140 / 398
おっさん、助言される
しおりを挟む「いよぅ、見てたぜ。
残念ながら振られたようだな」
「マウザー……」
近くを通り掛かったボーイを呼び止め無くなったシャンパンのお替りを貰っていると、スキンヘッドのスーツ中年ことマウザーが話し掛けてきた。
最初は場にそぐわない服装なのではと思ったが……
スタイリッシュに上手く着崩しており、俺よりも充分様になっている。
さすがは裏社会所属。
こういった派手な催しに呼ばれる機会も多いのだろう。
「あれって確か、メイアだろう?
へえ~精霊都市勤務になったのか」
「とぼけるなよ、全部把握してる癖に」
「バレたか。
まあお前相手に隠しても仕方ないしな。
お前の昔の女という事で何か悪さ出来ないかと思ったんだが」
「もう終わった話だ」
「はん、クールだね。
噂の英雄様はオンナ関係も含め品行方正か」
「……どういう意味だ?」
「言葉通りの意味さ。
同じ日に冒険者になった二人。
それが片や英雄、片や薄汚れた裏稼業のまとめ役。
いったいどこで差がついたのやら」
「俺は英雄なんかじゃない」
「謙遜するなよ、ガリウス。
お前のそういうところ……昔からオレは嫌いだった」
「マウザー」
「お前はさ、何だかんだいってオレ達とは違うのさ。
英雄になるべくして生まれ――然るべき定めを辿る。
お前が何かオレの為に手を尽くそうとしてしてくれてるのは部下から聞いた。
それは勿論感謝しているさ。
けどな――オレみたいなのに関わるのはもうやめろ。
オレは自身が望んで我が道を行っている。
待ち受けるのが破滅だとしても後悔はしてない」
「だが――」
「お節介も度が過ぎると身を滅ぼすぞ。
S級昇格には力量以外に個人の風評や醜聞も含まれる。
オレとお前の腐れ縁も残念ながら今日までだ。
あとはビジネスライクな関係に訂正させてもらおう。
オレの子飼いの部下に優秀なのがいる。
暗部出身のくせに闇に染まり切らない中途半端で気真面目なヤツだ。
盗賊不在で苦労してるお前らのパーティで面倒をみてやってくれ。
連絡は追ってするから、以後はそいつを通してウチに関われ。
お前が手を汚す必要はもうない」
「でも俺は――」
「じゃあな、英雄殿。
お前は馬鹿で間抜けでお人好しで――最高に気の合う友だった。
これからの活躍を陰ながら祈ってるぜ」
最後まで軽薄そうに手をヒラヒラさせ去っていくマウザー。
憂いを帯びたその背に何も声を掛けれず俺は見送る。
今日はどうやら別れの日らしい。
くそっ、不器用でお節介なのはお前も一緒だろうが。
友との別離を惜しみながら――俺は温くなったグラスを傾ける。
美味いのに酔えない絶妙な度数が本当に今は恨めしい。
「――どうしたのですか?
あまり楽しんでらっしゃるようではないみたいですが」
余程酷い顔色をしてたのだろうか?
近寄るなり顔を覗き込んできたのはし教団のシスター、マリアンヌだ。
特徴的な目の覚める金髪を丁寧に編み込み僧衣を纏っている。
身体の線が出るとフィーナに不評な祭典用の僧衣もよく似合っていた。
彼女は清楚な面立ちの女性なのだが――
綺麗なその顔が、今は心配そうに曇っていた。
俺の身を案じてるのだろう。
咄嗟に顔を装い何でもない風に振る舞う。
「――いや、少し飲み過ぎただけだ。
心配を掛けたな」
「それは嘘ですね」
「嘘――とは?」
「フィーから手紙で伺っておりましたもの。
ガリウス様は他人に弱みを見せない御方。
なかなか本心を晒せない方である、と。
今も無理をしてわたくしに合わせてくれてるのでしょう?」
「それは――」
「まだまだ未熟で不甲斐ない身ではございますが――
少し踏み込んだお話を致しますね。
辛い時は、辛いと言っていいのですよ?
やせ我慢をする必要はないのです。
先程、幸せそうに語るフィーから聞きました。
彼女と婚約をされたのでしょう?
これからお二人は互いに支え合う仲になるのです。
なのに――ガリウス様は御自分が嫌いであると仰られる。
わたくしはそれが残念に思います。
もっと自分を肯定してあげて下さいな。
貴方に英雄という役を望む者も多いでしょうが――
あの娘(フィー)はただ、ガリウス・ノーザンという個人と共にいる事を望む。
どうかその事を忘れないで下さい」
「……ああ。充分理解したよ。
これから家族を持とうとする者がこんな情けない様を見せてては駄目だな。
君に言われたことはフィーにも指摘されてたし、改めようと思う。
ありがとう――マリアンヌ。
さすがは教団のシスターだな。
胸のつっかえが取れたみたいだ」
「ウフフ。
ならば良かったです」
「それにしても本当に的確な助言だな。
説法慣れしているというか何というか……
教団関係者っていうのは皆そうなのか?」
「――え?
それは違うと思いますわ。
だってわたくし、見てましたもの」
「――はっ?」
「一人な佇むガリウス様に忍び寄る不埒な影。
すわ浮気かと耳を澄ませてましたの。
やっぱりフィーの親友としては心配ですし。
幸い昔の彼女程度の関係性で、続きが無さそうだから安心しましたけど……
そうしたら殿方も絡み始めるじゃありませんか!
しかも明らかに素直になれない系のツンデレ配分!
こりゃ~もう堪りませんわ!」
「あの~マリアンヌさん?」
「僭越ながらお聞きしますね。
どっちが攻めでどっちが受けなんですの!?」
「せ、攻め? 受け?」
「――攻撃の反対は何でしょうか、ガリウス様?」
「防御」
「ちっ……一般人ですのね。
フィーの相方ですから腐ってるかと思いましたのに。
まあいいですわ。わたくしの察するところ――ガリウス様が誘い受けで、あの方がオレ様攻めだと思うんですが……真相はどうなんでしょう?」
「い、言ってる意味がよく分からんのだが……」
「――ああ、ホント妄想が捗りますわ!
フィーにこの道を教えた(引きずり込んだ)のも、実はわたくしなんです!
早く彼女に知らせなくては!」
止める間もなく加速度的にヒートアップしていく口調。
上気した顔で独白しまくり――晴れ晴れとした顔で颯爽と去っていくマリアンヌ。
お前が諸悪の根源か。
何が何だかよく分からんまま……俺は彫像の様に立ち尽くすのだった。
0
あなたにおすすめの小説
妖精の森の、日常のおはなし。
華衣
ファンタジー
気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?
でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。
あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!?
「僕、妖精になってるー!?」
これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。
・毎日18時投稿、たまに休みます。
・お気に入り&♡ありがとうございます!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる