勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

文字の大きさ
52 / 89

和解と行き遅れみたいです

しおりを挟む

 緊迫した雰囲気。
 どこかピリピリした意図の糸が飛び交う食堂。
 恐ろしいくらいの重圧です。
 戦闘とはまた違うこのプレッシャー。
 こんなものが続くなら、私は神経性の胃炎になること間違いなしでしょう。
 だけどそんな中、

「いや~寝坊してしまったよ。
 わたしも歳かな?
 お、今日も美味しそうな朝食だね~。
 おはよう、みんな」

 起き出しくるなり間延びした声を掛けてくる父様。
 空気を読めないというか、無視するというか……
 ある意味、凄い才能です。ええ。
 そんな父様の態度に毒気を抜かれたのか、
 二人とも呆気に取られた顔をしてます。
 そして大人げない自分たちに気付いたのでしょう。
 どちらともなくお互いを見やり、苦笑すると父様に挨拶を返すのでした。

「おはよう、父さん」
「おはようございます、カル様」
「うん。おはよ。
 あ、ユナ。
 さっそくで悪いけど、香茶を貰えるかい?
 ユナの煎れた香茶は絶品だからね」
「あ。は~い」

 急ぎワゴンにティーセットを乗せ父様に向かいます。
 テーブル脇の椅子に「よこらしょ」と座った父様と目が合いました。
 瞬間、私にウインクする父様。
 あっ……
 どうやら私は勘違いをしていた様です。
 私の父様カルティア・ノルンは空気の読めない人ではなく、
 人の心を慮(おもんぱか)れる優しい人なのでした。


 ……多分。
 一抹の疑念を拭いされないまま、私はカップに香茶を注ぎます。
 出来るだけ高く。
 出来るだけ遠く。
 十分な空気を孕んだ香茶は芳醇な香りだけでなく滑らかな舌触りすら与えます。

「ん~美味い。
 見目麗しいだけでなく家事も万能。
 ユナはいつでもお嫁さんにいけるな」
「そんな……」
「まあユナにそんな相手が出来たら……
 絶対○(ピー)す、がな」

 親馬鹿全開で呟く父様。
 と、父様父様。
 元とはいえS級冒険者の殺気がダダ漏れです。
 っていうか、どれほど娘ラブなのです?
 うっすら闘気すら帯びてません?
 私の事を案じてくれるのは嬉しいですけど……
 このままだと行き遅れ確定です(はあ)。
 私は私自身の幸せの為にも母様を取り戻す事を固く誓います。
 ……っていうか、母様が何か言って変わってくれるのでしょうか?
 少なくとも父様を実力で納得させる人を探すだけでも一苦労なのですけど。
 異様な殺気と闘気を放つ父様を尻目に、私はシャス兄様の前へ赴きます。
 エプロンを摘まんで一礼すると、兄様の杯にも注いでいきます。

「ん……ありがとう、ユナ。
 いい香りだね」
「今日はレミナ草とアリセプ草のブレンドになります。
 少しですけど、精神安定と疲労回復効果があるんですよ」
「ユナが言うなら、きっと気休め以上だね」

 無言で杯を傾ける父様が徐々に鎮火していくのを見ながら、兄様が笑います。

「さあ、ユナも席に着いて。
 せっかくファルさんとユナが腕を揮ってくれたんだ。
 料理が冷めない内にいただこうよ」
「あっ……
 は、はい!」

 明るくファル姉様を見やるシャス兄様。
 少し目を見開いた後、嬉しそうに微笑み頷くファル姉様。
 完全に和解するにはまだまだ時間が必要です。
 ですが人は変わるもの。
 少しずつですが歩み寄る事は可能なのです。
 いつもよりちょっとだけほんわかした朝の食堂で、
 私達は共に食卓を囲み声を上げるのでした。




「「「いただきます」」」

「はい、召し上がれ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ
ファンタジー
過労で倒れた社畜女子シオンの転生先は、まさかの魔王城。 無邪気に暴虐無人な上司(魔王)のもとで便利屋事務員としてドタバタな日々を過ごすうちに、寡黙な悪魔レヴィアスの思わぬ優しさに惹かれはじめていた。 ある日、突然変異したモンスターの暴走によって魔王城での生活は一変。 ーーそれは変異か、陰謀か。 事態を解明するために、シオンたちは世界各地で奔走する。 直面したことのない危険や恐怖に立ち向かうシオンは、それを支えるレヴィアスの無自覚で一途な愛情に翻弄されて……? 働くことでしか自分を認められないシオンが、魔王城で働く魔物たちの心をほぐしながら自分の価値を見つけていくファンタジーお仕事じれ恋ストーリー。

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...