魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

文字の大きさ
74 / 94
六章

74 鍵の秘密

しおりを挟む
「もう! なんなの、あのババァ! 僕のエディタに喧嘩を売るなんて、何様のつもり⁉︎」

「ミハウ様」

「分かってるよ。もう僕のじゃないって言うんでしょ」

「いいえ。もともとお嬢様はミハウ様ものではございません」

「うるさいよ、エグレ」

「申し訳ございません」

 夫婦漫才のようなやりとりを背景に、エディは思案していた。

『また日を改めて』

 ルタはそう言っていた。エディは二度としたくないと突っぱねたけれど、同じ屋根の下にいれば嫌でも機会は生まれてしまう。

 なにより気がかりなのは、あの宣戦布告するような不敵な笑みだ。

 まるで、エディからロキースを奪うことなんて簡単だと言っているようだった。

 でも、彼女は言っていたのだ。獣人は生涯でたった一度だけ恋をする、と。

「つまり、ロキースは僕にしか恋をしないということ。じゃあなぜ、ルタが身代わりになれるんだ……?」

 人間と違い、魔獣の恋は盲目的である。

 そんな彼らが恋した相手に取って代わることなんて、可能なのだろうか。

「あぁ、それね。僕なら説明出来るかも」

「ミハウが?」

「うん。おばあちゃんがね、ずっと昔に言っていたんだよ。ヴィリニュスの鍵の秘密を」

「ヴィリニュスの鍵の、秘密……?」

 エディはそんな話、聞いたことがなかった。

 家族の中で祖母のエマと一番親しくしているつもりだったエディは、少しだけ寂しく思う。

(ミハウには話せて、僕には話せないこと……?)

「そう。ヴィリニュスの鍵は、防護柵の鍵なんだけど……実は、とある楽器の一部らしい。その楽器っていうのが、魔笛まてき。魔獣を意のままに操ることが出来る、恐ろしい笛なんだっておばあちゃんは言っていた」

 魔獣を意のままに操ることが出来る笛、魔笛。

 初めて聞く話に、エディは驚きを隠せない。

 でも、もしもそんな笛が実在するのだとすれば。

(ルタは、ロキースを、意のままに操ることが出来る?)

 エディの脳裏に、ロキースにしなだれかかるルタの姿が浮かぶ。

(嫌だ。やめて。ロキースを、僕から奪わないで!)

 考えるだけで、胸が苦しくなる。

 自分を見つめていたように、蜂蜜みたいに甘い目でルタを見るのだろうか。

 あの大きな体で、ルタの細い体を抱きしめるのか。

(そんなロキース、見たくない……)

 ションボリと肩を落とすエディの前に、淹れたての紅茶が差し出される。

 蜂蜜が入ったそれに、涙が出そうになった。

 だって蜂蜜入りの紅茶は、ロキースがよく淹れてくれたものだから。

「ありがとう、エグレ」

「少し、休憩しましょう。お嬢様も、ミハウ様も」

「うん」

「そうだね」

 エグレが淹れてくれた紅茶は、ロキースが淹れてくれたものよりもしょっぱい味がした。




しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

処理中です...