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第8章 のろのろ帰還と運命の再会?
第003話 ゼルアス侯爵領に迫る影
しおりを挟む「――聞かなかった事にするわ。先に進むわよ」
頭痛を抑える様に額に手をやり、そう決断し昼食も食べずに颯爽と馬車に乗り込んで行った。
「ビアンカお嬢様、……宜しいのですか?」
「私が動く事では無いでしょう。お父様に任せるわ」
「ですが詳しく聞いた所、まだ領都まで情報が行っていない様です。(ビアンカの父親の)グランツ様に情報が行って迷宮にまで人を寄越すのにどれだけ掛かるか分かりませんよ」
「何で詳しく聞くのよ! 行かない訳にいかなくなったじゃない!!」
「仕方がありません。王女様に何かあれば国がどう動くか分かりません」
「ヒストロスは私なら何かあっても良いと言うのね!?」
そう言ってビアンカはヒストロスを睨み付けるが、アデール王国からビアンカの執事長として付き添って来たヒストロスは動じる事無く言葉を続けた。
「何もビアンカお嬢様自身が迷宮に潜る必要はありません。人を集め、迷宮まで救助に向かったと言う実績があれば王家に誠意を示せますので」
「――はぁ、……アイリスちゃんが居なくても事は起こるのね。いえ、結局アイリスちゃんも関わって来るのだから、アイリスちゃん絡みの案件にもなるのかしら?」
結局面倒事に巻き込まれたビアンカは、後ろの馬車に乗り込んでいるアイリスに恨みがましい視線を送って呟いていた。
勿論アイリスには届いていないし今回は風評被害も良い所だろう。――言いたくなる気持ちは分かるが。
今アデール王国は内に外に荒れている。外はフォシュレーグ王国と戦争、内は王都を発端とした内乱状態だ。
ラージヒルド商業王国がリアースレイ精霊王国から奪った飛空挺を国王に献上すると言って王都内で戦闘を起こし、実際に奪ってしまった。
それを期にリアースレイ精霊王国が撤退、城の文官が使用する紙や精霊神社や治癒院での安価な治療などを含め、様々な物資に多大な影響を出していた。
それだけでも大問題だが、それ以上に問題になったのは何時まで経ってもラージヒルド商業王国が奪った飛空挺を飛ばせなかった事だ。
それに痺れを切らした国王が、ラージヒルド商業王国の重鎮達を次々と処刑してしまったのだ。
ルードルシア教王国もリアースレイ精霊王国が囲っていた回復魔法の使い手を奪い、神聖教会で奴隷にして使おうとしていたのが庶民にバレて暴動を起こされた。
ルードルシア教王国の神聖教会やラージヒルド商業王国の関連施設が次々と襲撃、破壊され、王都に住む貴族達も家を兵士で取り囲み警戒している状態だ。
そんな中では商人達の足も遠のいていくと言うもの。当然物価も急上昇していき、更に治安が悪化すると言う悪循環に陥ってしまっている。
そんな国が混乱にある最中、ゼルアス侯爵は動いた。
ゼルアス侯爵領は王都の北隣りにある領地でゼルアス侯爵家自身も王家の血を色濃く残す特殊な家であった。フォシュレーグ王国やカントラス王国であれば低いながらも王位継承権を持ち、公爵位を得られていた家柄なのだ。
公爵位とは王家の予備。第二の王家とも言うべき家で、本来なら我々はもっと敬われるべきなのだとゼルアス侯爵は常々不満を口にしていた。
それが国の混乱を見て「現アデール王国王家の存続を諦め、自らが立ち上がるべき」と兵を率いて城に向かってしまったのだ。
「暗愚な王家を廃せば王都民は我等を受け入れるだろう! 内乱が収まれば後はフォシュレーグ王国を叩き出すだけだ!! ブラン侯爵を此方側に再度裏切らせれば侵略しているフォシュレーグ王国軍を分断出来る! 我等の力で国を取り戻すぞ!!」
「「「うおおおおおーーーーっ!!」」」
そうして意気揚々と兵を駆り出す様を、ゼルアス侯爵家の3男ダントルは厳しい目で見ていた。
ダントルは王都の第二学院入学試験の折りアイリスに絡んで決闘騒ぎを起こした末に敗北、父親に見放され自領の学院に入っていた。
更にその後、フォシュレーグ王国へ進攻する際も参加を命じられてしまっている。ゼルアス侯爵家が戦争に参加したと言う実績を得る為で、ダントルが死ねばそれもまた良い宣伝に使えると考えての事だった。
フォーシュレーグ王国から逆進攻を受ける前に帰還していた為に一切危険無く帰る事が出来たのだが、多くの凄惨な現場を目にした事で傲慢な性格は鳴りを潜めていた。
理不尽な事など目の前に幾らでも転がっているのだと実感してしまったのだ。
現在ゼルアス侯爵領の領内には直系がダントルしか居ない。皆父親に付き従って王都へ向かってしまったのだ。
現王家を廃してしまえばそのまま自分達が王家に成り代わるつもりだ。行かなければ侯爵家で終わってしまうのだから当然だろう。
「それで、ダントル様は何で行かなかったんで?」
