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四章
27、ホテルのロビー【1】※文子視点
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ホテルの食堂で、琥太郎さんとわたしは朝食をいただいた。
芸術品かしらと思うほどに端正なオムレツは、ナイフを入れるのが申し訳ないほど。
えいやっと意を決してナイフを入れると、バターの芳醇な香りととろっとした半熟の卵が溢れて。
厚みのある燻製肉をオムレツに添えて食べると、塩気とまろやかさが相まって、いくらでも食べられそうよ。
「文子さん。ちゃんと野菜も食べるんやで」
「は、はい」
向かいの席に座る琥太郎さんが、水の入ったグラスを手に声を掛けてくる。
わたしはソテーされたほうれん草を口にした。
少し苦みがあって、本当は得意じゃないんだけれど。きっと残したら琥太郎さんに注意されるわ。
時々、琥太郎さんが保護者みたいになるのよね。
それが嫌という訳ではないんだけど。
やっぱり、年の差の所為かしら。
でも……わたしはちらりと琥太郎さんに視線を向けた。
すると穏やかに微笑まれて。しかも「ちゃんと食べれたやん。文子さんはえらいなぁ」なんて褒められてしまった。
どうしよう。嬉しいかも。
だから、わたしは黙々とほうれん草を食べたの。
「ほんまはコーヒーがええんやけど。あれは食後やからなぁ」
「わたしは未だに苦手です」
「大人の味やから、しゃあないな」
琥太郎さんはふと天井をあおいで「そうや」と思い出したように口にした。
「朝ご飯が終わったら、宿題の日誌と筆記用具を持ってロビーに行くで」
「お出かけするんですか?」
「ちゃうちゃう」と、琥太郎さんは小さく手を振った。
「じゃあ、ホテルにお願いして最近の新聞を見せてもらうとか? 確か天気予報が載ってますよね」
「んー、あれは大きい街の天気しか載ってへんで」
それもそうですね。
でも、きっと琥太郎さんにはお考えがあるのね。
食後の果物は、黒に近い紫色の立派な葡萄としゃりしゃりとした梨。
梨が出回っているなんて、もうそろそろ秋なのね。
「私らは、この梨の食感に慣れとうけど。西洋の人は、砂を噛んでるみたいで嫌いらしいなぁ」
「そうなんですか? わたしはむしろ、洋梨の方が苦手かも」
琥太郎さんは梨を食べ終えると銀のフォークを置いて、コーヒーを口にした。
ご自分では気づいていないと思うけど、ほっとした表情を浮かべているの。
それはどの食事を終えた時も同じ。琥太郎さんは、食後のコーヒーが、想像以上にお好きなんだわ。
多分、一緒に食事をしないと分からないわね。
◇◇◇
朝食を終えたわたしは、琥太郎さんの指示通りに筆記具や夏季休暇日誌の冊子を揃えて、彼の部屋の扉をノックした。
といっても続き部屋だから、廊下には出ていないんだけど。
「用意できた? ほな、行こか」
やはりお出かけではないらしく、琥太郎さんは帽子をかぶっていない。
わたしも簡素に白いワンピースで、腰の部分を淡い水色の細いベルトで結んでいる。
二人並んで階段を下りて、ロビーに着くと。明るく華やいだ雰囲気に包まれている気がした。
え? なんで?
ロビーの中央に据えられた大きな花瓶。そこには溢れんばかりの緑と白い花が生けてある。
そして、その側に翠子さんが立っていた。
紫と白と灰色を合わせた縞銘仙に、帯は薄紅の薔薇の模様。わたし達の気配に気づいて振り返った翠子さんは、笑顔をほころばせて。
ええ、まさに花に包まれているように思えたの。
芸術品かしらと思うほどに端正なオムレツは、ナイフを入れるのが申し訳ないほど。
えいやっと意を決してナイフを入れると、バターの芳醇な香りととろっとした半熟の卵が溢れて。
厚みのある燻製肉をオムレツに添えて食べると、塩気とまろやかさが相まって、いくらでも食べられそうよ。
「文子さん。ちゃんと野菜も食べるんやで」
「は、はい」
向かいの席に座る琥太郎さんが、水の入ったグラスを手に声を掛けてくる。
わたしはソテーされたほうれん草を口にした。
少し苦みがあって、本当は得意じゃないんだけれど。きっと残したら琥太郎さんに注意されるわ。
時々、琥太郎さんが保護者みたいになるのよね。
それが嫌という訳ではないんだけど。
やっぱり、年の差の所為かしら。
でも……わたしはちらりと琥太郎さんに視線を向けた。
すると穏やかに微笑まれて。しかも「ちゃんと食べれたやん。文子さんはえらいなぁ」なんて褒められてしまった。
どうしよう。嬉しいかも。
だから、わたしは黙々とほうれん草を食べたの。
「ほんまはコーヒーがええんやけど。あれは食後やからなぁ」
「わたしは未だに苦手です」
「大人の味やから、しゃあないな」
琥太郎さんはふと天井をあおいで「そうや」と思い出したように口にした。
「朝ご飯が終わったら、宿題の日誌と筆記用具を持ってロビーに行くで」
「お出かけするんですか?」
「ちゃうちゃう」と、琥太郎さんは小さく手を振った。
「じゃあ、ホテルにお願いして最近の新聞を見せてもらうとか? 確か天気予報が載ってますよね」
「んー、あれは大きい街の天気しか載ってへんで」
それもそうですね。
でも、きっと琥太郎さんにはお考えがあるのね。
食後の果物は、黒に近い紫色の立派な葡萄としゃりしゃりとした梨。
梨が出回っているなんて、もうそろそろ秋なのね。
「私らは、この梨の食感に慣れとうけど。西洋の人は、砂を噛んでるみたいで嫌いらしいなぁ」
「そうなんですか? わたしはむしろ、洋梨の方が苦手かも」
琥太郎さんは梨を食べ終えると銀のフォークを置いて、コーヒーを口にした。
ご自分では気づいていないと思うけど、ほっとした表情を浮かべているの。
それはどの食事を終えた時も同じ。琥太郎さんは、食後のコーヒーが、想像以上にお好きなんだわ。
多分、一緒に食事をしないと分からないわね。
◇◇◇
朝食を終えたわたしは、琥太郎さんの指示通りに筆記具や夏季休暇日誌の冊子を揃えて、彼の部屋の扉をノックした。
といっても続き部屋だから、廊下には出ていないんだけど。
「用意できた? ほな、行こか」
やはりお出かけではないらしく、琥太郎さんは帽子をかぶっていない。
わたしも簡素に白いワンピースで、腰の部分を淡い水色の細いベルトで結んでいる。
二人並んで階段を下りて、ロビーに着くと。明るく華やいだ雰囲気に包まれている気がした。
え? なんで?
ロビーの中央に据えられた大きな花瓶。そこには溢れんばかりの緑と白い花が生けてある。
そして、その側に翠子さんが立っていた。
紫と白と灰色を合わせた縞銘仙に、帯は薄紅の薔薇の模様。わたし達の気配に気づいて振り返った翠子さんは、笑顔をほころばせて。
ええ、まさに花に包まれているように思えたの。
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