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一章 一年目なつの月
07 なつの月10日、牧場主初日②
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日本という国に生まれ、両親の元で四人姉妹の長女として育った彼女は、大学を卒業し、警察官になるために警察大学校へ入学する数日前に亡くなった。
春休みに訪れていた湖で、ボートから落ちた子供を助けに入水。無事に助けたところで力尽き、そこで意識は途切れている。
人の為にと警察官を志した、彼女らしい最期だったかもしれない。
同時に、ここが死ぬ前にプレイしていたゲーム『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だと思い出した。
イーヴィンーー今の彼女は男主人公、リアンと対をなす女主人公である。
当たり障りのない、どこにでもいそうな平凡な顔。でも、主人公の一人なのでそれなりには可愛い。
牧場生活に憧れる少女らしく、キャラメル色の長い髪を三つ編みにして、動きやすそうな『夏空コーデ』という衣装を着ている。
夏空コーデはその名の通り、夏の空のような真っ青なワンピースに、雲のように白いエプロンドレスがついている。
なんというか、少女趣味っぽい服だ。
「って!話が違うんですけど!」
意識を取り戻すと同時に、入江ほのかことイーヴィンは、叫びながら上半身をガバリと起こした。
ベッドサイドで様子を見ていたシルキーが、イーヴィンの突然の行動に驚いて思わず背を反らしていたが、混乱する彼女はそれすら目に入らない。
アワアワと唇を震わせ、明らかに動揺していた。
ブクブクと唇から溢れる水泡を見つめ、「あぁここまでか」と意識を手放した後。
彼女は、美しい女性に声を掛けられた。
ローマ時代の女性のような格好をした、髪の長い女性は、ほのかにこう言った。
「貴女の勇気ある行動は、とても素晴らしいものです。本当はこのまま蘇らせてあげたいのだけれど、私にはそこまでの力がない。その代わり、貴女の望む世界に転生させてあげましょう」
その時、ほのかは言ったのだ。ゲームの世界に転生したい、と願ったのである。
だけどまさか、乙女ゲームを希望していたのに、同時期にプレイしていた牧場生活シミュレーションゲームに転生するとは思わなかった。
(乙女ゲームに転生って、テンプレじゃないの……?)
ほのかの中で、ゲームに転生と言えば乙女ゲームの悪役令嬢が当然だった。
かなり偏った考えではあるが、彼女はオタクなのである。真面目な優等生かと思いきや、その実態は隠れオタクだった。
王子に見捨てられ、実は腹黒なヒロインにざまぁし、隣国の王子あたりに見初められてハッピーエンド。そんなのを夢見ていた。
しかし、現実にそんなことはなかった。
転生先はのんびりとした牧場生活を楽しむシミュレーションゲームだったのである。
(まぁ、それはそれで悪くないけど)
『ハーモニーハーベスト』は、シリーズの初代からずっとプレイしているガチ勢である。
憧れの世界に転生して、嬉しくないわけがない。
現実では資金的に到底無理な、牧場主になれるかもしれなのだ。
悪役令嬢になれなかったのは残念ではあるが、これはこれで良かったかもしれない。
まだ出会っていないが、もしも彼女が知るゲームならば、村には婿候補と言われるキャラクターたちがいるのだろう。
そんな彼らと出会い、話しかけ、貢ぎ、親密度を上げてイベントを起こす。それは、乙女ゲームと似ているといえば似ているかもしれない。
春休みに訪れていた湖で、ボートから落ちた子供を助けに入水。無事に助けたところで力尽き、そこで意識は途切れている。
人の為にと警察官を志した、彼女らしい最期だったかもしれない。
同時に、ここが死ぬ前にプレイしていたゲーム『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だと思い出した。
イーヴィンーー今の彼女は男主人公、リアンと対をなす女主人公である。
当たり障りのない、どこにでもいそうな平凡な顔。でも、主人公の一人なのでそれなりには可愛い。
牧場生活に憧れる少女らしく、キャラメル色の長い髪を三つ編みにして、動きやすそうな『夏空コーデ』という衣装を着ている。
夏空コーデはその名の通り、夏の空のような真っ青なワンピースに、雲のように白いエプロンドレスがついている。
なんというか、少女趣味っぽい服だ。
「って!話が違うんですけど!」
意識を取り戻すと同時に、入江ほのかことイーヴィンは、叫びながら上半身をガバリと起こした。
ベッドサイドで様子を見ていたシルキーが、イーヴィンの突然の行動に驚いて思わず背を反らしていたが、混乱する彼女はそれすら目に入らない。
アワアワと唇を震わせ、明らかに動揺していた。
ブクブクと唇から溢れる水泡を見つめ、「あぁここまでか」と意識を手放した後。
彼女は、美しい女性に声を掛けられた。
ローマ時代の女性のような格好をした、髪の長い女性は、ほのかにこう言った。
「貴女の勇気ある行動は、とても素晴らしいものです。本当はこのまま蘇らせてあげたいのだけれど、私にはそこまでの力がない。その代わり、貴女の望む世界に転生させてあげましょう」
その時、ほのかは言ったのだ。ゲームの世界に転生したい、と願ったのである。
だけどまさか、乙女ゲームを希望していたのに、同時期にプレイしていた牧場生活シミュレーションゲームに転生するとは思わなかった。
(乙女ゲームに転生って、テンプレじゃないの……?)
ほのかの中で、ゲームに転生と言えば乙女ゲームの悪役令嬢が当然だった。
かなり偏った考えではあるが、彼女はオタクなのである。真面目な優等生かと思いきや、その実態は隠れオタクだった。
王子に見捨てられ、実は腹黒なヒロインにざまぁし、隣国の王子あたりに見初められてハッピーエンド。そんなのを夢見ていた。
しかし、現実にそんなことはなかった。
転生先はのんびりとした牧場生活を楽しむシミュレーションゲームだったのである。
(まぁ、それはそれで悪くないけど)
『ハーモニーハーベスト』は、シリーズの初代からずっとプレイしているガチ勢である。
憧れの世界に転生して、嬉しくないわけがない。
現実では資金的に到底無理な、牧場主になれるかもしれなのだ。
悪役令嬢になれなかったのは残念ではあるが、これはこれで良かったかもしれない。
まだ出会っていないが、もしも彼女が知るゲームならば、村には婿候補と言われるキャラクターたちがいるのだろう。
そんな彼らと出会い、話しかけ、貢ぎ、親密度を上げてイベントを起こす。それは、乙女ゲームと似ているといえば似ているかもしれない。
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