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五章
9、なんで好かれへんのやろ ※琥太郎視点
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エリスが夜道をとことことやって来たのを想像すると、なかなかに怖いもの知らずやなと思た。
翠子さんが、この子を外に出すはずがない。欧之丞も、ちゃんとその辺は見てるやろ。
けどなぁ、猫やもんなぁ。
ほんのちょっとの隙間とか、風で扉が開いた隙にするりと外に出よるんや。
バサバサと森の方から羽ばたく音が聞こえる。
この暗い中を飛んでるのはフクロウかもしれへん。エリスなんか、簡単に咥えられて巣に持って帰られるで。
そこで初めて翠子さんのことを思い出しても、もう遅いんやで。
うわーん、助けてください。なんて悲痛に鳴いても、エリスはその時には空の上か、猛禽の巣の中や。
どんなに引っ掻こうとしても、逃げようとしてもそれも叶わへん。
あかん、想像しただけで悲しなってきた。
琥太郎兄ちゃんやったら、その辺はちゃんと躾けてあげるのに。
「ちょっと欧之丞に厳しく叱ってもらわんとあかんなぁ」
まるで「いやーっ」とでも言いたげに、エリスが私の手を蹴ってくる。文子さんに抱っこされたままで。
「君はどうやら言葉が分かる、えらい子みたいやな。それやったら、なんで別荘を出てきたんや? そうや、確か以前うちの……三條の家からも脱走したよな。そのことはどう思てんの?」
「琥太郎さん。相手は猫ですよ?」
呆れたような文子さんの声。
その時、ぱたぱたと軽い足音が聞こえた。
ん? 足音がさくさくと変わった。どうやら砂浜に降りたみたいや。
「翠子さん、待ちなさい」
「だって、早く見つけてあげないと。フクロウにさらわれてしまいます」
私は肩越しに背後を確認して、苦笑した。
「ほらな、エリス。お前さんが一番大好きな翠子さんに、ほんまに心配をかけたみたいやで」
「にゃ」
一声鳴くと、エリスは文子さんの腕からひらりと飛び降りた。
シリカの白い砂浜に小さい足跡を残しながら、愛しの翠子さんめがけて突進する。
「う、うぐっ」
あ、エリスが目測を誤って、翠子さんの喉に激突した。
意外と跳躍力があるんやな、あの子。足下は砂やのに。
「大丈夫か? 翠子さん」
「み、翠子さん。平気なの?」
翠子さんは、おさげにしている髪を肩に垂らして砂浜にうずくまった。
エリスはというと、尻尾をぴんと立てて嬉しそうに喉を鳴らしている。けどなぁ、君。大好きな主の頭に乗るんはどうかと思うで。
私は駆けだした文子さんの腕を掴んだ。肩の辺りで切り揃えた黒髪がさらりと揺れて、月の光を宿している。
ああ、もう。そんな不安そうな顔をして。
もし私がエリスに激突されたら、おんなじように心配してくれるん?
