勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、杯を傾ける

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「……ごめんなさい、そろそろ覚醒限界かも」
「ああ、長い間付き合わせて悪かったな」
「ううん……それは私も一緒。だからいいの。
 あなたの傍にいると、とても温かいし――共に過ごせる時間が好き。
 凄く大切だな~大事にしたいなって思うから。
 けど――龍の本能が囁くから、そろそろ休まないと駄目なの。
 名残惜しいけど……おやすみなさい、ガリウス」
「分かった。おやすみ、ミコン」

 塞がる瞼に抵抗していたミコンのヴィジョンが胸元から消える。
 俺は消える直前の……眠るのを嫌がる幼子みたいに残念そうな顔をするミコンに苦笑するとコートの前を合わせ人通りが少なくなった街路を足早に宿舎に向かう。

「何だか冷えてしまったな……
 寝る前に少し飲んで、身体を温め直すとするか」

 ミコンと共に小一時間ばかり空を見ていたせいか、湯上りで上気していた身体はすっかり冷え切ってしまった。
 龍神の使徒としての恩寵故、こんなことで風邪をひくような柔い身体ではないものの……何だか今日はこのまま眠るような気持ちになれなかった。
 今日一日、自分が何の為に戦っているかを再確認できた昂ぶりもあるし、単純に明日からの事を不安に感じる思いもある。
 必要な事とはいえ、俺の発案による聖域都市偵察……
 もし、上手くいかなかったら?
 何かトラブルがあったとしたら?
 物語という形で曖昧な未来を先読みできる【神龍眼】とて、万能ではない。
 常にイレギュラーな事態は想定しなくてはならない。
 まったく……心までマッチョというかタフガイになれないのが俺の悪い所だな。
 こんな時、師匠なら不敵に素敵な笑顔で運命を嘲笑い罵倒するだろうに。
 ありとあらゆる事態を想定し対応策を考えそれでも最悪を迎えた場合に備える。
 俺の異様な用心深さの根底にあるのは悲観主義(ペシミズム)なのだろうか。
 己の力量不足故に最愛の人を喪ったあまりに苦い経験は、俺を臆病にさせた。
 洞察力に優れながらも常に楽観的な師匠とは大違いである。
 こんな調子じゃ、またいつか大切な誰かを喪ってしまうと自覚しているのに。
 ふむ……せっかくいい感じで一日が終わろうとしているのに、最後の最後で随分としみったれたテンションになってしまったな。
 こういう時は美味い酒を飲むにかぎる。
 あいつらとのデート中は飲酒禁止だったから丁度いい。
 鍛え抜かれた抗毒スキルのお陰で酩酊する事はない(酒も立派な毒だ)が、酒を飲むという行為自体に俺は喜びを感じるし、味も良ければひとしおだ。
 明日に備え先に眠りについたミコン(龍はとかく眠る。一日の大半を寝て過ごすらしい)の存在を胸中に感じつつ宿舎に着いた俺は積もった雪を払い落とし、行き慣れた酒場へと向かう。

「すまない、いつものを頼む」
「はい。かしこまりました」

 そして顔馴染みとなった老年のバーテンに声を掛け、ストールに腰を落とす。
 コトン。トクトクトク――
 カウンターにグラスが置かれる小気味良い音の後に酒場に響くのは、バーテンの手によって酒瓶から注がれていく命の雫が奏でるメロディー。

「お待たせしました。どうぞ」

 目の前に差し出されたのは10年物スコッチのスリーフィンガーだ。
 数あるウイスキーの中でも、非常に細かい定義と条件をクリアしてきたその味に間違いはなくストレートで飲んでも全然トゲがないのが特色である。
 別に水割りやロック、ハイボールが邪道などというつもりはない。
 酒の楽しみ方は人それぞれだからだ。
 だが……本物が持つ味わいは混じり気なしのストレートが一番鮮烈だと思う。
 俺はグラスを傾けると琥珀色したそれを口内に招き入れる。
 喉元を焼く酒精と、鼻から抜けていく芳醇な香りの協奏曲。
 舌に残る独特な薫香も酒を飾り立てるアクセントといえよう。
 一気に呷るような真似はせず、転がす様に少しずつ飲み干していく。
 ああ、美味い。
 酒を飲むこの瞬間――世界は単純なものへと変わっていく。
 シンプルなその答えが、俺の様に考え過ぎるタイプにはたまらない。
 まあ色々と難しく考え過ぎなんだろうな、俺は。
 自分に出来る事をただ愚直に為すのみ、と語ったばかりなのに。
 結局、俺は俺だ。
 ただ自らの信念のまま進むだけだ。
 気分を良くした俺は、同じものをバーテンに頼もうとして――

「ガリウス……どうしてここに?」

 驚きに満ちたミズキの、鈴の様に心地良い澄んだ声に遮られた。





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