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人外と試行錯誤みたいです
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ファル姉様特製のピザで舌鼓を打った後は(私のオムレツも好評でした)、
ノルン家恒例の朝の鍛錬の時間です。
最近は基礎訓練を終え、実戦を想定した本格的なものへと移行してます。
それ故にこのメイド服では不向き……というか場違いです。
洗い物を姉様と共に手早く済ませた私は、自室に戻り運動着に着替えます。
家の掃除と洗濯を始めてる姉様に一言詫びを入れつつ訓練場に向かいます。
そこでは既にシャス兄様が父様と稽古を始めてました。
幾度か試合をしたのか、兄様の顔は埃にまみれ汗だらけです。
せっかく汗を流してきたでしょうに……
そんな事を頭の片隅で考える私でしたが、
実際には目の前の二人に釘づけです。
今日はどうやら接近戦を想定してる様でした。
兄様の手に弓は無く、代わりに小振りな木の短刀が握られてます。
遠距離戦闘を主体とする弓使いにとって、
固有の射程圏を侵される事は死を意味します。
そうならない為に通常は充分な安全マージンを取ったり、
冒険者組合で仲間を募るのでしょう。
でも兄様は独りでも戦い抜く力を望みました。
そこで父様が提案したのが、弓を握ったまま片手でも素早く抜き放ち振り回す事が可能な短刀術です。
これなら利き手を邪魔することなく、且つ迅速に窮地に対応出来るからです。
確かに兄様は卓越した技量を持ち安定した力量を誇ります。
けどそれはいわば応用の無さ。
手札の数が少ないという事は持ち味を殺されやすいのです。
自らの至らなさを真剣に推し量り決断した兄様には心底感服してしまいます。
多くのスキルと能力に支えられてる私とは全然違います。
シャス兄様や父様。
更にはサーフォレム魔導学院に入学したミスティ兄様も。
皆、絶対の一を持ってます。
一方、私は汎用性に優れてはいますが……
どれだけ磨いても所詮一流止まり。
特定の条件がない限り、超一流には至れません。
ここで凹んでもしょうがない事でしょう。
ですがこれは今後の私のとって大きな課題となる筈です。
……話が逸れましたね。
思考に沈む私を余所に、いつの間にか二人は徐々に間合いを詰めていきます。
居合と呼ばれる抜刀術風に父様を狙うのか。
短刀を後ろ手に構えジリジリと足を進める兄様。
一歩ごとに汗をかき緊張してるのが窺えます。
反対に父様は余裕綽々。
涼しげな面差しで木刀を正眼に構えてます。
技量的にも精神的にも掛け離れてる二人。
ならば兄様に出来るのは全力を尽くす事です。
「行きます、父さん」
「ああ。来なさい」
覚悟を決めたのか、宣言と共に汗が引いていきます。
獲物を見定める様な鋭い眼差し。
兄様の全身が肉食獣の様にしなやかに束ねられます。
そして、
「!! やるな、シャス」
濛々と立ち込める砂煙の中。
首元を狙った兄様の短刀を、
後ろ手に伸ばした木刀で防いでいた父様が称賛してました。
後ろ?
はい。
瞬く間に「背後」から襲い掛かった兄様を、父様は感知し防御したのでした。
上手く視認できませんでしたが、常在型である心眼(偽)スキルは確かに捕捉してました。
人智を超えたスピードで父様の背後を取った、兄様の俊敏な動きを。
ノルン家に伝わる独特の歩法で揺らぎを無くした兄様。
その膨大な魔力をまず地面に目掛け叩きつけます。
ファル姉様が水を撒いてるとはいえ、晴天の続く日々が多かった地面。
烈風に近い魔力の衝突に乾いた砂が舞い上がります。
視界を奪ったその隙を逃さず、全力で自らの背に向け魔力放出。
最早吹き飛ばされるといった速さで父様の脇を駆け抜けた兄様は、そこで逆方向に魔力噴射。
無形な魔力を足場にする様に展開し、無防備だった父様の背を狙ったのでした。
通常なら詰みの一手。
惜しむらくは……父様が引退気味とはいえ、人外レベルであるS級冒険者だったことでしょう。
心眼(真)や戦域把握などの戦術スキルを数多併せ持つ父様にはその動きは丸見えだった様です。
難無く致命的な一撃であろう攻撃を回避し、軽く兄様の頭を打ちすえます。
「あ、いたっ」
「はは、隙あり。
技は破られた時が最も無防備になる。
気をつけなさい」
「はい」
「そして……お前の負けだ、シャス。
実際、実戦だったら返しの太刀でズンバラリンってとこだな」
「そうですか……残念です」
「だが発想は良かった。
後は技量の向上とそれを後押しするスキルの取得だな」
「はい、父さん」
「ん……今日はここまでにしよう。
下がりなさい」
「はい!」
余程悔しいのか、少し涙目な兄様が私の方にやってきます。
私は兄様を元気づけるべく声を掛けます。
「す、すごいじゃないですか兄様!
