59 / 89
沈思黙考みたいです
しおりを挟む
手の込んだジャレッドおばさんの美味しい夕飯。
様々な品々を心行くまで堪能した私は、
見送り申し出るおばさん達を丁重に断り、帰路に就きます。
満ちた月光の明かりに照らされる夜道。
通常なら照明がほしいところですが、常在型の暗視スキルを持つ私にとっては特に問題ないレベルです。
本当なら赤外線視力に切り替えたいところですが、アレは光度によっては目を傷めるので運用には注意が必要です。
夜目が利くから大丈夫という私に、念の為と持たされたランプをただ吊るしながら歩みます。
こうして一人歩いてると思い浮かぶのは今日一日の事です。
自分なりのスタイルを見い出せという父様の試練ですが、
シャス兄様やファル姉様の助言もあって曖昧ですがカタチになりそうです。
私は私。
他の誰でもない私流を貫けばいい。
そんな単純な事を気付かせてくれました。
ただ当たり前に私を支えてくれる、周囲の人々。
愛し愛される、あたたかな関係。
得難いその事に感謝する想いが胸を満たし、
ちょっとだけ足が弾みます。
メイド修行は大変ですけどやり甲斐がありますし、
店番も稀有な経験を積め楽しかったです。
けど私を鬱屈させるのはネットワークの事。
稀代の情報屋である銀狐と夕刻の情報交換で得た懸念事項の数々。
先行きの困難さに頭が痛くなります。
ここ数年。
私はナイアル様の指導の下、持てる才能を費やしてきました。
具体的には先物取引などの不確定な読みが必要な分野の交渉です。
一流の山師を遥かに凌駕する神懸かり的な推察と投資。
業界を騒がす謎の指し手<ホーリーアヴェンジャー>
様々な推測が為されてる様ですが……
その正体は『市場』の流れそのものをリーディングし、
エンドレスグローリーで優位に操作すべく鍛えた私でした。
リーディングをただ過去視するだけのものと捉えるのではなく、
自らの中でいかに解釈し育てていくのが重要なのか。
ギフトに宿る残滓とはいえ、ナイアル様には大切な事を学びました。
お蔭で裏世界に伸ばした種子がやっと芽吹いてきたようです。
対立する組織への調略・懐柔工作など問題は山積みですが。
ああ、そういえば組織の意識改革も課題ですね。
機会に恵まれず没落したものの、才能に溢れた組織の人達を思い出します。
埋没し死を待つばかりだった者達に援助するパトロン兼盟主たる私。
忠誠に溢れた有能な部下達ですが……
何というかアレ(厨二)なのです。
意味も無く寒い二つ名とかはホントに辞めてほしいです。
「無慈悲な女王と聖なる報復者。
どちらがよろしいですか、盟主様?」
等と真剣に大人から話される身にもなって下さい。
組織自体は拡大の一途を辿っているからいいものの。
「はぁ……」
思わず溜息。
まだまだ雲行きは怪しいようです。
そんな風に徒然と思案しながら歩く私でしたが、
「あれ?」
視界の外れ、村の外から流れる川に誰かが流されてる気がしました。
時折酔っぱらった冒険者が飛び込む時がありますが、
夜が肌寒いこの時期、そんな馬鹿な事をする者はまだいません。
気になった私は小走りで近寄ります。
「大変!」
そこには全身に傷を負って意識もなく川に流されている男の人がいました。
丈夫そうな赤い衣はズタズタで、出血こそないものの傷は深そうです。
私は急ぎ川岸にあった魚釣り用の小舟に積んであるロープを手に取ります。
投擲スキルと射的スキルを慎重に発動。
男性へ巧みに絡める事に成功し、渾身の力で引き寄せます。
「酷い……」
どうすればこのような傷になるのでしょうか?
