さんは喉を潤す為の紅茶を飲むだけだ。
「ほら、翠子さん。『あーん』ってして」
「お話の続きを教えてくだされば『あーん』します」
む? この場で交渉か。君もなかなかしたたかになったね。
エリスが「それ、いらないならください」と皿を持つ俺の手に尻尾を巻きつかせる。
お前、さっき盗み食いしたばかりだよな。
「翠子はもうお腹いっぱいなの」
「嘘だ。こんなに小さいサンドウィッチを二切れしか食ってないだろ」
「旦那さまが教えてくだされば、お腹が空きます」
むむっ。俺は眉間にしわを寄せた。
脳内の天秤に俺の自尊心と、翠子さんの体調を乗せて重さをはかる。
一瞬で、結果は出た。
翠子さんの体調だ。
「その、俺が気にかかっていたのは。あなたが銀司の名を思い出したように呟いたからだ」
翠子さんは首を傾げた。そうだろうな。冷静になってみれば、笹を自分で燃やして願いを天に届けたいのだと分かるのだが。
そこまで俺は達観できないんだ。あなたに関してだけは。
「翠子は、旦那さまだけですよ? 他の誰とも接吻はおろか、手を繋ぐことすらありませんもの」
それはありがとう。だが真正面から告げられると、照れてしまう。
恥ずかしさのあまり、俺は翠子さんに背中を向けた。
「ねぇ、旦那さま。こっちを向いてください」
「いや……その」
俺は窓を眺めつつ、サンドウィッチの皿を翠子さんに差し出した。
だが、またジャムサンドを取るかもしれないと、慌てて翠子さんの方に向き直る。
「よかった。お顔を見せてくださって」
うん、正確には君を見張る為なんだけどな。
そしてハムサンドを、翠子さんに勧める。
俺の為にも、ちゃんと食べてください。お嬢さま。
なのに、翠子さんは皿にではなく俺の手に、指を添える。
そして、にこりと微笑むんだ。
あんなに無茶をしたのに、無理をさせたのに。昔みたいに俺を怖がってもおかしくないのに。
「翠子のことばかりでなく、旦那さまも召し上がって」
「いや、俺は」
「だって、旦那さまはいつだって翠子のことが一番なんですもの」
そう言って、あなたはぽっと頬を染めるんだ。
ああ、否定はしないよ。
あなたが元気で笑っていてくれる為なら、俺は何でもする。
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