今の絶対、父様ってば焦ってましたよ!?」
「あ……うん」
私の励ましに苦笑するシャス兄様。
何だかさらに落ち込んだ気が……
「あの……私何か……」
「いやユナが悪い訳じゃないんだけどね」
「はい」
「今日の実戦稽古で父さん側のハンデ条件が」
「ええ」
「闘気やスキル無しでの戦いだったんだよね」
「!! え……それって……」
「うん。間合いに入った瞬間、純粋に技量のみで捌かれた。
やっぱバケモノだね、父さんは」
頬を掻き自分を納得させる様に頷く兄様。
てっきり私はスキル等の恩恵だと思ったのに。
「こ、これがS級冒険者の実力……」
思考停止しそうになるのを強引に立て直します。
だってこんなの……
はっきり言ってチートですよ、ええ。
次の稽古は自分の番という事を踏まえ、
私は内心そう罵倒せざるを得ませんでした。
ノルン家恒例の朝の鍛錬の時間です。
最近は基礎訓練を終え、実戦を想定した本格的なものへと移行してます。
それ故にこのメイド服では不向き……というか場違いです。
洗い物を姉様と共に手早く済ませた私は、自室に戻り運動着に着替えます。
家の掃除と洗濯を始めてる姉様に一言詫びを入れつつ訓練場に向かいます。
そこでは既にシャス兄様が父様と稽古を始めてました。
幾度か試合をしたのか、兄様の顔は埃にまみれ汗だらけです。
せっかく汗を流してきたでしょうに……
そんな事を頭の片隅で考える私でしたが、
実際には目の前の二人に釘づけです。
今日はどうやら接近戦を想定してる様でした。
兄様の手に弓は無く、代わりに小振りな木の短刀が握られてます。
遠距離戦闘を主体とする弓使いにとって、
固有の射程圏を侵される事は死を意味します。
そうならない為に通常は充分な安全マージンを取ったり、
冒険者組合で仲間を募るのでしょう。
でも兄様は独りでも戦い抜く力を望みました。
そこで父様が提案したのが、弓を握ったまま片手でも素早く抜き放ち振り回す事が可能な短刀術です。
これなら利き手を邪魔することなく、且つ迅速に窮地に対応出来るからです。
確かに兄様は卓越した技量を持ち安定した力量を誇ります。
けどそれはいわば応用の無さ。
手札の数が少ないという事は持ち味を殺されやすいのです。
自らの至らなさを真剣に推し量り決断した兄様には心底感服してしまいます。
多くのスキルと能力に支えられてる私とは全然違います。
シャス兄様や父様。
更にはサーフォレム魔導学院に入学したミスティ兄様も。
皆、絶対の一を持ってます。
一方、私は汎用性に優れてはいますが……
どれだけ磨いても所詮一流止まり。
特定の条件がない限り、超一流には至れません。
ここで凹んでもしょうがない事でしょう。
ですがこれは今後の私のとって大きな課題となる筈です。
……話が逸れましたね。
思考に沈む私を余所に、いつの間にか二人は徐々に間合いを詰めていきます。
居合と呼ばれる抜刀術風に父様を狙うのか。
短刀を後ろ手に構えジリジリと足を進める兄様。
一歩ごとに汗をかき緊張してるのが窺えます。
反対に父様は余裕綽々。
涼しげな面差しで木刀を正眼に構えてます。
技量的にも精神的にも掛け離れてる二人。
ならば兄様に出来るのは全力を尽くす事です。
「行きます、父さん」
「ああ。来なさい」
覚悟を決めたのか、宣言と共に汗が引いていきます。
獲物を見定める様な鋭い眼差し。
兄様の全身が肉食獣の様にしなやかに束ねられます。
そして、
「!! やるな、シャス」
濛々と立ち込める砂煙の中。
首元を狙った兄様の短刀を、
後ろ手に伸ばした木刀で防いでいた父様が称賛してました。
後ろ?
はい。
瞬く間に「背後」から襲い掛かった兄様を、父様は感知し防御したのでした。
上手く視認できませんでしたが、常在型である心眼(偽)スキルは確かに捕捉してました。
人智を超えたスピードで父様の背後を取った、兄様の俊敏な動きを。
ノルン家に伝わる独特の歩法で揺らぎを無くした兄様。
その膨大な魔力をまず地面に目掛け叩きつけます。
ファル姉様が水を撒いてるとはいえ、晴天の続く日々が多かった地面。
烈風に近い魔力の衝突に乾いた砂が舞い上がります。
視界を奪ったその隙を逃さず、全力で自らの背に向け魔力放出。
最早吹き飛ばされるといった速さで父様の脇を駆け抜けた兄様は、そこで逆方向に魔力噴射。
無形な魔力を足場にする様に展開し、無防備だった父様の背を狙ったのでした。
通常なら詰みの一手。
惜しむらくは……父様が引退気味とはいえ、人外レベルであるS級冒険者だったことでしょう。
心眼(真)や戦域把握などの戦術スキルを数多併せ持つ父様にはその動きは丸見えだった様です。
難無く致命的な一撃であろう攻撃を回避し、軽く兄様の頭を打ちすえます。
「あ、いたっ」
「はは、隙あり。
技は破られた時が最も無防備になる。
気をつけなさい」
「はい」
「そして……お前の負けだ、シャス。
実際、実戦だったら返しの太刀でズンバラリンってとこだな」
「そうですか……残念です」
「だが発想は良かった。
後は技量の向上とそれを後押しするスキルの取得だな」
「はい、父さん」
「ん……今日はここまでにしよう。
下がりなさい」
「はい!」
余程悔しいのか、少し涙目な兄様が私の方にやってきます。
私は兄様を元気づけるべく声を掛けます。
「す、すごいじゃないですか兄様!
今の絶対、父様ってば焦ってましたよ!?」
「あ……うん」
私の励ましに苦笑するシャス兄様。
何だかさらに落ち込んだ気が……
「あの……私何か……」
「いやユナが悪い訳じゃないんだけどね」
「はい」
「今日の実戦稽古で父さん側のハンデ条件が」
「ええ」
「闘気やスキル無しでの戦いだったんだよね」
「!! え……それって……」
「うん。間合いに入った瞬間、純粋に技量のみで捌かれた。
やっぱバケモノだね、父さんは」
頬を掻き自分を納得させる様に頷く兄様。
てっきり私はスキル等の恩恵だと思ったのに。
「こ、これがS級冒険者の実力……」
思考停止しそうになるのを強引に立て直します。
だってこんなの……
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