勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

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悲しくなるみたいです

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「おはようございます、兄様」
「おはようございます、シャスティア様」

 元気よく返事をした私の頭を撫で、兄様が席に着こうとします。
 すかさず椅子を引くファル姉様。
 そんな姉様を咎める様な視線でシャス兄様は見やります。

「前にも言いましたが、ファルさん。
 そのくらいの事は自分でやるから大丈夫ですよ」
「しかし……」
「メイドとしての心掛けでしょう?
 理解はしますが、僕はこういった事は好みません。
 ならばその意を汲み取るのもメイドとしての務めなのでは?」
「……左様ですね。
 畏まりました」

 無視する訳ではありませんが、ファル姉様の方をまったく見ずに椅子に腰掛ける兄様。
 ファル姉様も視線を下げながら一歩身を引き控えます。
 二人の間に奔るこの緊張感。
 私は思わず身を縮め様子を窺います。
 派手な舌鋒はありませんが……
 シャス兄様とファル姉様。
 美麗な二人の間には、拒絶にも似た薄い障壁が張り巡らされてる。
 そんな印象すら見受けられました。
 姉様が我が家に来てから一ヶ月。
 初日から姉様に感服し弟子入りした私とは違い、
 シャス兄様は姉様の事をどこか納得いきかねる部分がある様です。
 それは多分家事を取り仕切る行為故に、でしょう。
 兄様にしてみればファル姉様の存在とは、
 共に過ごしていた母様の時間を脅かす存在に思えるでしょうから。
 姉様にしてみても、父様から事情は聞いてるから強く出れない。
 以前の母様みたいに地道に受け入れてもらうのを待つ。
 消極的ですがそんな方法しか取れないみたいです。
 今のやり取りからも窺える少し棘々しい関係に私は悲しくなります。
 大好きな兄様と敬愛する姉様。
 我儘ですが二人には仲良くして欲しいのです。
 でも急に和解するのは難しいということも分かってはいます。
 何故なら双方共に言い分があり、互いが正しいからです。
 過去から続く現在を変えたくない兄様と、
 変革を以て現在を変え未来にもたらしていく姉様。
 今となって母様を疎外してた村の人達の気持ちが少しだけ……
 そう、少しだけ分かります。
 日常が変化する。
 その事は怖いのです。
 私の場合はファル姉様が甘受してくれました。
 自分の居場所を作ってくれ、私も居心地よくそこに定着出来ました。
 だけどそれが出来ない人達はどうすればいいのでしょう?
 母様は確かに腕利きの治療術師です。
 多くの人を癒し、感謝されてました。
 けどその裏では、贔屓にされてた顧客を失った人だっているかもしれません。
 綺麗な母様に想い人の気持ちを獲られ嫉妬する人だっていたかもしれません。
 無数のifもしも。
 勿論運命を恨むのは筋違いです。
 運命を呪うよりも環境を変えていく、個々の努力こそが大切なのですから。
 でも……該当者になった時に思わずにいられるでしょうか?
 あいつさえいなければ、と。

 私は弱い人間です。
 自分の程を体良く弁えてます。
 だからこそ、そういった人の弱さを否定できません。
 故に兄妹としてシャス兄様の複雑な想いも理解出来ます。
 兄様も日々思わずにはいられないのでしょう。
 母様がそこにいてくれたら、と。
 決してファル姉様の事を蔑ろにしてる訳ではありません。
 私の尊敬するシャス兄様はそんな人ではないと実感してます。
 されど完全に受け入れられる程兄様も大人ではないのです。
 まだまだ時間が必要なのでしょう。
 いくら強いファル姉様でもそれは一緒です。
 踏む込むには勇気やタイミングが必要なのです。
 故に膠着状態の千日手。
 目線すら合わせない……合わせられない二人を前に、
 私は哀しい気持ちを抱えながら、そっと溜息をつくのでした。



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