勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

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驚いちゃうみたいです

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 状況は一変しました。
 助っ人に現れた二人の手によって。
 執事服を纏い駆け付けたネムレス。
 まるでその服装が転職であるかのようにぴったり似合ってます。
 耽美なその佇まいに思わず見惚れるスタッフやお客様。
 私も一瞬カッコいいかも、とか思ってしまいました。
 しかし当の本人は慌ただしい店内を不敵に一瞥すると、
 すぐに持ち前のバトラースキルの本領を発揮し始めます。
 まず目をつけたのは女性客にからかわれ続けるワキヤ君です。

「手を貸そう」
「ありがとう、ネムレス兄ちゃん。
 忙しくて忙しくて、もうオレ……」
「いいから動け。
 そのような泣き言、聞く耳もたん」
「でも、オレはユナ達みたいに要領良くないし……」
「ならば、せめてイメージしろ。
 現実では敵わない作業ならば、想像の中で勝て。
 自身が勝てないのなら、勝てる動きを幻想しろ。
 少なくとも俺は、泣き言を愚痴る暇があれば身体を動かす」
「わ、分かったよ!」

 ネムレスの活に、死んだ魚の様な目をしたワキヤ君の瞳に輝きが燈ります。
 死力を尽くすように気迫の声を上げ給仕に戻るワキヤ君。
 先程までの精神的に屈し掛けた姿は見られません。
 堂々とした仕草で女性客にも毅然と向かい合ってます。
 その様子にネムレスは満足そうに頷くと、自らも給仕に回ります。

「お待たせしました、お嬢様。
 ご注文のクランベリーチーズケーキとレスカティーで御座います」
「あ、ありがとうございます……」

 どこの王宮給仕ですか? と、疑いたくなるほど洗練された動きで注文の品々を配膳していくネムレス。
 女性客は陶然とした視線でその姿を追います。
 顔立ちは整ってますし、声も凛として張りがある。
 そうか……今更気付きましたが、こうしてると彼は普通のイケメンですね。
 出会いが最悪なのですっかり失念してました。
 その後も厨房に、仕込みに、片付けにと獅子奮迅たる活躍ぶり。
 私は彼をバックアップするように動けばいいので、店内の回転率が大幅に上昇しました。
 彼の参戦だけでもかなり店内の雑務処理能力が全然違います。
 しかし何と言っても、今までと違う最大の売りは、

「い、いらっしゃいませ~
 ようこそ喫茶アズマイラへ」

 店の看板を持って呼び込みをしてる超絶美少女メイドでしょう。
 濡れ羽色に輝き風に棚引く長い黒髪。
 憂いを秘めつつ恥じらいに染まるその面差し。
 少女期特有の幻想を一身に具現化したような神秘的な容姿。
 それは初めてなのにメイド服を完璧に着こなしたシャス兄様、
 もとい今はシャス姉様でした。
 正直冗談で行った(見て見たくはありましたが)メイド服女装でしたが、
 母様譲りの美貌と兄様の中性さも相まって凄まじい化学反応を起こしてます。
 っていうか……私よりも可愛くありませんか、この人?
 特にスカートが履き慣れない為か内股で身を捩る姿は、
 こう……なんていいますかね……うふふ。
 あ、実の兄様に欲情はしてませんよ?
 ただね……もう辛抱たまりません! って感じです。
 現にお客様の中にも、

「は、はうぅ~~!!
 お、お持ち帰りしたいぃ~~!」
「駄目だよ、レイナ!
 ほら、ケーチ!
 早くこいつを縛って!!」
「何でおれが……」
「お、お願いぃ~!
 後生だから~~~~!!」

 奇声を発し騒ぎ立てて、パーティ仲間と思わしき魔術師さんに術式で束縛される女性冒険者(斧使いの戦士さんみたいです)もいます。
 まあ何だかんだありましたが、どうにか閉店までは持ちそうですね。
 安堵の溜息を尽きながらパンケーキを焼いていた私でしたが、

「ユナちゃ~ん。
 お客様からの御指名ですよ~」

 というコタチちゃんの言葉に慌てて厨房から出ます。
 御指名?
 まだ名前も知られてないのに、いったいどなたでしょうか?
 疑問を抱きながらも楚々たる仕草で駆け付けた先、
 テーブル卓に優雅に腰掛けた男女を見て私は驚愕するのでした。
 

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