魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

文字の大きさ
54 / 94
四章

54 見方が変われば

しおりを挟む
「──というわけで、ヴィリニュスの鍵は、現在、ロスティ側の魔の森の中を移動中なんです。ですから、鍵を奪還するために、僕が立ち入る許可を得たい。どうか、お願いします」

 エディの説明に、ジョージは「ふむ」と考え込むように顎に手を置く。

 理知的な眼鏡の奥で、意地悪そうな目がキランと輝いたのは見間違いだろうか。

(いや、見間違いなんかじゃない。きっと、何か言われるに決まってる!)

 アポ無し訪問の対価が公開抱っこなのだ。

 まだ数回しか会っていないが、彼の性格があまり良いとは言えないことは分かる。

(一体、何を対価に要求されるのだろう……)

 緊張に、喉が乾く。エディの喉が、ゴクリと鳴った。

 身構えるエディに、ジョージはククッと笑う。

 悪人のような笑みに、エディはピャッと体を震わせた。

 そんなエディを見たロキースが、威嚇するようにジョージを睨む。

 ジョージは軽く肩を竦めると、それから胡散臭いくらい爽やかな笑みを浮かべた。品行方正な騎士のように。

「なるほど。では、その鍵さえ手に入れることが出来れば、あなたは前向きにロキースとの今後を考えてくれる、というわけですね?」

 エディが森守であるヴィリニュス家の者だと、ジョージは既に知っている。

(おかげで話の理解が早くて助かるな)

 勝手に調べられたのは癪だが、先に悪いことをしたのはエディの方なので文句は言えない。

(一番悪いのはリディアですけどね!)

 おそらく、エディが多忙な理由も知っているのだろう。

 その理由さえ解消すれば、彼女がヴィリニュス家に固執する理由はなくなり、普通の女の子のように──そう、リディアとルーシスのように上手くいくと思っているに違いない。

「まぁ、そういうことにならなくもない……ですかね?」

 確かに、間違いではない。

 エディは鍵のことが無くてもロキースとの今後を前向きに考えることに決めていたが、黙っておいた。

 取引は、優位に立っていた方が良い。ジョージが食わせ者ならば、尚更に。

 しばらくして、ジョージは「良いでしょう」と言った。

「そうですね……一月ひとつき、時間を頂けますか? それでなんとかしましょう」

 ジョージの提案に、エディはあからさまに落胆の色を見せた。

 だって、本当は今すぐにでも片付けたい。

 ヴィリニュスの鍵さえあれば、トルトルニアの人々は怯えながら暮らすことがなくなるのだ。

 どんなにエディたちヴィリニュス家の人々が頑張っても、防護柵の扉が開いているか閉まっているかでは全然違う。

 一刻も早く村人たちに安寧を、とエディは願ってやまないのである。

 そんなエディを見て、つられたようにロキースも情けない表情になる。

 どうにかならないのか、とロキースに責めるような目で見られても、ジョージにだってどうにもならないことはある。

「ロキース」

 諦めてくださいと言外に含ませて、ジョージは彼の名前を呼んだ。

「すみません、力不足で。前にも言いましたが、私の地位はそんなに高くない。国からは、獣人に関わることはある程度自由にして良いと言われていますが、それでも、限界はあります。魔の森にただ入るだけならば、一週間もあれば許可は得られます。ですが、鍵を魔獣が所持していたら? もしかしたら、捕獲するだけでは済まないかもしれない。ロスティは魔獣を大切にしています。いつか獣人になるかもしれませんから。殺さなくてはいけなくなった場合、あなたはどうするのですか? 私は最悪の場合も含めて、国に許可を取らなくてはならない。だから、一月かかると言っているのです」

 そこまで考えていなかったエディは、ジョージの言い分に何も言い返せなかった。

(もしも魔獣がヴィリニュスの鍵を持っていたら、仕留めれば良いと思ってた……でも、そうだよね。もしかしたらその魔獣も、ロキースみたいに誰かに恋をして獣人になるかもしれない。そうしたら僕は、今まで、ロキースみたいになるかもしれなかった魔獣たちを殺していたってこと……⁉︎)

 そこまで思い至って、エディは震えた。

 もしかしたらエディは、恋する健気な魔獣を殺したのではないか。

 そう思ったら、堪らなく怖くなった。

 肩を落とすエディの頭を、ロキースが慰めるように撫でる。

 優しい温もりが、今は罪悪感で苦しい。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...