魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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六章

70 男装少女の妄想

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 リディアは言っていた。

 どこぞの国にはバレンタインという女の子が男の子に告白をする日があって、既にお付き合いをしているカップルの場合は、女の子が自らをラッピングして「私を食べて」とプレゼントするらしい。

 それを聞いたエディは、ミハウから無理やり押しつけられた恐怖小説のワンシーンを思い出していた。

 気が触れた医者が、余命幾ばくもない患者を「忘れないために」とか言って次々食べていく……そんな内容だったと思う。

『リディア、それって人肉嗜食カニバリズムって言うんだよ。ミハウが持っている本に、そう書いてあった』

『違うわよぉ。そういう意味じゃないの。エディはまだお子ちゃまだから分かんないだろうけど、そういう気持ちがあるの、女の子には!』

『お子ちゃまって……僕、リディアとそんなに歳離れてないよ?』

『好きになった人が一人もいない人は、お子ちゃまよ』

『僕はもう、働いているのに?』

『社会的には大人でも、心はまだまだお子ちゃまってこと』

 リディアの言う通り、あの時のエディはお子ちゃまだったのだと、今なら分かる。

「食べてって、そういう意味……」

 ふしゅうとエディから湯気が立ち上る。

 うっかりあのまま身を任せていたらどうなっていたのだろうと妄想して、撃沈した。

 ごちん。

 エディの額がテーブルにぶつかる。

「あぁ、恥ずかしい。僕ってば、なんなのさ、もう……」

 リディアのせいで知識だけは豊富だったから、妄想が捗って仕方がない。

 彼女から聞いた話はどれもこれも以前のエディには理解し難いものだったけれど、ロキースのおかげで全て分かるようになってしまった。

 もしも、あのままロキースに組み敷かれていたら、エディはどうなっていたのだろう。

 指を甘噛みしていたあの口が、手から腕へ、腕から肩へ、それから首を伝って唇に寄せられる。

 唇を合わせるって、どんな感覚なのだろう。

 キスだって、唇を合わせるだけじゃないことを、エディは知っている。

 ベッドに組み敷かれて、視界いっぱいにロキース。

 ギュッと抱きしめられたら、彼の匂いに包まれるのだろう。

 視覚に嗅覚に触覚。全身でロキースを感じたら、一体どうなってしまうのか。

(ロキースは大きいから、なんか、いろいろ……大変そう。果たして僕は、彼を受け入れられるのだろうか……?)

 ごちん、ごちん、ごちん。

 恥ずかしさを誤魔化すように、「うわぁ、うわぁ」と小声で叫びながらエディはテーブルに額を打ちつける。

 その時だった。

 遠くから、カツカツとヒールの音が聞こえてくる。

 徐々に近づいてきたその音は、食堂の前で止まった。

「エディ、ここにいたのね? 探したわ」

 その声が聞こえたのは、エディが食堂の入り口へ視線を向けたのと同時だった。
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