勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、因果を遡行

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「本当にお前らときたら……俺の事をいったい何だと思ってるんだ?」

 城内に設けられた転移室へ向かう道中、俺は苦虫を嚙み潰したような顔で呟く。
 早朝の王城内は警備兵以外の人影もなく声が良く響く。
 どちらかというと愚痴に近い感じだったのだが、途中で要人警護に向かい別れたショーちゃんを除き、俺の後を追従してるシア達が申し訳なさそうに項垂れる。
 そして各々が顔を見合わせ逡巡した後、再度俺への謝意を示してくる。
 
「え~と、ホントごめんなさい!」
「きゃうん……」
「ん。弁明はしない。ただただ謝罪」
「大変興味深い――
 もとい無礼でござったのは自覚しておりまする」
「ええ、まことに眼福――
 ならぬ不作法でしたわ。改めて非礼をお詫びします」

 一部反省してない輩もいる気がしないでもないのだが……俺も男だ。
 細かい事を気にしていては男が廃るというものだろう。

「まあ、誤解を招きかねない行動だったのは確かに認める。
 だが――頼むから、騒ぐその前に話を聞いてくれ。
 最低限それぐらいの信頼関係はあるだろう?」
「う~それは勿論そうなんだけど――
 デートの時にも言ったけど……なんだか最近さ、おっさんのことに関しては冷静じゃいられなくって」
「シアと同じく。
 論理的な思考よりも先に感情的になってしまい、どうにも適正な判断が下せなくなっている……実に不思議」
「それは一般的にバッドステータス【恋】状態でござるな」
「もう、カエデさん。恋している事をバッドステータスと言わないで下さいな。
 でもまあ確かに――普段の自分を取り繕うほど格好をつけている内は本当の恋愛ではないのかもしれませんわね」
「シアには心奪われる、という意味の話はしたけどな。
 それだけ俺を慕ってくれるのは嬉しいし……男冥利に尽きるってものだ。
 けど根本的に信頼をし合えない関係では長続きしないだろ?
 恋愛っていうのは結ばれる前より、相思相愛になってからの方が長い。
 よく恋は下心、愛は真心なんて風に言われるけどな――本質的にはどれだけ他者という存在を容認し自身に受け入れる事が出来るかが大事なんだと思う。
 その為に必要なのはまず対話だ。
 恋人だから、愛する人だから言わなくても通じるというのはただの幻想だ。
 何よりも大事な存在だからこそ、言葉を尽くし全身全霊で語り合わないとな」
「それっておっさんの恋愛観?」
「ん。それとも失敗談?」
「下世話でござるが気に懸かる内容でござるな」
「その両方、だな。
 カエデやルゥはともかく……お前達とはこれから先の人生を共にする仲だ。
 これからも変な誤解で良好な関係を拗らせたくない。
 大体、俺がモテなくてその分誠実なのは皆もよく知ってるだろう?(ドヤ)」
「相変わらず自覚ないし……(ハァ)」
「きゃう~ん(はふ)」
「ん。こういうところがタチが悪いと指摘」
「やはり乙女の敵でござるか」
「無自覚系鈍感主人公もここまでくると懲罰ものですわね……うふふ」
「ガリウスの馬鹿……(ぼそっ)」

 ミコンまで現界してツッコミを入れる程なのか!?
 あ、あれおかしいぞ。
 途中まで上手く纏まってきたと思っていたんだが……何か間違えたのか、俺?
 信頼に満ちた眼差しから一転――何やら不穏な気配を漂わせる一同に対し、内心冷汗を掻きつつ俺は辿り着いた転移室に入る。
 中では既に膨大な長距離用転移術式を演算展開、座標軸を室内へ循環させている宮廷魔術師団【シルバーバレット】の次席アマルガム翁がいた。
 今回の転移は距離はともかく、場所が非常にタイトでデリケートな箇所になる。
 いつも以上に慎重になるのは当然だろう。
 
「おはようございます、アマルガム翁」
「おお、これはこれはガリウス殿。
 今日はよろしくお願い致します」
「俺達の為に早朝から御足労頂き、本当に申し訳ない」
「何の何の。
 老骨故、最前線は務まりませんが魔術の腕前はまだまだ若い者に劣りません。
 国家の一大事とあらば鞭を打ってでも励みますぞ」

 自由に動ける実力者ということで何かと酷使されがちなアマルガム翁。
 しかしそこに我欲はなく国家に忠誠を捧げる純粋な志のみ。
 元来の宮廷魔術師とはこういうものなのだろう。
 他所の都市国家みたいに権謀術数に明け暮れているようでは務まらない。
 心底見習いたいところである。
 尊敬故、言葉遣いが丁寧になるのは自然の事だろう。
 そんな俺の気持ちとは裏腹にアマルガム翁は顔を曇らせる。

