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六章
74 鍵の秘密
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「もう! なんなの、あのババァ! 僕のエディタに喧嘩を売るなんて、何様のつもり⁉︎」
「ミハウ様」
「分かってるよ。もう僕のじゃないって言うんでしょ」
「いいえ。もともとお嬢様はミハウ様ものではございません」
「うるさいよ、エグレ」
「申し訳ございません」
夫婦漫才のようなやりとりを背景に、エディは思案していた。
『また日を改めて』
ルタはそう言っていた。エディは二度としたくないと突っぱねたけれど、同じ屋根の下にいれば嫌でも機会は生まれてしまう。
なにより気がかりなのは、あの宣戦布告するような不敵な笑みだ。
まるで、エディからロキースを奪うことなんて簡単だと言っているようだった。
でも、彼女は言っていたのだ。獣人は生涯でたった一度だけ恋をする、と。
「つまり、ロキースは僕にしか恋をしないということ。じゃあなぜ、ルタが身代わりになれるんだ……?」
人間と違い、魔獣の恋は盲目的である。
そんな彼らが恋した相手に取って代わることなんて、可能なのだろうか。
「あぁ、それね。僕なら説明出来るかも」
「ミハウが?」
「うん。おばあちゃんがね、ずっと昔に言っていたんだよ。ヴィリニュスの鍵の秘密を」
「ヴィリニュスの鍵の、秘密……?」
エディはそんな話、聞いたことがなかった。
家族の中で祖母のエマと一番親しくしているつもりだったエディは、少しだけ寂しく思う。
(ミハウには話せて、僕には話せないこと……?)
「そう。ヴィリニュスの鍵は、防護柵の鍵なんだけど……実は、とある楽器の一部らしい。その楽器っていうのが、魔笛。魔獣を意のままに操ることが出来る、恐ろしい笛なんだっておばあちゃんは言っていた」
魔獣を意のままに操ることが出来る笛、魔笛。
初めて聞く話に、エディは驚きを隠せない。
でも、もしもそんな笛が実在するのだとすれば。
(ルタは、ロキースを、意のままに操ることが出来る?)
エディの脳裏に、ロキースにしなだれかかるルタの姿が浮かぶ。
(嫌だ。やめて。ロキースを、僕から奪わないで!)
考えるだけで、胸が苦しくなる。
自分を見つめていたように、蜂蜜みたいに甘い目でルタを見るのだろうか。
あの大きな体で、ルタの細い体を抱きしめるのか。
(そんなロキース、見たくない……)
ションボリと肩を落とすエディの前に、淹れたての紅茶が差し出される。
蜂蜜が入ったそれに、涙が出そうになった。
だって蜂蜜入りの紅茶は、ロキースがよく淹れてくれたものだから。
「ありがとう、エグレ」
「少し、休憩しましょう。お嬢様も、ミハウ様も」
「うん」
「そうだね」
エグレが淹れてくれた紅茶は、ロキースが淹れてくれたものよりもしょっぱい味がした。
「ミハウ様」
「分かってるよ。もう僕のじゃないって言うんでしょ」
「いいえ。もともとお嬢様はミハウ様ものではございません」
「うるさいよ、エグレ」
「申し訳ございません」
夫婦漫才のようなやりとりを背景に、エディは思案していた。
『また日を改めて』
ルタはそう言っていた。エディは二度としたくないと突っぱねたけれど、同じ屋根の下にいれば嫌でも機会は生まれてしまう。
なにより気がかりなのは、あの宣戦布告するような不敵な笑みだ。
まるで、エディからロキースを奪うことなんて簡単だと言っているようだった。
でも、彼女は言っていたのだ。獣人は生涯でたった一度だけ恋をする、と。
「つまり、ロキースは僕にしか恋をしないということ。じゃあなぜ、ルタが身代わりになれるんだ……?」
人間と違い、魔獣の恋は盲目的である。
そんな彼らが恋した相手に取って代わることなんて、可能なのだろうか。
「あぁ、それね。僕なら説明出来るかも」
「ミハウが?」
「うん。おばあちゃんがね、ずっと昔に言っていたんだよ。ヴィリニュスの鍵の秘密を」
「ヴィリニュスの鍵の、秘密……?」
エディはそんな話、聞いたことがなかった。
家族の中で祖母のエマと一番親しくしているつもりだったエディは、少しだけ寂しく思う。
(ミハウには話せて、僕には話せないこと……?)
「そう。ヴィリニュスの鍵は、防護柵の鍵なんだけど……実は、とある楽器の一部らしい。その楽器っていうのが、魔笛。魔獣を意のままに操ることが出来る、恐ろしい笛なんだっておばあちゃんは言っていた」
魔獣を意のままに操ることが出来る笛、魔笛。
初めて聞く話に、エディは驚きを隠せない。
でも、もしもそんな笛が実在するのだとすれば。
(ルタは、ロキースを、意のままに操ることが出来る?)
エディの脳裏に、ロキースにしなだれかかるルタの姿が浮かぶ。
(嫌だ。やめて。ロキースを、僕から奪わないで!)
考えるだけで、胸が苦しくなる。
自分を見つめていたように、蜂蜜みたいに甘い目でルタを見るのだろうか。
あの大きな体で、ルタの細い体を抱きしめるのか。
(そんなロキース、見たくない……)
ションボリと肩を落とすエディの前に、淹れたての紅茶が差し出される。
蜂蜜が入ったそれに、涙が出そうになった。
だって蜂蜜入りの紅茶は、ロキースがよく淹れてくれたものだから。
「ありがとう、エグレ」
「少し、休憩しましょう。お嬢様も、ミハウ様も」
「うん」
「そうだね」
エグレが淹れてくれた紅茶は、ロキースが淹れてくれたものよりもしょっぱい味がした。
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