男性に穿たれた、まるで巨大な咢に貪られた様な痕。
恐る恐る脈を取ると、微かな鼓動を確認できます。
しかし心音は微弱です。
一刻の猶予もないようですね。
私は手早く応急処置を施し、蘇生を促します。
「うっ……」
行為が功を奏したのか、男性が身動ぎをします。
良かった……
どうにか間に合ったようですね。
額の汗を拭い、一息を尽く私。
そんな私を余所に、うっすら目を開く男性。
歳の頃は20代半ばくらいでしょうか。
色素の抜けた様な白髪と焼けた赤銅色の肌が特徴的です。
現状把握に揺れ動く紅い瞳も印象的でした。
鋭い眼差しですが、根本はお人好しそうな感じです。
怪訝そうに周囲を窺う男性に、努めて優しく声を掛けます。
「まだ動いては駄目です」
「ここ……は?」
「ここはフェイムの村です。
貴方は意識も無く上流から流されてきたんですよ。
酷い傷を負って……
いったいどうされたのですか?
あと、貴方は何者です?」
「わた……し、か……?
わたしは……」
そこで男性は頭を押さえ苦悶します。
「ど、どうしたんです!?」
「思い出せない……
わたしはいったい……」
ま、まさか記憶喪失でしょうか?
今時ドラマでもお目に掛かれない症状ですが……
こうして身近に対象者がいると当惑しか出来ません。
苦悶が苦悩に推移する男性。
私は取り敢えず気による治療と、リーディングで男性の事を読み取ろうとして、
「きゃ!」
急に覚醒した男性に突き飛ばされました。
受け身を取って慌てて跳ね起きる私。
ですがその首元に、
「貴様……転生者だな?」
冷たく言い放つ男性が持つ、双刃が突きつけられていました。
いつの間に抜き放ったのか判別できないほどの熟達度。
父様に匹敵しようかという殺気。
それに男性が指摘する転生者か否かという誰何。
(どうしてその事を知ってるんです!?)
私は心の底から襲い来る恐怖に、
身震いする事を止められませんでした。
様々な品々を心行くまで堪能した私は、
見送り申し出るおばさん達を丁重に断り、帰路に就きます。
満ちた月光の明かりに照らされる夜道。
通常なら照明がほしいところですが、常在型の暗視スキルを持つ私にとっては特に問題ないレベルです。
本当なら赤外線視力に切り替えたいところですが、アレは光度によっては目を傷めるので運用には注意が必要です。
夜目が利くから大丈夫という私に、念の為と持たされたランプをただ吊るしながら歩みます。
こうして一人歩いてると思い浮かぶのは今日一日の事です。
自分なりのスタイルを見い出せという父様の試練ですが、
シャス兄様やファル姉様の助言もあって曖昧ですがカタチになりそうです。
私は私。
他の誰でもない私流を貫けばいい。
そんな単純な事を気付かせてくれました。
ただ当たり前に私を支えてくれる、周囲の人々。
愛し愛される、あたたかな関係。
得難いその事に感謝する想いが胸を満たし、
ちょっとだけ足が弾みます。
メイド修行は大変ですけどやり甲斐がありますし、
店番も稀有な経験を積め楽しかったです。
けど私を鬱屈させるのはネットワークの事。
稀代の情報屋である銀狐と夕刻の情報交換で得た懸念事項の数々。
先行きの困難さに頭が痛くなります。
ここ数年。
私はナイアル様の指導の下、持てる才能を費やしてきました。
具体的には先物取引などの不確定な読みが必要な分野の交渉です。
一流の山師を遥かに凌駕する神懸かり的な推察と投資。
業界を騒がす謎の指し手<ホーリーアヴェンジャー>
様々な推測が為されてる様ですが……
その正体は『市場』の流れそのものをリーディングし、
エンドレスグローリーで優位に操作すべく鍛えた私でした。
リーディングをただ過去視するだけのものと捉えるのではなく、
自らの中でいかに解釈し育てていくのが重要なのか。
ギフトに宿る残滓とはいえ、ナイアル様には大切な事を学びました。
お蔭で裏世界に伸ばした種子がやっと芽吹いてきたようです。
対立する組織への調略・懐柔工作など問題は山積みですが。
ああ、そういえば組織の意識改革も課題ですね。
機会に恵まれず没落したものの、才能に溢れた組織の人達を思い出します。
埋没し死を待つばかりだった者達に援助するパトロン兼盟主たる私。
忠誠に溢れた有能な部下達ですが……
何というかアレ(厨二)なのです。
意味も無く寒い二つ名とかはホントに辞めてほしいです。
「無慈悲な女王と聖なる報復者。
どちらがよろしいですか、盟主様?」
等と真剣に大人から話される身にもなって下さい。
組織自体は拡大の一途を辿っているからいいものの。
「はぁ……」
思わず溜息。
まだまだ雲行きは怪しいようです。
そんな風に徒然と思案しながら歩く私でしたが、
「あれ?」
視界の外れ、村の外から流れる川に誰かが流されてる気がしました。
時折酔っぱらった冒険者が飛び込む時がありますが、
夜が肌寒いこの時期、そんな馬鹿な事をする者はまだいません。
気になった私は小走りで近寄ります。
「大変!」
そこには全身に傷を負って意識もなく川に流されている男の人がいました。
丈夫そうな赤い衣はズタズタで、出血こそないものの傷は深そうです。
私は急ぎ川岸にあった魚釣り用の小舟に積んであるロープを手に取ります。
投擲スキルと射的スキルを慎重に発動。
男性へ巧みに絡める事に成功し、渾身の力で引き寄せます。
「酷い……」
どうすればこのような傷になるのでしょうか?