「しかし――懸念事項もございまして」
「? 何でしょうか?」
「これほどの精密転移となると隠密裏に行うのは一人が限度。
 連続転移を行うと、どうしても周囲の魔力場を乱してしまいます」
「それは……」
「それに【転移】に対するスキル覚醒を実用レベルで扱えるのはガリウス殿のみでございましょう? やはりそうなりますと転移後に存在が露見する確率が上昇してしまうかと思われますな」
「確かに」

 転移術全般にいえることだが――魔術系だろうが法術系だろうが、周囲の空間に関する影響は大きく機密性は無きに等しい。
 喩えるなら、静まり返った真夜中の水面にダイビングするような感じだ。
 騒音ではないが宙に満ちる魔力場を激しく乱すしどうにも目立つ。
 ヴィヴィから教わったスキル覚醒は万能で、転移術そのものに関して【隠密】を扱う事も出来るが、それは俺一人の場合だ。
 カエデも同等以上の【隠密】の遣い手であるが、術式に付与できるスキル覚醒を習得していない。
 さて――この危機をどう乗り越えるべきか?
 ただこの場合、アレが有効だな。
 俺は以前から考案していた事をアマルガム翁に提案しようとしたその時――

「それ故、私が呼ばれたんですよ――ガリウスさん」
「ノスティマ!
 どうして、お前がここに……!?」

 いつからそこにいたのだろう?
 神出鬼没としか言い様がなく突如現れたノスティマに対し驚きの声しか出ない。
 俺だけでなくカエデの気配感知を容易に擦り抜けるこいつは凄まじい手練れだ。

「どうして――とは少し辛辣な言葉ですね。
 無論、貴方と行動を共にする為ですよ。
 聖域都市の潜入にはおそらく私と貴方、二人の力が必要なので」

 大陸最古にして最高峰の魔術師養成機関サーフォレム魔導学院の【魔人】こと、ノスティマ・レインフィールドは……そう静かに告げるや男でもゾクリとするほど妖しく蠱惑的な微笑を浮かべながら俺達を迎えたのだった。






 それから何やかんや一騒動あって転移して来たのが先程の話である。
 俺同様の術式隠密性を魔術で再現できる為、同時に転移してこれたのは大きい。
 何だか腹に一物を抱えており、決して油断のならない人物ではあるが……俺の【神龍眼】を以てしても解析できないハイレベルの複合型神造術式を無効化する為、今は共に手を結ぶ必要がある。
 ノスティマの【神魔眼】が虹色の輝きを上げて結界に干渉していくのに合わせて俺も【神龍眼】を発動、【嘲笑(マルク)う因果(パーシュ)】を併用していく。
 砂嵐が乱れ都市の全容が見え隠れし始めていく……が、疲労が凄まじい。
 とてもではないが長時間は持たない。
 
「ガリウスさん――」
「どうした!?」
「思った以上に厄介ですね、これ」
「ああ――だな!
 脳に掛かる負荷が半端じゃないぞ!」
「大丈夫。もう少しで突破出来そうです。
 ですが――このレベルですと、おそらく復元力が働くかと」
「復元力!?」
「ええ。時空を歪める程の結界に対する干渉と反発。
 もしかすると因果の流れを遡るかも――」
「何を言って――」
「それでも見つけて下さい。
 貴方は貴方だけの答えを――可能なら、私との絆を」
「ノスティマ――それはどういう」

 意味だ、と尋ねるより速く――
 爆発的な燐光が周囲を染め上げ、全てを覆い尽くしていくのだった。
















「……っさん、おっさんってば!」
「んっ……」
「大丈夫? 急に虚空を見つめて動かなくなったから心配で……」

 強く呼び掛けられ、我に還った俺は目の前に焦点を合わせる。
 そこには心配そうに俺を見つめる、【先日仲間になった】ばかりのアレクシアの姿があった。依頼をどうするかというパーティのミーティング中だったのだが……どうにも呆けていたらしい。
 こんな成人前の少女を不安にさせてしまうとは、俺もまだまだだな。
 周囲を見渡し【合流して日の浅い】フィーナや、【魔導学院を卒業した】ばかりのミザリアに対しても申し訳なくなってしまう。
 暫定的とはいえ最年長のリーダー格がこれでは困るな。
 何故か心中を焼くような激しい焦りを無視し、俺は努めて穏やかに微笑む。
 信頼と不安に満ちた眼差しを注ぐ瞳に安心を与える様に。

「すまなかったな、お前ら。
 緊張のせいか少し呆けてたらしい。
 さて、パーティ名もない俺達の記念すべき初依頼についてだが――」

 ……こうして物語は少し遡る。
 現在へ繋ぐ過去――その成り行きとなる因果を回想、流転しながら。





        新米の面倒を見る事になったおっさん冒険者34歳……
          実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていく、へ続く。




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