魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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六章

76 ロキースの夢

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「こんにちは、ロキース」

 そう言って、思い詰めたような表情を浮かべて訪ねて来たエディに、ロキースは嫌な予感しかしなかった。

 もしかしたら、お別れを言いにきたのかもしれない。

 ロキースの脳裏を、そんな考えが過ぎる。

 逃げる時はただ恥ずかしがっていたように見えたけれど、冷静に考えてみたらロキースに幻滅したのかもしれない。

 我慢できずにエディに手を出してしまったことは、悪いと思っている。

 でも、ロキースだって男だ。

 好きな子に気のある素振りをされたら、舞い上がってしまう。

 いつものように菓子を皿に並べ始めても、エディはソファから立ち上がらない。

 膝の上に置いた手をギュッと握って、床を睨みつけていた。

「エディ、どうしたのだ?」

 どうしたのだ、なんて白々しい問いかけだろうか。

 でも他にどう声をかけて良いのか、ロキースには分からなかった。

 ロキースの問いかけに、エディはビクンと肩を揺らす。

 ゆっくりと上げたエディの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

「エディ⁈」

 泣くほど嫌だったのかと、ロキースは動揺した。

 オロオロしているロキースを前にして、エディはスンと鼻を鳴らす。

「ろきー、す……どうしよう……僕……とんでもないことをしちゃったかもしれない」

 言いたいことはもっとあるのに、言いたい言葉は喉に詰まって声にならない。

 エディはヒックヒックと嗚咽を漏らし始めた。

 そんな彼女を、ロキースは力強く引き寄せる。

 半ば衝突するように抱きしめられて、エディも縋り付くように腕を回した。

「エディ。大丈夫だから。俺は何があってもエディのそばにいる」

 ロキースの大きな体が、エディの小さな体を包み込む。

 低くて優しい声が「大丈夫、大丈夫」と安心させるように何度も告げてきた。

「あの、ね。もしかしたら、戦争になるかもしれなくって。ロキースも、僕から離れていっちゃうかもしれないって……どうしよう……僕、ロキースの隣にいられなくなっちゃうかもしれない」

 エディの言うことは要領を得ない。

 だが、彼女が不安でいっぱいだということは確かなようだった。

「嫌だよぅ……嫌なの……」

 エディは、子供のように泣きじゃくった。

 ロキースの胸に顔を押し付けながら、ぴったりと体をくっつけてくる。

 こんなに無防備に体を預けてくるエディは、初めてだった。

 泣いている彼女には申し訳ないが、ロキースは嬉しいと思う気持ちが止まらなくなる。

 だって、夢だったのだ。

 エディは小さな頃から、いつも一人でひっそりと泣いていた。

 小さく丸めた背中を見つめて、守ってあげたいと思っていたのだ。

 だからロキースは、いつか獣人になれたら、エディが泣いた時は抱きしめて甘やかしてあげようと決めていた。
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