「知っているだろう? 侯爵家での俺の扱いを。未成年の俺に戦争に行かせるくらいには疎ましく思われているんだ。行った所で扱いが変わる訳でもないだろうしな。……実際、声も掛からなかったし」
ここはゼルアス侯爵領の学院の一室、ダントルと取り巻きの者達で集まっていた。取り巻きとは言っても下位貴族の3男以降や商人の子息達である。兄達が高位貴族の子息令嬢を侍らせているのとは大きな違いだ。
元々は傲慢な性格もあり皆が遠巻きにしていたが戦争後、焦燥感に溢れたあまりの変わり様に普通に心配され声を掛けられる様になった。そしてダントルも次第に心を許し打ち解けていく様になっていったのだ。
彼等が政争とは無縁の立場であった事も互いに色眼鏡なく付き合えた要因だろう。
父親に次問題を起こしたら家を放逐すると脅されていた為に、傲慢な態度であっても一線を越える様な事が無かったのが此処に来て功を奏していた。ダントルが父親に感謝する事は無いだろうが。
「でも上手い事王都を治められたら王都は安定するかも知れないっすね」
ダントルから見て父親は愚鈍では無い。現王家の評判が地に落ちている今動くのは根回しも充分に整ったと言う事だとは思う。
「だが王位に目が眩んでいるとしか思えん。問題はその後だろう」
「フォシュレーグ王国、ですよね?」
「父上は裏切ったブラン侯爵を此方に更に寝返らせると言っているが、勝算はあると思うか?」
「んんー、何か確約があるんなら別ですけど、そうじゃないと無理じゃないっすかね。勢いがあり過ぎますもんフォーシュレーグ王国。ブラン侯爵どうこうのレベルっすか?」
「確約、か」
「ゼルアス侯爵ってブラン侯爵と仲が良いんですか?」
「――無いだろうな。ブラン侯爵は貴族派の重鎮。父上は王家の血筋も濃いし一応王族派だ。ブラン侯爵は東の辺境で王都近郊を治めるゼルアス侯爵領とは派閥も違えば領地も離れ過ぎていて付き合いはほぼ無い筈だ」
「うわ、怪しい~。やっぱ詰んでません?」
「だが、ブラン侯爵を取り込めればフォシュレーグ王国を追い返せるのではないのか?」
「いやいや、そんな簡単なもんじゃないと思いますよ? リアースレイ精霊王国が撤退してしまってるのにラージヒルド商業王国とも微妙でしょ? 経済的にも大ダメージ負ってますしフォシュレーグ王国が退く理由が無いですよ」
商人の子息の少年は、父親から王都の混乱がゼルアス侯爵領にまで飛び火して、経済的に大きなダメージを負っているのを聞いていた。
「現状同国人同士で戦わされているだけで、フォシュレーグ王国には対してダメージ無いでしょうからねえ。ブラン侯爵がこっちに寝返ったとしたら本格的に攻めて来るんじゃないんですかね?」
シャルロッテは切り取った北部の領地から徴兵していたが、レンリート伯爵軍と数で囲って降伏をさせて来たので戦闘自体はほとんどしていない。
そう言う意味では同国人同士で戦わせてはいないが、レンリート伯爵軍も無傷のまま今まで侵攻しているので殆ど正解と言って良いだろう。
「あれ? そうなったらブラン侯爵の領地ってアデール王国とフォシュレーグ王国に挟まれて戦場ど真ん中になりません?」
「うーわ、俺なら絶対寝返らないっすね」
下位貴族の子息も父親から下位貴族同士のネットワークで得た戦争の情報を聞いていた。
「だが、母国を守る為だぞ? 父上が厚遇を約束すれば……」
「その約束が守られる保証が無いですし、――それで勝てるとも限りませんよね?」
「既にこの国じゃ裏切り者の烙印が押されていますし、フォシュレーグ王国から厚遇される約束は取り付けているでしょうしね」
「――止まらんか」
父親がブラン侯爵をどう此方に引き戻すつもりなのかは分からないが、話しを聞くとダントルからも現状手遅れの様に思えた。そう考えるとダントルは顔をしかめる。
自分が参加させられた戦争では、殆どの時間を馬車の中で過ごしていただけで何もしていない。
だが未成年の自分に戦争に参加させた父親に強い憎しみを感じていた。そして成人している癖に戦争にも行かず、自分より偉そうにしている兄達に対しても憎くて堪らなかった。
だが、一番理不尽だと感じたのは戦場で戦争に巻き込まれた子供達だったと、馬車の中からその惨状を見た時に思ったのだ。
だがこのままだと、それよりも遥かに多くの惨劇が繰り広げられていくだろうな。
「――父上がフォシュレーグ王国とどんな交渉をするか」
「王都まで踏み込まれてたら交渉とかしますかね。フォシュレーグ王国が」
「ずけずけと遠慮が無いな貴様等、俺じゃなかったら無礼打ちだぞ」
「いやいや、俺等も入って来た頃の旦那相手ならこんな口利きませんて」
「誰が旦那だ! 同い年だろうが!!」
たった数人だがダントルが庶民や庶民に近い立場の者達と軽口を叩ける様になったのは進歩かも知れない。
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