魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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五章

55 悪夢

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「いやぁぁっ!」

 自分の叫び声で目覚めるなんて、最悪な昼である。

 エディは起きるなり、しげしげと自身の手を眺めた。

 傷だらけの手。いつもの手。悪夢でみた、血で真っ赤に染まる手はどこにもない。

「……っ、はぁ」

 ドキドキと胸が早鐘を打っている。

 首元を伝う嫌な汗を、寝巻きの袖で雑に拭う。

 こんな嫌な夢をみたのは、初めて魔獣を仕留めた時以来だった。

「ひどい、夢……」

 夢の中のエディは、人に恋をして、恋した相手に会いに行こうと村へ侵入した魔獣を見つけた。

 いつものように見張り台から矢を放ち、確認しに行くと、ロキースが血塗れで倒れている。

 慌てて抱き起こすと、ロキースは言った。「俺はきみを愛しているだけなのに、どうして?」と。

 それきり、ロキースは事切れた。

 あとに残ったのは、血で汚れた自分の手。

「……引き摺られている」

(ジョージ様の言葉に)

 エディはずっと、考えていた。ロスティの大使館から帰ってから、ずっと。

『ロスティは魔獣を大切にしています。いつか獣人になるかもしれませんから。殺さなくてはいけなくなった場合、あなたはどうするのですか?』

 ジョージはただ、事実を述べただけだ。そこに悪意なんてない。

 だって、彼は魔獣の恋を応援する立場の人間なのだ。エディが彼の言葉でこんな悪夢をみるようになるなんて、分かるわけがない。

『もちろん、苦しまないように細心の注意を払って仕留めるつもりだ』

 前のエディなら、そう答えたはずだ。

 だけど、今は違う。

(どんな顔をして、ロキースに会えばいい?今まで僕は、どんな顔でロキースに会っていたっけ?)

 わからない、わからない、わからない。

 会いたくないのに会いたいし、会わせる顔がないのに、顔を見て安心したい。

 グチャグチャの気持ちを隠すように、エディは膝を抱えて丸くなる。

 だけど無情にも、扉の向こうでエグレが告げてくる。

「お嬢様、ロキース様がいらしてますよ」





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