男性に穿たれた、まるで巨大な咢に貪られた様な痕。
恐る恐る脈を取ると、微かな鼓動を確認できます。
しかし心音は微弱です。
一刻の猶予もないようですね。
私は手早く応急処置を施し、蘇生を促します。
「うっ……」
行為が功を奏したのか、男性が身動ぎをします。
良かった……
どうにか間に合ったようですね。
額の汗を拭い、一息を尽く私。
そんな私を余所に、うっすら目を開く男性。
歳の頃は20代半ばくらいでしょうか。
色素の抜けた様な白髪と焼けた赤銅色の肌が特徴的です。
現状把握に揺れ動く紅い瞳も印象的でした。
鋭い眼差しですが、根本はお人好しそうな感じです。
怪訝そうに周囲を窺う男性に、努めて優しく声を掛けます。
「まだ動いては駄目です」
「ここ……は?」
「ここはフェイムの村です。
貴方は意識も無く上流から流されてきたんですよ。
酷い傷を負って……
いったいどうされたのですか?
あと、貴方は何者です?」
「わた……し、か……?
わたしは……」
そこで男性は頭を押さえ苦悶します。
「ど、どうしたんです!?」
「思い出せない……
わたしはいったい……」
ま、まさか記憶喪失でしょうか?
今時ドラマでもお目に掛かれない症状ですが……
こうして身近に対象者がいると当惑しか出来ません。
苦悶が苦悩に推移する男性。
私は取り敢えず気による治療と、リーディングで男性の事を読み取ろうとして、
「きゃ!」
急に覚醒した男性に突き飛ばされました。
受け身を取って慌てて跳ね起きる私。
ですがその首元に、
「貴様……転生者だな?」
冷たく言い放つ男性が持つ、双刃が突きつけられていました。
いつの間に抜き放ったのか判別できないほどの熟達度。
父様に匹敵しようかという殺気。
それに男性が指摘する転生者か否かという誰何。
(どうしてその事を知ってるんです!?)
私は心の底から襲い来る恐怖に、
身震いする事を止められませんでした。
0
あなたにおすすめの小説
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
魔王城すこや課、本日も無事社畜です!
ハルタカ
ファンタジー
過労で倒れた社畜女子シオンの転生先は、まさかの魔王城。
無邪気に暴虐無人な上司(魔王)のもとで便利屋事務員としてドタバタな日々を過ごすうちに、寡黙な悪魔レヴィアスの思わぬ優しさに惹かれはじめていた。
ある日、突然変異したモンスターの暴走によって魔王城での生活は一変。
ーーそれは変異か、陰謀か。
事態を解明するために、シオンたちは世界各地で奔走する。
直面したことのない危険や恐怖に立ち向かうシオンは、それを支えるレヴィアスの無自覚で一途な愛情に翻弄されて……?
働くことでしか自分を認められないシオンが、魔王城で働く魔物たちの心をほぐしながら自分の価値を見つけていくファンタジーお仕事じれ恋ストーリー。
安全第一異世界生活
朋
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん)
新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる