143 / 398
おっさん、指名される
しおりを挟む「――ほう。
その様子だと初耳のようだな」
驚きの声を上げた俺に対し、面白がるような声で誰何するノービス伯爵。
俺も長い事冒険者稼業をしてきたが海底ダンジョンというものは初めて聞いた。
霊峰イッツアルムナーの麓に眠る火山ダンジョン。
大樹ユグドラシルの周囲に広がる森林ダンジョン。
そしてこの精霊都市地下に広がる迷宮ダンジョン。
各地方に各ダンジョンがあり、冒険のタネは尽きる事がない。
ダンジョンにはトラップやモンスターなどの危険も待ち受けているが――
反面、隠された財貨や討伐後のドロップアイテムなどで周囲に恵みを齎す存在でもある。
何よりダンジョンが内包するモンスターが溢れ出す、【スタンピード】と呼ばれる未曾有の災害を防ぐ為にも、冒険者を定期的に突入させ間引か無くてはならない。
ちなみに迷宮主が守るコアを砕かれたダンジョンにスタンピードは起きない。
敵はリポップするも、以後は資源獲得の場、祝福迷宮と呼ばれ栄える様になる。
S級と呼ばれる存在はそれだけの偉業を為し得てきたのだ。
イタチごっこみたいに増え続けるダンジョンに対する――人々の希望として。
「ええ、まったく。
僭越ながらどのような所か伺っても?」
「よかろう。
海底ダンジョン【静寂の祠】は別名に龍の宮とも呼ばれておってな。
世界を支える龍【ナーザドラゴン】の一柱が眠る場所。
この地方における水のマナを司る神所でもある」
「そのような場所――
冒険者風情が踏み込むのは畏れが多いのでは?」
「話は最後まで聞くが良い。
確かにここは聖域であり禁足地だ。
ダンジョンとはいえ龍に守られたここはスタンピードも起きない。
何より海底に設けられたダンジョンへ向かう手段すらない。
わざわざ人が赴く必要はないのだ、本来であればな。
ただ――事情が変わった」
「事情?」
「うむ。
何者かがこの海底ダンジョンにちょっかいを出し始めたらしい。
おそらくはこの精霊都市同様――暗躍する魔神共か。
沖合に建てられた神殿におるレイナ殿と同じ姫巫女に龍の神託が下ったのだ。
選ばられし者を事態解決の為に派遣せよ、と。
特例として余と姫巫女が認めた者達なら探索しても良いらしい」
「その龍自身が魔神共を追い払えないのですか?」
「姫巫女も同様に尋ねたが難しいらしい。
偉大な力を持つ【ナーザドラゴン】だが力の制御はそれ故に慎重になる。
例えばガリウス、お前の家に猛毒を持つ蚤が侵入してきたとして家ごと焼き尽くすか? まずは何とか退治できないかと思案せぬか?」
「ああ、なるほど」
「そういう事だ。
なまじ強大な力を持つが故に世界を支えし龍とて手出しが出せぬ。
だからこそ我々に神託を寄こしたのだ。
現在探索に赴いているのは余の信頼するA級、S級合わせて二組のパーティ。
お前が望むなら新たな探索者として推挙しようではないか。
無論、依頼料金は弾むし滞在中は余の別荘を使って構わん」
「有難い申し出です。
ですが、まずは仲間に相談をしてみないと――」
「受けなよ、おっさん」
「ん。これは好機」
「絶好の機会を逃してはなりませんわ」
「お前達……」
背後から掛けられた声に振り返ると、そこには綺麗に着飾った三人がいた。
魔剣の勇者、シア。
学院の賢者、リア。
教団の聖女、フィー。
美しくも聡明で強き俺の仲間達。
「ボク達の事なら――大丈夫だから。
一緒に伯爵の依頼を受けようよ!」
「今回は後れを取った。
しかし次はこうならない」
「二人の言う通りです。だからわたくし達の事は案じる事無く――
ガリウス様の心の赴くまま、お返事をしていただけませんか?」
いつから話を聞いていたのだろう。
ただ俺の信頼――いや、愛する三人がそっと後押しをしてくれる。
ここで応じねば男が廃るな。
「畏まりました。
海底ダンジョン探索の依頼、受けたいと思います」
「うむ。
期待しておるぞ」
俺の返答に伯爵が了承をし、聞き耳を立てていた人々による会場がワッと湧く。
周囲から次なる功績を求め讃える声援に応えながら俺は苦笑する。
無責任に活躍を望む人々。
それは時として俺達を支える力でありながら時に破滅を導く力でもある。
歴史上それを味方にした者が英雄と呼ばれ、見誤った者が梟雄と呼ばれる。
ならば奢ることなく慎重に己が道を見定めなくてはならないだろう。
「やはりこうなったか」
「レイナ」
煩悶する俺の苦労を知ってか知らずか。
そっと近づいたレイナが面白がるように話し掛けてくる。
「お主が望む望まないを意図せずとも、遂に運命は動き出した。
因果な事だが、それこそお主の定めよ。
努々忘れぬことだ」
「有難いんだか有難くないんだか」
「姫巫女の言葉などは本来そういうものよ。
どちらにでも取れる様に曖昧にしておくのがコツじゃ。
まあ妾風に言うなら、ちょーガンバって♪ だな」
「有難うよ、レイナ。
暗い気持ちが吹っ飛んだわ」
舌を出しおどけるレイナの笑顔に暗澹たる気持ちが晴れていく。
何を迷ってるんだか。
誰かの気持ちや打算を背負って戦えるほど俺は強くない。
ならばその都度その都度を必死に潜り抜けるだけだ。
大切な仲間達と共に。
「アタシからも一ついいかしら?」
「ヴィヴィ」
「何だか焚きつけた様で申し訳ないわ」
「そんな事ない。
魔神撃滅は俺の悲願、遅かれ早かれこうなっていたよ」
「ならばいいけど……無茶はしないでね。
ガリウスちゃんには大切な人達がいるんだから」
「勿論だ」
「ならいいわ。
それとね、ガリウスちゃん。
さっき盗賊ギルドの支部長からも話があったと思うけど――」
「え?」
「アタシの可愛い後輩ちゃんをよろしくね☆」
爽やかに告げてウインクを飛ばすヴィヴィ。
その射線上から素早く身を躱しながら俺はその意味を考える。
おそらくマウザーが手配すると言っていたギルド員、盗賊系クラスの事か。
あいつとヴィヴィが保証する以上、きっと腕前は確かなのだろう。
だがまずは性格どころか性別を気にしなくてはならないな。
三人とルゥにもどう説明したものか。
前途多難が待ち受ける未来に……俺はそっと溜息を漏らすのだった。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……
実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた(第三部 完)
0
あなたにおすすめの小説
妖精の森の、日常のおはなし。
華衣
ファンタジー
気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?
でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。
あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!?
「僕、妖精になってるー!?」
これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。
・毎日18時投稿、たまに休みます。
・お気に入り&♡ありがとうございます!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる