勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

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悶々しちゃうみたいです

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「いったい何の騒ぎだい、ユナ?」

 夕飯の後に入浴でも済ませたのでしょうか?
 少しラフな服装に着替えた父様が、廊下にへたり込む私と騒がしい玄関口を見て尋ねてきます。
 私は苦心して立ち上がると、父様の前に趣き非礼を詫びながら説明します。

「父様、騒ぎ立てて申し訳ありません!
 でも緊急事態なんです!
 行き倒れというか……
 怪我をして川を流されてた人を介抱したんですけど、
 一刻を争う容態なんです!
 父様なら救えると思って……」
「そういう事は早く言いなさい。
 怪我人は? マリーの診察室かい?」
「はい! 途中で会ったジャランさんと共にファル姉様が協力して」
「よし分かった。すぐに行こう。
 その前に……お~い、シャス!」

 自室にいるシャス兄様に父様が声を掛けます。
 只ならぬ事態という事は薄々感じてたのでしょう。
 すぐに応じた兄様が戸口から顔を覗かせます。

「どうしました、父さん?」
「急患らしい。いつもの準備を頼む」
「了解です。
 お湯と消毒液ですね?」
「ああ。後は回復薬と活性剤も頼む」
「はい。すぐにお持ちします」
「頼んだぞ。
 さあ行こう、ユナ!」
「はい!」

 父様と二人、広いノルン家の廊下を駆けます。
 すぐに見えてくる診察室。
 無礼を承知でノックをキャンセル。
 私達は飛び込むように診察室に入ります。
 そこには件(くだん)の男性がベットに横たわってました。
 傍らでは心配そうな様子のファル姉様が全身の水分をタオルで拭き取り、
 部屋を暖める為、ジャランさんが暖炉に薪をくべてます。

「カル様……」
「すみません、暖炉勝手に使ってます」
「ああ、二人ともありがとう。
 彼かね?」
「はい」
「じゃあ失礼して、と」

 手早く入口付近のハンガーに掛けられてた白衣を纏う父様。
 常備されてる消毒液が満ちた器に手を浸し滅菌すると、ベットに近付きます。

「これは……!」

 驚愕に顔を強張らせる父様。
 物事に動じない方の父様にしては珍しいくらいです。
 そんなにひどい傷なのでしょうか?
 私はそっと父様と男性の様子を窺います。
 しかしどうやら容態の悪さに驚いている様ではないみたいです。
 父様は目を伏せる彼の姿に驚いてる様でした。

「色素の抜けた様な白髪。
 錆びた赤銅色の肌。
 目の覚める赤装束の武装。
 そして……」

 男性の前で片手をあげ、無礼を詫びた父様が男性の目を手で開き覗き込みます。

「紅玉のごとき紅の瞳、か。
 間違いない彼は……」

 感慨深げに溜息を尽く父様。
 その様子が気になった私は思わず尋ねてしまいます。

「お知り合いの方なんですか、父様?」
「いや。直接的に知ってる訳じゃない。
 ただ昔、曾爺さんからな」
「曾御爺様って……確か」
「ああ、前大戦の勇者。
 復活した魔族の女王と戦った英雄だよ」
「その曾御爺様は何て?」
「我が子孫の前に<  >が現れるかもしれない。
 その時は一族をあげて支援するように、と」
「え……<  >って?」
「ん~……古代語らしくわたしも上手く発音できないんだが……
 それでも今風の言葉で無理やり言うなら」
「言うなら?」
「カウンター・ガーディアン。
 霊長の守護者、という存在らしい」

 告げるだけ告げると、すぐに父様は治療に当たります。
 私より高純度・高練度の気を用いた気功療法。
 男性の肌色が瞬時に色を戻し呼吸が安定していきます。
 様子を見守る私達を余所に、
 消毒液や回復薬等を掻き集めたシャス兄様がやってきました。

「お待たせしました、父さん」
「ありがとう、シャス。
 後はわたしがやるよ。
 お前はユナと一緒に部屋に戻りなさい」
「はい、分かりました」
「それとすまないが、ジャラン君とファル。
 完全に容態が落ち着くまで手伝ってもらえるかな?」
「そんな、カル先生。
 マリーさんには昔お世話になったし、
 こんなのお安い御用ですよ~」
「同感ですわ。
 今は何よりこの方の命を救う事に勤しみましょう」
「はは。ありがとう、二人とも。
 じゃあ……ジャラン君はそのままガンガンと薪をくべて部屋を暖めてくれ。
 ファルは回復薬に活性剤を混ぜ点滴の用意を頼む」
「「はい!」」

 活気に溢れ目まぐるしく動き回る三人。

「ほら、ユナ。
 ここにいても僕達は邪魔になってしまう。
 部屋に戻って待機してよう。
 何か急変があれば父さん達から指示がある筈だよ」
「そう……ですね」

 優しく背中を押すシャス兄様に連れられ廊下を歩く私。
 しかしその心中は嵐の様に揺れ動いてました。
 父様の曾御爺様が残した言葉。
 霊長の守護者<カウンター・ガーディアン>
 もしその言葉が本当ならば……
 その標的とは、私なのかもしれません。
 ナイアル様の慈悲でこの世界に転生した私。
 だけど世界は、その存在を許さないかもしれないから。
 例えるなら異物を除こうとする抗体反応。
 だからこそ男性は私が転生者と判別できた?
 矢継ぎ早に次から次へと推測が浮かびます。
 でも……

「あの人……とてもさびしそうな瞳をしてました」

 私に傅(かしず)き手を取り、無礼を詫び頭を下げた男性。
 その時に微かに見えた表情が……何故か気になります。
 悶々とした想いを抱えた私は、眠れぬ夜を過ごすのでした。
 



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