勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、噂をされる

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「くっくっく……
 随分な色男ぶりだな、ガリウス」
「ミスカリファ……」

 台風一過の後の案山子のように呆然としている俺に、意地の悪い笑みを浮かべ話し掛けてきたのは銀髪のダークエルフにしてボルテッカ商店の主ミスカリファだ。
 美貌を際立たせる華やかな民族衣装を身に纏って、スタイルの良さをこれでもかと周囲に見せつけている。あれはパーティに参加してる御婦人方が注ぐ羨望の眼差しを愉しんでるな、間違いなく。
 機嫌の好さそうな時の感じは師匠そっくりだ。
 優雅だけど獰猛な女豹――肉食獣系女子。
 上機嫌に俺の下へ来た彼女の隣にはどこかで見た事ある幼女を引き連れていた。
 ――はて? 何処で会ったのだろう。
 喉に小骨がつっかえた様な不快感。
 思い出せず煩悶してるとミスカリファが面白そうに口を開く。

「間近で見ても飽きないな、お前は。
 先程から遠くで様子を窺ってたが――大した百面相ぶりだ。
 まるで王都劇場の喜劇俳優のようだ。
 傍から見てる分には良い観劇だったぞ」
「――最初から見てたのか?
 ならば黙ってないで助け舟を出してくれても」
「嫌だね。
 極上のネタがそこにあるんだ。
 一番の特等席で楽しみたいのは当然だろう?」
「貴女という人は――」

 キシシ、と含み嗤うミスカリファ。
 さすが師匠の伯母だけあって顔は整ってるのに良い性格をしている。
 血筋の為せる業なんだろうな、きっと。これも因果か。
 っと声には出さずそんな事を考えていたら――
 ドスっ!
 パーティ参加者に視えない絶妙な角度で繰り出された肘が鳩尾に叩き込まれる。
 不意打ちなのでモロに入った。
 思わず脂汗を掻きながら悶絶してしまう。

「な、何を……?」
「今――不当に貶められた気がした」
「し、証拠なき推定の有罪は……冤罪の温床」
「残念ながら私が正義、私が裁判官だ」
「い、嫌過ぎる司法だ……」
 
 世の中に争いが尽きぬ訳だ。
 前傾姿勢になりながら堪えていると、ミスカリファの隣にいた幼女が頭を撫でてくる。痛がる俺の様子を見兼ねたのかな。優しい娘だ。
 豪奢な金髪に飾られたあどけない美貌――きっと将来は美人さんになるだろう。
 しかし俺は彼女の金髪に埋もれた耳がかなり長い事に気付いた。
 すると彼女は手を止め、俺の顔を見ながら口を開く。

「ガリウス――といったか。
 その節は世話になったな」
「その節?」
「やはり覚えておらぬか。
 汝とは一度、育て親の馬車で同行させてもらった。
 私を狙う者は多い。
 外敵除けの為に力を使い果たし――昏倒してしまっていた私の命を狙った死神、ペイルライダーを退けたのは汝だ。育て親共々感謝する」
「ああ!
 あの時の爺さんと一緒にずっと寝ていた幼女が君か。
 どっかで会ったとは思ったんだが――なるほどな。
 するともしかして――」
「そうだ。
 私が探していたハイエルフの姫君こそ、こちらの御方になる。
 畏れ多いぞ、しっかり敬え」
「いいのだ、ミスカリファ」
「しかしセレニティ様――」
「この者には命を救われた――ならば対等の仲でいたい。
 セレニティ・ウル・ミレニアムだ。
 一応ハイエルフの王族である。
 ミスカリファは煩く言うが――現在は贖罪中の身だ。
 気を遣わなくていい」
「そうか。
 見た目通りの歳じゃないんだな?」
「うむ」
「じゃあ、君が望むならならそうさせてもらう」
「ああ、その方が好ましい」
「だが――王族であることをこんな所でバラシていいのか?
 さっきも言っていたが、君を狙う者は多いのだろう?」
「それについては心配いらない。
 ミスカリファが良い魔導具を用意してくれた」

 セレニティはそう言うと髪を掻き上げる。
 エルフ特有の長い耳の付け根には、素人目に見ても業物と思しき細工の施された宝珠を誂えたイヤリングが煌めいていた。

「この魔導具の力で私が望む者以外にはただの人間にしか視えぬ。
 また会話についても周囲の認識も歪めて伝達させる」
「なるほど――ボルテッカ商店にも使われていた技術の応用だな」
「ほほう、一発で気付くか。
 さすが姪の弟子、鋭いな。
 お前の指摘通りだ。
 なのでお前とセレニティ様がこうして会話をしてても大きな問題はない」
「そっか。ならば良かった」
「あえて問題を上げるなら――
 周囲の者にはお前が幼女を熱心に口説いてるように視えるし聞こえるだけだ」
「問題大ありだろうが!
 こんな注目の集まる場でそんな事をしたら――」

 恐る恐る周囲を窺う俺。
 遠巻きに囲む人々の間からは「幼女趣味?」「まあ」「何と破廉恥な」とか噂をし合う声を、無駄に性能のいい耳が勝手に集音してくる。
 い、いかん!
 年頃の男としてその醜聞だけは絶対に認める訳にはいかない。

「積もる話もあるだろうが――俺も挨拶回りに行きたいのでね。
 この場はこれにて失礼!」

 なので無礼にならぬ程度に会話を切り上げ――慌てて退散する。
 不満そうなセレニティと歪んだ笑みを浮かべるミスカリファを後にしながら。
 確信犯だな、あいつは……おのれっ。
 俺は急下落を遂げようとする株価を元に戻す為、必死に奔走するのだった。
 


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