試すんも怖いなぁ。「琥太郎さん。遊んでいるんですか?」とか言われたら、つらいしなぁ。
「まぁ、ええから。欧之丞に任せときなさい」
「でも」
「あれくらいで、窒息したりせぇへんから」
おかしいなぁ。琥太郎兄ちゃんは、こんなにも猫の気持ちがわかるのに。なんでエリスには好かれへんのやろなぁ。
案の定、南国ボーイくんが用事でテラスに出た時に、エリスはするりと逃げだしたらしい。
慌てて追いかける翠子さんを、また大慌てで追いかける欧之丞。
なんというか、欧之丞の家は賑やかやなぁ。
翠子さんとエリスが来てくれて、賑やかになってよかったなぁ。過去の静かすぎる高瀬家を知っとうから、感慨もひとしおやで。と、私は苦虫を噛み潰したような顔でエリスを眺める欧之丞を、さらに眺めた。
波音しか聞こえへんかった湖畔。星の輝く音すら聞こえそうな静謐な湖畔は、いつの間にか高瀬家のお茶の間みたいな賑やかさになっとった。
翠子さんが、この子を外に出すはずがない。欧之丞も、ちゃんとその辺は見てるやろ。
けどなぁ、猫やもんなぁ。
ほんのちょっとの隙間とか、風で扉が開いた隙にするりと外に出よるんや。
バサバサと森の方から羽ばたく音が聞こえる。
この暗い中を飛んでるのはフクロウかもしれへん。エリスなんか、簡単に咥えられて巣に持って帰られるで。
そこで初めて翠子さんのことを思い出しても、もう遅いんやで。
うわーん、助けてください。なんて悲痛に鳴いても、エリスはその時には空の上か、猛禽の巣の中や。
どんなに引っ掻こうとしても、逃げようとしてもそれも叶わへん。
あかん、想像しただけで悲しなってきた。
琥太郎兄ちゃんやったら、その辺はちゃんと躾けてあげるのに。
「ちょっと欧之丞に厳しく叱ってもらわんとあかんなぁ」
まるで「いやーっ」とでも言いたげに、エリスが私の手を蹴ってくる。文子さんに抱っこされたままで。
「君はどうやら言葉が分かる、えらい子みたいやな。それやったら、なんで別荘を出てきたんや? そうや、確か以前うちの……三條の家からも脱走したよな。そのことはどう思てんの?」
「琥太郎さん。相手は猫ですよ?」
呆れたような文子さんの声。
その時、ぱたぱたと軽い足音が聞こえた。
ん? 足音がさくさくと変わった。どうやら砂浜に降りたみたいや。
「翠子さん、待ちなさい」
「だって、早く見つけてあげないと。フクロウにさらわれてしまいます」
私は肩越しに背後を確認して、苦笑した。
「ほらな、エリス。お前さんが一番大好きな翠子さんに、ほんまに心配をかけたみたいやで」
「にゃ」
一声鳴くと、エリスは文子さんの腕からひらりと飛び降りた。
シリカの白い砂浜に小さい足跡を残しながら、愛しの翠子さんめがけて突進する。
「う、うぐっ」
あ、エリスが目測を誤って、翠子さんの喉に激突した。
意外と跳躍力があるんやな、あの子。足下は砂やのに。
「大丈夫か? 翠子さん」
「み、翠子さん。平気なの?」
翠子さんは、おさげにしている髪を肩に垂らして砂浜にうずくまった。
エリスはというと、尻尾をぴんと立てて嬉しそうに喉を鳴らしている。けどなぁ、君。大好きな主の頭に乗るんはどうかと思うで。
私は駆けだした文子さんの腕を掴んだ。肩の辺りで切り揃えた黒髪がさらりと揺れて、月の光を宿している。
ああ、もう。そんな不安そうな顔をして。
もし私がエリスに激突されたら、おんなじように心配してくれるん?
試すんも怖いなぁ。「琥太郎さん。遊んでいるんですか?」とか言われたら、つらいしなぁ。
「まぁ、ええから。欧之丞に任せときなさい」
「でも」
「あれくらいで、窒息したりせぇへんから」
おかしいなぁ。琥太郎兄ちゃんは、こんなにも猫の気持ちがわかるのに。なんでエリスには好かれへんのやろなぁ。
案の定、南国ボーイくんが用事でテラスに出た時に、エリスはするりと逃げだしたらしい。
慌てて追いかける翠子さんを、また大慌てで追いかける欧之丞。
なんというか、欧之丞の家は賑やかやなぁ。
翠子さんとエリスが来てくれて、賑やかになってよかったなぁ。過去の静かすぎる高瀬家を知っとうから、感慨もひとしおやで。と、私は苦虫を噛み潰したような顔でエリスを眺める欧之丞を、さらに眺めた。
波音しか聞こえへんかった湖畔。星の輝く音すら聞こえそうな静謐な湖畔は、いつの間にか高瀬家のお茶の間みたいな賑やかさになっとった。
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