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四章 一年目はるの月
34 はるの月3日、ガテンなお兄さん①
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夜明けと共に星まつりが終わりを告げると、牧場はにわかに華やいだ。
春を告げる白い蝶が舞い、冬眠から目覚めた蜂が蜜を求めて飛び回る。
うっすらと積もっていた雪は、陽光に照らされて溶けていき、現れた大地には青々とした若葉が芽吹く。
たった数時間で、冬の気配は跡形もなく消え去った。
唐突に始まるはるの月に、人々は驚きもしない。
前世の記憶を取り戻したイーヴィンだけが、ほんの少しの違和感を覚えただけである。
前世では緩やかに移りゆく季節が、この世界では月ごとにガラリと切り替わる。
今までそれが当たり前だったのに、それとは違う世界があるのだと思い出してからは、ほんの少し新鮮な気持ちだった。
「春だねぇ。あったかいねぇ」
はるの月一日に購入して植えた種は早くも芽吹き、すくすくと順調に育っていた。
今月はほんの少し頑張って、五種類の野菜を栽培している。カブ、ジャガイモ、キャベツ、それから連作できるキュウリとイチゴ。特にイチゴは期待大である。料理上手なシルキーにジャムの作り方を教えてもらうんだと、イーヴィンは張り切っていた。
冬の間に整備した牧草地も、春の訪れと共に青々とした葉を茂らせ、ニワトリの放牧を待ちわびている。
はるの月二日にイーヴィンは村へ行き、大工にニワトリ小屋建設を依頼し、動物屋に寄ってニワトリ一羽とエサを購入した。
「おや。準備出来たのかい?それは良かった。僕の方も、しっかり吟味して君に合いそうなニワトリを用意しておいたよ」
相変わらず計算されたような胡散臭い爽やかな笑みを浮かべたローナンは、店の奥から丸々としたニワトリを三羽出してくれる。
真っ白なニワトリ、尾が黒いニワトリ、茶色いニワトリがそれぞれつぶらな瞳でイーヴィンを見つめてきた。
「か、可愛い……!」
どのニワトリも、コッコッコッとおとなしくしている。
ニワトリの良し悪しなんてまだイーヴィンには分からないが、どの子を選んでも問題はなさそうだ。となるとどう選べば良いものか、彼女は困惑する。
「どうしよう……どの子も可愛い」
「どのニワトリも人懐っこくて穏やかな性格をしているから、飼育はさして難しくないはずだよ。あとは好みじゃないかな?」
ローナンの言葉を聞きながら、イーヴィンはしばらくうんうんと悩んだ。
そんな彼女の目の前で、とりわけ丸々とした茶色のニワトリが、「よろしく」と言いたげにお辞儀をするように首を前後に動かした。
「この子にします!」
春を告げる白い蝶が舞い、冬眠から目覚めた蜂が蜜を求めて飛び回る。
うっすらと積もっていた雪は、陽光に照らされて溶けていき、現れた大地には青々とした若葉が芽吹く。
たった数時間で、冬の気配は跡形もなく消え去った。
唐突に始まるはるの月に、人々は驚きもしない。
前世の記憶を取り戻したイーヴィンだけが、ほんの少しの違和感を覚えただけである。
前世では緩やかに移りゆく季節が、この世界では月ごとにガラリと切り替わる。
今までそれが当たり前だったのに、それとは違う世界があるのだと思い出してからは、ほんの少し新鮮な気持ちだった。
「春だねぇ。あったかいねぇ」
はるの月一日に購入して植えた種は早くも芽吹き、すくすくと順調に育っていた。
今月はほんの少し頑張って、五種類の野菜を栽培している。カブ、ジャガイモ、キャベツ、それから連作できるキュウリとイチゴ。特にイチゴは期待大である。料理上手なシルキーにジャムの作り方を教えてもらうんだと、イーヴィンは張り切っていた。
冬の間に整備した牧草地も、春の訪れと共に青々とした葉を茂らせ、ニワトリの放牧を待ちわびている。
はるの月二日にイーヴィンは村へ行き、大工にニワトリ小屋建設を依頼し、動物屋に寄ってニワトリ一羽とエサを購入した。
「おや。準備出来たのかい?それは良かった。僕の方も、しっかり吟味して君に合いそうなニワトリを用意しておいたよ」
相変わらず計算されたような胡散臭い爽やかな笑みを浮かべたローナンは、店の奥から丸々としたニワトリを三羽出してくれる。
真っ白なニワトリ、尾が黒いニワトリ、茶色いニワトリがそれぞれつぶらな瞳でイーヴィンを見つめてきた。
「か、可愛い……!」
どのニワトリも、コッコッコッとおとなしくしている。
ニワトリの良し悪しなんてまだイーヴィンには分からないが、どの子を選んでも問題はなさそうだ。となるとどう選べば良いものか、彼女は困惑する。
「どうしよう……どの子も可愛い」
「どのニワトリも人懐っこくて穏やかな性格をしているから、飼育はさして難しくないはずだよ。あとは好みじゃないかな?」
ローナンの言葉を聞きながら、イーヴィンはしばらくうんうんと悩んだ。
そんな彼女の目の前で、とりわけ丸々とした茶色のニワトリが、「よろしく」と言いたげにお辞儀をするように首を前後に動かした。
「この子にします!」
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