魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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六章

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「ねえさん」

 食堂に入ってきたのは、ルタだった。相変わらず、人妻とは思えない美女ぶりである。

 カツカツとヒールの音を高らかに鳴らして歩み寄ってきたルタは、エディのすぐそばで立ち止まると艶然と微笑んだ。

(僕にそんな笑い方、しなくて良いのに)

 エディは、色気の無駄遣いだと思った。

 だってエディは女だ。こんな身なりでも。

「これ、あなたのでしょう?」

「それ……!」

 そう言って差し出してきたものを見て、エディは引ったくるようにルタの手から取った。

 ルタが持ってきたもの。それは、エディがロスティから貰った許可証だった。

 ヴィリニュスの鍵を取り戻すためには、なくてはならない大事なものである。

 てっきりポケットに入っていると思っていたが、もしかしたら昨日の追いかけっこの途中で紛失したのだろうか。

 手紙を大事そうに抱え込むエディに、ルタは唇に指を添えてクスリと笑んだ。

「あらあら、そんなに大事なものだったの? そんなに大事なら、失くしちゃダメよ」

「そうだね、ごめんなさい。届けてくれて、どうもありがとう」

「いいえ、お礼なんていいのよ。でも……その代わりと言ってはなんだけれど、一つ、聞いても良いかしら?」

 ルタの言葉に、エディは嫌な予感しかしない。

 彼女の聞きたいことは、いつだってろくなものじゃないからだ。

(リディア以上に面倒な内容なんだよね……)

 とはいえ、大事なものを届けてもらった礼はするべきだろう。

 身内とはいえ、礼儀は大事だ。特に、相手は家格が上の兄嫁である。逆らったら、両親や兄に何かあるかもしれない。

「聞きたいこと? 何かな?」

「昨日、あなたとリディアが追いかけっこしていた男の人たち……あの人たちって、獣人じゃない? 私、見ちゃったの。彼らには、獣の耳と尻尾があったわ。ねぇ、あの人たちって、獣人なのでしょう?」

 どうやらルタは、昨日の騒ぎを見ていたらしい。

 村を横断するように逃げていったから、見られていてもおかしくはないのだが。

 美形二人がエディとリディアを追いかけていた。

 そんな面白そうな事件、噂好きのルタが黙っているわけがない。

(それに……見ちゃったのなら、今更誤魔化しても無駄だよね)

 そう思ったエディは、素直に「そうだよ」と告げた。

 ルタはそんなエディに、一歩近づく。ふわりと漂ってくる香水の香りに、エディは鼻に皺を寄せた。

「二人いたけど、もしかして、リディアとあなたの獣人なの?」

「リディアと僕の獣人? どういう意味だよ、それ」

「そのままの意味よ。獣人は、生涯でたった一度だけ恋をする。それはもう、一途にね。失恋したら消滅してしまい、恋が成就したとしても、恋した相手が死ねば寂しくて死ぬ。人間の恋なんてすぐに冷めてしまうけれど、獣人の恋は一生もの! しかも獣人は恋した相手に合わせた美人になるのでしょう? ねぇ、どちらがエディのもので、どちらがリディアのものなの? 私、気になって気になって、夜も眠れないわ!」
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