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七章 二年目ふゆの月
81 ふゆの月15日、イーヴィンのみる夢②
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イーヴィンは、前世は日本という国で、一般家庭に生まれ、ごく普通の女の子として生きていた。
入江ほのかーーそれが、前世の彼女の名前である。
初恋は、小学生の頃。
相手は幼なじみの少年の兄ーー長野祐輔。
悪戯好きな幼なじみに泣かされる度、助けてくれたのは祐輔だった。
何か困ったことがあると、すぐに声をかけてくれたのも彼だった。
優しくて、かっこよくて、面倒見の良い兄のような彼に淡い恋心を抱いたのは、当たり前のことだったとほのかは思う。
彼に憧れて、少しでも近づきたくて、彼の実家である剣道場に通った。
サラサラとした黒髪を一文字に切り揃えた斬新な髪型はあまり好きではなかったけれど、そんなことは些細な問題だった。
キリッとした涼しげな目元は、たまに観る時代劇のヒーローみたいに渋くてカッコ良かったし、すらりとした長身は剣道でほどよく鍛えられていて、ほのかは幼なじみから何度も自慢されたものだ。
四姉妹の長女として、「お姉ちゃんなんだから」と言われ続けたほのかにとって、彼は唯一甘えられる人だった。
何かあれば、すぐに祐輔に相談をした。
文武両道を地でいく彼は、ほのかの悩みにいつだって的確なアドバイスをしてくれたからだ。
高校を選ぶのにも彼の意見を聞いたし、大学は彼と同じ学校を選んだ。
初恋は、大学三年まで続いた。
終わりは、呆気ない。
彼は、ほのかが知らない女の人と婚約したのである。
招待状が届いた時の気持ちは、言い表せない。
『妹のように思っているほのかちゃんに、祝福してもらえたら嬉しいです。可愛いドレス姿を楽しみにしているよ』
そんな、嬉しくも残酷なメッセージまで添えられて、ほのかは複雑な思いだった。
「ドレス姿を楽しみにしてる、なんて。それ、花嫁さんに言う言葉でしょ」
目を潤ませるほのかに、彼女の母は喜びの涙を浮かべていると思ったようだが、事実は違う。
失恋したことを告げる招待状に、彼女は傷ついていた。
結婚式に妹枠で参列した時の気持ちは、口にする事は一生ないだろうなとほのかは思う。
実際、彼女は誰にも言うことなく、若くして亡くなっている。
煌びやかなステンドグラスが嵌め込まれた、海の近くの教会。
ダサかった髪型は短く切り揃えてセットされ、シルバーグレーのタキシードを着た祐輔は、びっくりするくらいカッコよかった。
「紋付袴の方が似合うのに」
そんな言葉も、所詮は負け惜しみである。
花嫁の手によって、更に素敵になった初恋の人。
知らない女の人の隣で、幸せそうに笑っている。
「初恋は実らないものなのよ。だから、結婚式に参列して玉砕してきなさい。帰ってきたら、慰めてあげるから」
そう言ってドレスを選んでくれた友人に、ほのかは文句を言ってやりたかった。
(こんなの、苦しいだけ)
美味しそうなケーキを目の前にして、見ているだけは辛すぎる。
ずっと目の前にあって愛でていたものが他人のものだったなんて、なんて滑稽なんだと可笑しく思えてきて、ほのかは自嘲するように笑った。
結婚式のあと、ほのかは散々泣いて、どうして告白しなかったんだと自分を責めた。
しばらくして、全てがどうでもよくなった。
大学も休んで、だらだらと過ごす。
時代劇はもう見ないと決めて、代わりに見ていた刑事ドラマに影響された。
安易だが、警察官になろうと決めた。
それからきちんと大学に通い、無事に進級してーー前世の幕は降りたのである。
入江ほのかーーそれが、前世の彼女の名前である。
初恋は、小学生の頃。
相手は幼なじみの少年の兄ーー長野祐輔。
悪戯好きな幼なじみに泣かされる度、助けてくれたのは祐輔だった。
何か困ったことがあると、すぐに声をかけてくれたのも彼だった。
優しくて、かっこよくて、面倒見の良い兄のような彼に淡い恋心を抱いたのは、当たり前のことだったとほのかは思う。
彼に憧れて、少しでも近づきたくて、彼の実家である剣道場に通った。
サラサラとした黒髪を一文字に切り揃えた斬新な髪型はあまり好きではなかったけれど、そんなことは些細な問題だった。
キリッとした涼しげな目元は、たまに観る時代劇のヒーローみたいに渋くてカッコ良かったし、すらりとした長身は剣道でほどよく鍛えられていて、ほのかは幼なじみから何度も自慢されたものだ。
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何かあれば、すぐに祐輔に相談をした。
文武両道を地でいく彼は、ほのかの悩みにいつだって的確なアドバイスをしてくれたからだ。
高校を選ぶのにも彼の意見を聞いたし、大学は彼と同じ学校を選んだ。
初恋は、大学三年まで続いた。
終わりは、呆気ない。
彼は、ほのかが知らない女の人と婚約したのである。
招待状が届いた時の気持ちは、言い表せない。
『妹のように思っているほのかちゃんに、祝福してもらえたら嬉しいです。可愛いドレス姿を楽しみにしているよ』
そんな、嬉しくも残酷なメッセージまで添えられて、ほのかは複雑な思いだった。
「ドレス姿を楽しみにしてる、なんて。それ、花嫁さんに言う言葉でしょ」
目を潤ませるほのかに、彼女の母は喜びの涙を浮かべていると思ったようだが、事実は違う。
失恋したことを告げる招待状に、彼女は傷ついていた。
結婚式に妹枠で参列した時の気持ちは、口にする事は一生ないだろうなとほのかは思う。
実際、彼女は誰にも言うことなく、若くして亡くなっている。
煌びやかなステンドグラスが嵌め込まれた、海の近くの教会。
ダサかった髪型は短く切り揃えてセットされ、シルバーグレーのタキシードを着た祐輔は、びっくりするくらいカッコよかった。
「紋付袴の方が似合うのに」
そんな言葉も、所詮は負け惜しみである。
花嫁の手によって、更に素敵になった初恋の人。
知らない女の人の隣で、幸せそうに笑っている。
「初恋は実らないものなのよ。だから、結婚式に参列して玉砕してきなさい。帰ってきたら、慰めてあげるから」
そう言ってドレスを選んでくれた友人に、ほのかは文句を言ってやりたかった。
(こんなの、苦しいだけ)
美味しそうなケーキを目の前にして、見ているだけは辛すぎる。
ずっと目の前にあって愛でていたものが他人のものだったなんて、なんて滑稽なんだと可笑しく思えてきて、ほのかは自嘲するように笑った。
結婚式のあと、ほのかは散々泣いて、どうして告白しなかったんだと自分を責めた。
しばらくして、全てがどうでもよくなった。
大学も休んで、だらだらと過ごす。
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